世界だけど…
空っぽな頭で無抵抗な男。
人生はずうっと一定のスピードで、何も変わるわけもなく(そりゃ自分で動かないから)一日をずうっと過ごしていた。
空っぽな心で無神経な男
人のやさしさを足で踏んずけて、気に入らない物はことごとく切り捨てて、利益になる安い商売にペコペコ頭を下げるだけである
(持続力もくそもないからね。)。
横目で見る努力する人たちは、必死になって急いでいる
自分のため、人のために、不安と希望を背負っている
男には努力もなにもない、自分だけの世界にただ漂っている。
手を付けるも中途半端に、足をつけるも半歩だけ。
振り返ってみれば、男の世界には何も積み上げてきたものが無い。
中途半端な砂のお城だけ。今にも崩れそうな砂のお城だけ。
ブラックアウト。
「してまた逃れられると思っているのか。都合がいいね、甘いな。」
暗闇の中から、40代半ばくらいのランプを携えた人がゆっくりと近づいてきながら言った。
「また逃げていくのかい?」
『誰ですか』
男は問い返した。
「気づかないのか、君の足元」
ランプの人は男の足元に向かって指をさした。
『僕の足元がどうしたんですか?ここは僕の土地ですよ?不法侵入ですよ?』
男は愛想悪く答えた。
ランプの人はふっと笑い、やがて真顔になり喋った。
「ここは誰の土地でもないよ、君が勝手に線をひいて自分の土地だと言い放ってるんじゃないか、不法住居者はだれだよ、君だろうが。」
『あっ。』
暗闇は次第に薄れていき、世界がぼんやりと現れた。
驚く男を笑い、かなり強い口調で言った
「やぁやぁ勝手に都合よくだらだら楽しく過ごして満足そうに。孤独がカッコいいとかぬかすのは、君の足元から100世代早いわ(笑)。都合の悪いこと、せっかく手を付けた何にも代えられないことを、赤の他人を見て賢人ぶって途中で辞めちゃうのかい?すごーく勿体ないよな。勝手に線引きした世界でマスターベーションをして寝て一生過ごしてろ!ボケ!」(ヒステリック)
『…』
ランプの人が言い放った言葉に男はぐうの音も出なかった。
膝から崩れている、男の生気の無い顔を見てランプの人はさすがに言い過ぎたかと思い、声色を変えて男の肩に手を添え、
「明日があるさ、まだ若いから安心しな、とは言いたくはないけど。中途半端に手を付けたあるいは、諦めたことは今からでもできるんじゃないかな。あたり前な事しか言えないけど。都合の悪い壁を乗り越えようとせず、壊そうとせずに大きな布をかけて放置すれば、また同じ場面おなじ心持ちの時に埃をかぶったその壁が現れて、君の行く手が阻まれるだろう?そしてまた同じことをする。これは今の君だ。心の奥底に少しでも向上心があるならば、何も迷う必要はない。ただただそびえる壁を登って登って壊して削って、最終的には彫刻にしてもいい。とにかく、人生のある中間地点(かな?)に来て立ち止って振り返ってどれだけ、自分のしてきたことが跡として残っているかが大事なんじゃないか?」
とランプの人は何食わぬ顔で言いい、
「じゃあなー」と一言だけ残してぼんやりとした景色に溶けていった。
男はふうっと息を吹き返したかのように我に返り、深呼吸をして、しばらくハッキリと目に映った景色を真剣な眼差しで見ていた。
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