日本一の国産材工場・協和木材の挑戦・上
国産材製材業界は、まちがいなく群雄割拠の時代に突入した。戦国時代を経て徳川幕府成立までの間に、信長、秀吉、家康が出たように、国産材製材業界にもこれから一波乱、二波乱あることが予想される。
こうした中で、年間原木消費量で一挙に日本一の座についたのが協和木材(株)(福島県塙町、佐川広興・代表取締役社長、第304号参照)である。同社の真骨頂は、補助金をビタ一文もらわずに、しかも強力な「山林部」を抱えながら日本一の規模拡大を達成したことである。大手銀行も注目する同社の国産材製材ビジネスとはいかなるものか。遠藤日雄・鹿児島大学教授が同社の新工場を訪れ、佐川社長の構想に迫る。
補助金には一切頼らず、民間資金で大規模工場新設
協和木材の新工場は、塙町に整備された工業団地の一角にある。敷地面積は14万8000㎥、工場面積は1万890㎡。敷地内には大量の天然乾燥材が積み上げられている。材種も実に豊富。「地域の林産資源をトータルに利用する」という佐川社長の持論をそのまま具現化したような工場だ。
遠藤教授
さすがに広い。新工場の生産量はどのくらいか。
佐川社長
今は月間原木消費量が約1万㎥。旧工場の1・5倍の量だ。年間では13万㎥くらいになるだろう。
遠藤
この新工場の建設資金は約40億円と聞いている。それを、私募債(社債の一種)と銀行からの融資で賄ったというが。
佐川
我々は、補助金に頼らず、純然たる民間企業としてやっている。だから、民間のコマーシャルベースの資金を調達した。メインバンクの東邦銀行と日本政策投資銀行との協調融資に加えて、東京中小企業投資育成(株)という政府系のベンチャーキャピタルに増資株を引き受けてもらった。融資と出資の両方を活用したわけだ。
60人で24時間稼働、環境に負荷をかけない
遠藤
今までの国産材製材というのは、「製材所」というイメージが強かった。だが、協和木材の場合は、完全にビジネスライクな産業になっていると感じる。ところで、旧工場もこの地域では抜きん出た規模を誇っていたが、さらに規模拡大が必要になった理由は何か。
佐川
最近は旧工場の周りに人家が増えてきて、「うるさい」とか「オガが飛ぶ」という苦情を受けるようになっていた。
また、製材工場というのは、廃材というエネルギー源を十二分に持っているから、これを活かした環境に負荷をかけない工場をつくりたかった。そのためには、例えばボイラーにしても、24時間稼働させることが必要になる。その点、ここは工業団地の中なので、安心して24時間体制で工場の運営ができる。
遠藤
新工場の従業員は何人か。
佐川広興・協和木材(株)代表取締役社長
佐川
80人くらいいるが、管理部門と営業部門を除くと、60人で工場を動かしている。2交代制で、製材ラインは、朝の8時から午前3時30分まで稼働する。そして、当直が1人残り、ボイラーの管理をしている。
自慢の山林部、一晩なら連絡なくても大丈夫
協和木材は、もともと素材生産業者として出発した。だが、丸太(原木)が高く売れない。ならば自分で挽いて付加価値を高めようと製材業へ進出していった。今でも「山の手入れをすることで生き残っていく会社」という基本線は、全く揺らいでいない。
遠藤
協和木材には山林部がある。ここが原木集荷の中心的役割を果たしているのか。
佐川
自社で山林の伐採事業を行い、収穫した原木は、元からウラまですべて利用する。これが基本だ。当社では、毎年、大学卒業者を山林部に採用している。大学時代は山岳部などにいた人がほとんどで、いわば一人で山を歩ける人達。一晩くらいなら、山から戻ってこなくても心配は無用、そんな強者が5人いる。
遠藤
それはすごい。真似しようとしてもできない体制だ。
佐川
このほかに、協栄会という伐出業者の組合がある。個人と法人を含めて60人(社)くらいが加盟している。いわば現場作業員の会であり、当社の大きな財産の一つだ。国内で、30代・40代の作業員が60人いるところは、まずないだろう。協栄会の場合は、10haの山なら1か月ですべてきれいに収穫できる。それくらいの作業能力を持っている。
森林所有者と常時コンタクト、団地化を推進
遠藤
月1万㎥の原木集荷の内訳はどうなっているのか。
佐川
協栄会を中心に、月に6千〜7千㎥くらいの伐採事業をやっている。あとは、原木市場などで調達している。
遠藤
立木買いは、民間材が多いのか。
佐川
一部、国・公有林の皆伐材があるが、主体は民間の間伐材だ。この地域の森林所有者の方々とは、長い取引が続いている。
遠藤
具体的な集荷圏は?
広大な敷地に多種多様な材が並ぶ
佐川
福島県では会津を除いてほぼ全域。栃木県もほぼ全域。茨城県は北部地域くらいまでが範囲だ。このうち、長期・継続的に取引していただいている方の所有規模は最低でも10㏊。100㏊以上という大規模所有者の方々には、少なくとも盆暮れにはご挨拶に伺って、常にコンタクトをとっておくようにしている。
遠藤
実にユニークだ。森林所有者へのきめ細かいケアまでしながら日本一の量産体制をつくったところに協和木材の強味がある。山の取り扱いについて相談を受けることもあるのではないか。
佐川
私どもが境界の管理を任されるケースもある。森林所有者の方々には、当面は10年に1回ずつ、安定して間伐ができる山をつくろうと呼びかけている。間伐させていただくときに、徐々に作業道を伸ばしていけば、1団地が10㏊、20haになる。そうなると、周りの所有者も次の間伐は一緒にやろうということになる。間伐で一定量の伐出ができる体制が徐々に整ってきている。
(『林政ニュース』第306号(2006(平成18)年12月6日発行)より)
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