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院庄林業のブランド力と競争力・上

美作(岡山県)・院庄(いんのしょう)。元弘の変に敗れた後醍醐天皇が隠岐に配流される際、備前の土豪・児島高徳が「天莫空勾践。時非無范蠡」の十文字を刻んで奉じたという伝承地だ。その由緒ある地名を冠した院庄林業(株)(豆原直行・代表取締役社長、岡山県津山市)は、自他ともに認める日本一の国産材製材企業である。同社が全国的な注目を浴びたのは1980年代以降、「量・乾燥・品質・規格」の面で群を抜いた製材品(ヒノキ柱、土台、通し柱)を世に送り出し、ヒノキ角類構造材のブランド化に成功してからである。その後、平成4年の農林水産祭で天皇杯を受賞、その「ブランド」を不動のものとした。しかし、院庄林業の真骨頂は、その栄誉に甘んじることなく、時代の変化を的確にとらえて「ブランド」にさらに磨きをかけてきたことにある。では、「院庄」ブランドの真髄とは何か?

遠藤日雄・鹿児島大学教授が同社を訪れ、豆原社長との対論を通じて、この点を明らかにする。そこには、これからの国産材の進路を探る上でのヒントが散りばめられている。

ヒノキ6m柱で独走、「乾太郎」は13万〜14万円/㎥

  院庄林業(株)の本社事務所を訪れた遠藤教授を、豆原社長は車で、津山市久米工業団地の一角にある久米工場へと案内した。ここには、製材事業部(平成13年稼働)と今年8月にオープンして話題を呼んでいるインノショウフォレストリー(株)くめ工場がある。

  まず、豆原社長は製材工場へと足を進めた。この工場は、本社工場のヒノキ長尺(6mの通し柱)製材分野を移転したものだ。このほか柱(3m)、土台(4m)も製材している。久米工場のヒノキ丸太消費量は年間24,000㎥で本社工場を合わせると58,000㎥に達する。

遠藤教授 
  全国的にみてヒノキ6mの製材工場そのものが少ない。九州でも1社しかないはずだ。院庄林業が生産量トップと聞いている。6mの流通量が少ないぶんレッドウッド(欧州アカマツ)や米松、集成通し柱にシェアを奪われている。そんな中で「院庄」ブランドを維持している理由は何か。

豆原社長
  厳しい品質管理の一語に尽きる。通し柱だけでなく柱、土台などのヒノキ角類構造材は100%KD(人工乾燥)製品だ。

遠藤 
  品質管理の中味は?

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ヒノキ通し柱の説明をする豆原社長(右)

豆原
  丸太の仕訳、製材後の粗挽き段階での重量選別、乾燥後モルダー仕上げ後の品質・グレード区分、出荷時点でのチェックなどあらゆる段階で厳しい基準を設けている。

遠藤 
  6mの「売り」製品は何か。

豆原 
  乾燥、無背割りの「乾太郎」だ。弊社の6m通し柱の3割を占める。神奈川、広島、九州などの有力地域ビルダーに販売しているが、引き合いが多く品薄状態が続いている。  

遠藤 
  最近の市況では、ヒノキ6mKDが11万円/㎥、レッドウッド集成通し柱が9万5000円/㎥といった居所ではなかろうか。その中で「乾太郎」の価格は?

豆原 
  13万〜14万円/㎥だ。

遠藤 
  驚いた。それだけ地域ビルダーから高い評価を受けているということか。ヒノキでは他を寄せつけないという「院庄」ブランドの実力の一端が窺える。同時に、品質管理の徹底によって国産材価格が上がるということを改めて痛感した。

「縁を切る」「養生」が品質管理のキーワード

  ほんの数年前まで、院庄林業は丸太の消費量でも日本一であった。最近でこそ、北関東や南九州のスギ量産工場の後塵を拝する形になったが、豆原社長の話によれば、原木調達さえできれば、今すぐにでも年間7万〜8万㎥の丸太消費は可能だという。

  工場を案内しながら、豆原社長は何度か「一旦縁を切る」と「養生」という2つの言葉を口にした。院庄林業があえて丸太消費量の増加にこだわらない理由がこの言葉に隠されているようだ。

遠藤 
  「縁を切る」とはどういう意味か?

豆原
  製材工場の生産性をアップさせるためにはスピードが大事だが、生産過程の必要な箇所で「一旦縁を切る」ことは品質管理を徹底する上できわめて重要だ。前工程と「一旦縁を切」り、出てきた製品をもう一度人間の目でみて欠陥品を排除する。そして次の過程に送るという作業が欠かせない。

遠藤 
  そこまで徹底しているのか。

豆原 
  「院庄」ブランドの信頼性を失わないためだ。

住宅メーカーからのクレームを通じブランドを磨く 

 続いて、豆原社長は、遠藤教授を製材品の保管庫へと導いた。幾多の工程で品質管理された柱角、土台、通し柱が所狭しと桟積みされている。製材機械設備一式が入れるほどの大きな保管庫だ。

豆原 
  ここは製材品の「養生場」だ。弊社の「命」といってよい。乾燥粗挽材を一定期間ここで養生させ、加工・検品後、それぞれの梱包をつくって出荷する。

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 院庄林業の「命」、養生場

遠藤 
  最後に聞きたい。なぜこれほどまでに完成度の高い品質管理ができたのか。

豆原 
  ハウスメーカーの直需に対応してきた面が大きい。クレームも来た。改善も要求された。その過程で、品質管理、安定供給、納期の大切さを学んだ。高い授業料を払ったことになるが、結局これが今の「院庄」ブランドをつくり上げたと思っている。

◇     ◇ 

  「院庄」ブランドの信頼性の高さは各地のプレカット工場で耳にする。今回のルポで、何がそのブランドを支えているのかが理解できた。と同時に、今後国産材のシェアを回復し、国産材のブランド化を図っていくためのヒントもここにある。児島高徳が桜樹に刻んで後醍醐天皇に奉った詩句を借用すれば、「天、院庄林業を空しゅうすること莫れ」(国産材業界の今後の発展にとって、院庄林業のこれまでの取り組みは決して無駄にならない)といえよう。

『林政ニュース』第304号(2006(平成18)年11月8日発行)より)

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