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国産材製材の“実力”を豆原会長と考える・さらなる飛躍への課題(上)

国産材の供給量が確実に増え始めている。平成17年の木材自給率は7年ぶりに20%台に回復する見込みだ。国も「林業・木材産業の再生」を来年度予算要求の柱に位置づけている。では、今の国内製材業界はどのような状況にあるのか。国産材復活の兆しがみられる一方で、廃業・倒産に追い込まれる製材業者も後を絶たない。

そこで、昨年3月に大手国産材製材業者が大同団結して発足した「国産材製材協会」(第266号参照)を率いる豆原義重会長と遠藤日雄・鹿児島大学教授に、現状と今後の課題を論じ合ってもらった。

生きる道はKD材か集成材、ビッグビジネスも台頭  

遠藤教授
  阪神大震災が起こった平成7年の秋、当時、西日本国産材製材協議会の会長であった豆原さんは「スギの製材が生きる道は、ムクの乾燥材か集成材以外にない」と明言されていました。あれから約10年がすぎ、豆原さんのご指摘のとおり、国内市場は、ムクの乾燥材(KD材)か集成材以外は受け入れない状況になっています。かつて、ともにグリーン材(GR材)であるスギと米ツガが競っていた頃とは、土俵が全く変わってしまいました。国産材製材協会が中心となっているスギKD化の太い流れができ、一方でスギの集成材工場も全国で10を数えるまでになっています。まず、この10年を振り返って、どのようにお感じですか。

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遠藤日雄(鹿児島大学農学部教授)

豆原会長 
  確かに、10年前に申し上げたような状況にはなっていますが、現実はなかなか進まないなという思いもあります。今でも、乾燥材の市場シェアは16%程度しかありません。この10年間、国内の製材業界は何をやっていたのか。私の地元である岡山県でも、業界のトップリーダーは、乾燥の必要性を再三訴えてきたのですが、ほとんどの製材工場はなかなか重い腰をあげないのが実情です。

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豆原義重(国産材製材協会会長、院庄林業(株)取締役会長)

遠藤
  平成8年のいわゆる「駆け込み需要」による好況を最後に、国産材製材業界は苦難の道を歩んできました。それがここにきて、製材規模を拡大する動きが目立ちます。福島県の協和木材(株)は、私募債を募り、日本政策投資銀行の融資も受けて事業規模を拡大しています。また、本誌第294号でも報じている栃木県の(株)トーセンは、群馬県の藤岡市に大型の木材コンビナートをつくりました。脱落する製材業者が多いという現実はあるものの、製材業というものが、資本を投資する対象としてみられるようになってきています。

豆原
   旧来の「製材所」ではなくて、他産業と同じレベルのビジネスを展開する「木材産業」になってきています。企業間の格差はありますが、力をつけている企業は収益性も上がっています。トップクラスの製材業経営者の方々と話をすると、皆さん非常に自信を持っている。それが、積極的な設備投資に現れているのでしょう。

  その中で、国産材製材協会のメンバーの大半は、基本的に、構造材ないしは内装材をメインにして事業拡張を図る方針をとっています。将来的には、集成材も手がけるかもしれないが、現段階ではムク製材に注力するというスタンスがみられます。

ムク製材VS集成材?棲み分けは可能か 

遠藤
  今のご指摘は、非常に重要です。かりに国産ムク製材がさらに規模を拡大した場合、集成材との関係はどのようになっていくのでしょうか。今の国産材製材業界内の構造変化は、GR材がKD材に置き換えられている過程だと思います。この置換が飽和状態になったとき、つまり、国産材製品の大部分がKD化した場合、国産ムク製品と集成材は競争関係に入るのではないでしょうか。あるいは、一種の棲み分けが形成されるとお考えですか。

豆原
  国産材製品を選択する決定権は、ユーザーである住宅メーカーが持っています。その視点からみると、精度や品質・性能では、集成材にかなうものはありません。一方、コスト面では、ムク製材に勝ち目があります。あとは、樹種の特性や住宅市場の地域性、商習慣などを加味して選ばれることになるでしょう。

  今のところ、日本ではB材を集成材用のラミナにしていますが、ヨーロッパではA材をラミナにしています。もし、日本国内の木材価格体系が変わってくれば、ヨーロッパのようにA材を原料にして集成材をつくるということが起こるかもしれません。

  現状でいえば、A材をそのまま乾燥して製材した方が安いし、市場での競争力もある。ただし、スギのように強度上の弱点があるものは、B材の割合が高いので、集成材化も常に視野に入れておかなければなりません。また、暖かい地方のスギは、このところアリクイの被害が多くなってきています。近年の気温上昇の影響かもしれませんが、こういう樹種になるとムク製材オンリーでいくのは難しい。集成材化とか合板化という利用法を考えざるを得なくなります。  

プレカットの伸長、住宅工法の変化に対応する 

遠藤
  今の住宅部材供給の中心はプレカット工場です。ここでは、いわゆるエンジニアード・ウッド(EW)が求められ、曲がりとか捻れのある材は嫌われます。プレカットの拡大が、集成材の進展につながっている大きな流れがあります。

豆原
  プレカット部材を軸にした住宅工法が主流になったことは、国産ムク製材にとっては大きな痛手です。施工の省力化やコストダウンを時代が要請した結果ですからやむを得ませんが、ムクの製材品を使っていただく立場からすると、非常に厳しい状況になっていることは間違いありません。

  その中で、ムク製材が生き残っていくためには、まず、KD化も含めて、きちんとした精度の製品をつくること。次に、安定供給ができる体制をつくること。それも、安定価格でないと取引の対象になりません。さらに、外材に勝てるコストダウンの努力が不可欠です。その場合、製材加工分野のコストを下げるだけではなくて、山元の伐採・搬出から流通・販売体系までを含めて、トータルで外材と競争できる低コスト供給体制をつくることが絶対に必要です。

『林政ニュース』第297号(2006(平成18)年7月26日発行)より)

次回はこちらから。


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