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国産材製材の“実力”を豆原会長と考える・さらなる飛躍への課題(下)

前回からつづく)乾燥されたムク材(KD材)と集成材に需要が集中する中で、国内製材業界の進路をどう描けばいのか。豆原・遠藤両氏の対論は、山元との連携強化を前提にした、新しい製材ビジネスモデルの構築へと展開していく。

山を犠牲にした低価格が問題、ムク柱5万円台も可能に

 
遠藤教授
  国産材がグローバル競争の中で再生を果たすためには、トータルで外材と競争できる低コスト供給体制をつくることが必要だというご指摘には同感です。そこで問題になるのが、山との関係、端的に言って伐出した丸太価格の安さです。今、九州では㎥当たり6,000〜7,000円が平均価格になっており、これでは再造林費が出ません。本来は、伐採と植林の持続的なサイクルの中で製材業に安定的に丸太を供給し、国産材の競争力アップを図るべきなのですが、極めて歪な姿になっています。
 
豆原会長
  確かに、山の犠牲の上に成り立った低価格が製材業を支えている面があり、これでは長続きしないでしょう。やはり、スギの丸太価格は㎥当たり1万円は最低ほしい。そして、山元立木価格が5,000円、伐採・搬出経費はコストダウンを徹底して5,000円というのがギリギリの線ではないでしょうか。これを前提に、製材業界も再生産可能な価格構成を考える必要があります。

   北欧ラミナを原料にした集成管柱の販売価格が1本1,800円とすると、㎥当たりの原価は5万5,000円〜5万6,000円程度になります。一方、北関東の大型製材工場では、ムクのKD柱材を原価5万円割れで供給していた一時期もありました。先進的な事例ではありますが、価格面でムク製材は十分勝負できる段階に来ています。あとは、品質・数量などの安定性で住宅メーカーから信頼を得られれば、外材にひけをとることはないでしょう。

契約購入・販売の時代、「柱取り」一辺倒は見直せ

遠藤 
  再造林のできる山元立木価格を維持するためには、需給調整機能が必要になります。需要動向に合わせた出材ができないと、価格の乱高下を招き、結局は安値で買い叩かれることになります。補助金をあてにした出材が多くなってきたことも、マーケットニーズから乖離する要因になっています。
 
豆原
  今までの製材業は、見込み生産が主流でした。しかし、プレカットが木材流通の中心になったことで、見込み生産は通用しにくくなりました。住宅メーカーなりプレカット工場から、今期はこれだけの数量がいるという注文が来て、柱はこれだけ、土台はこれだけと納める契約販売が主流です。したがって、ある程度の丸太供給ロットがまとまる森林所有者や素材生産業者と前もって購入契約を結ぶことが必要になっています。
 
遠藤
  日本の林業は、いわゆる「柱取り」をメインにしてきました。しかし、ムクのKD材と集成材が需要の中心になったことで、山づくりのあり方も見直す必要があります。伐期の考え方なども、従来の“常識”にとらわれてばかりでは通用しなくなるでしょう。
 
豆原
  これからは、柱主体から集成材や内装材向けの木もつくるという林業も考えていくべきでしょう。今の木造住宅で使われる柱材の80%は集成材やLVLで、ムク材の割合は20%弱と言われています。「柱取り」林業で生産される原木を使う分野が非常に狭くなっているのが現実です。製材品を幅広く活かせるよう分野を広げていかなければなりません。

進む寡占化、「産地」から「企業」の競争へ突入

遠藤
  昭和55年の木材不況からバブル景気とその崩壊を経て、日本国内の外材産地は様変わりしました。例えば、日本海側の北洋材製材産地が富山県に一極集中するなど、苦しい中でそれなりの再編努力をしてきました。ひるがえって、最近の国産材製材工場の規模拡大は、将来を見据えた資本投下と見ていいでしょうか。

豆原
  最近目立つのは、北関東の数社と九州の数社が、5億円、10億円という積極的な設備投資をしていることです。これまで、力のある製材業者は乾燥施設の整備を進めてきましたが、さらに一歩先の資本投下に踏み出しています。そこには、製材業である程度儲かる、原料も販売先も確保できるという見通しがあるのでしょう。

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豆原「フィンランドの山元立木価格は㎥当たり6,500円だという。再造林可能な価格を実現したい。」

  ただし、規模が大きく条件の整っているところは成長するが、そうでないところは廃業に追い込まれるという2極分化の傾向が出ています。森林資源は増える一方なので、製材業者が減っている分、力のある企業は規模拡大ができるという側面があり、寡占化が進んでいます。
 
遠藤
  日本林業を再生させるシナリオとして、中小規模を含めた製材業の振興が不可欠であることは言うまでもありません。ただし、従来の産地ブランドや役物頼みでは展望が開けない。質・量・価格の安定供給が生き残りの条件になってくると、今までの国産材産地の枠内ではとても対応しきれない。その中で、既存の産地に代わって個々の企業が前面に出てくるようになりました。従来の産地間競争の時代から、企業間競争の時代に突入した感がします。

豆原
  そういう見方も必要です。これまでの製材業界は、いかに安く原料(国産材)を入手するかに腐心していました。ここで切り替えて、林業が再生できるシステムづくりに、製材業界全体の努力を振り向ける時です。そのためには、繰り返しになりますが、1万円の丸太でも利益の上がる合理化を実現することが必要です。

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遠藤「国民の間に、製材業が『山を荒らしている』との認識が出てくることを懸念している。」

遠藤
  スウェーデンやフィンランドでは紙パルプ業と製材業が密接に結びついていて、端材に至るまで有機的に丸太を利用しています。こういう仕組みも必要でしょう。

豆原
  原油価格の高騰が続き、製材端材は廃棄物ではなく燃料だという認識が広がっています。とくに、ムク材の乾燥では燃料コストの縮減が課題になります。国産材という資源を効率的に循環利用する拠点として、製材業には新しい可能性があると確信しています。

『林政ニュース』第298号(2006(平成18)年3月22日発行)より)

遠藤日雄・2020年のコメント

「前半がムクKDか集成材か、後半が山を犠牲にした丸太の低価格をどう克服するかの緊張感あふれる『ルポ&対論』であった。豆原会長は、スギの(平均)丸太最低価格1万円、山元立木価格5,000円、伐出・運搬コスト5,000円(いれもm3当たり)を提示している。この『ルポ&対論』から15年が過ぎ、わが国のスギ林業は豆原会長が指し示した姿に近づいてきているのではないか。現在の価格水準を踏まえて、皆伐跡地の再造林を進めていなかければならない。私は、スギ丸太価格1万5,000円がそのための損益分岐点だと考えている」

次回はこちらから。


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