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単品量産と決別した大型工場・ウッドエナジー協組・下

(前回から続く)スギ小・中断面構造用集成材の生産・販売で九州をリードするウッドエナジー協同組合(宮崎県南郷町)。吉田利生・同協組代表理事の地域及び地域材(飫肥スギ)へのこだわりは強い。ただし、偏狭な地域愛にとどまるのではなく、地域に軸足を置きながら、企業展開のベクトルは全国、そして海外に向けられている。遠藤日雄・鹿児島大学教授との対談を通じて、吉田代表理事の経営哲学と、新しい国産材販売戦略のイメージが明確になる

地域性とグローバリズムの両立を目指す経営哲学

  吉田代表理事は、医学界の名門・金沢大学医学部を中退し、吉田産業を継ぐべく帰郷した異色の経歴の持ち主だ。「吉田産業を日本一の製材工場にして欲しい」という先代(故人)からの強い要望に応えてのことだった。 

遠藤教授
  そのまま医者になっていたら?

吉田代表理事 
  「国境なき医師団」に加わって地球規模での医療活動をするのが夢だった。そして自分なりに納得が得られれば帰郷し、幼稚園と老人ホームを開設し、そこで医療活動に従事したと思う。人材育成こそが地域を支える基本だからだ。

遠藤 
  地域の人材育成が、地域材の有効利用に変わったというわけだ。しかし、両方の生き方には共通点があって興味深い。それは、地域性とグローバリズムだ。ウッドエナジーは、この両立に挑む集成材メーカーに映る。

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工場内で語り合う吉田代表理事(左)と遠藤教授

吉田
  地域森林資源の再生に関心の薄いグローバル木材企業とは、明確に一線を画したい。スギで存在感を出すためには、地域のスギにこだわり、顧客にこだわることが大事だと思う。地域のスギを持続的に利用しながら雇用の場を提供し、商品を販売し、利益の一部を地域に還元する。これが私の製材加工経営哲学だ。

遠藤 
  地域へのこだわりは、商品の差別化というメリットをもたらす一方で、経営のブレーキにもなりかねない。

吉田
 
そこがいちばん難しいところだ。いつも悩んでいる。今の木材市場はグローバル化している。私も、熾烈なグローバル競争に身を投じたからには、「勝ち組」を目指したい。しかし、「勝ち組」にも自ずと流儀というものがあるはずだ。地域の山々をハゲ山にしてまで「勝ち組」に残ろうとは思わない。

集成材を媒介に同業10社が団結、そのリーダーに

  対談は2時間余に及んだが、吉田代表理事の口から「郷土愛」という言葉は一言も発せられなかった。反グローバリズムを標榜する人の中には、狭い「地産地消」に閉じこもったり、農本主義に傾斜する向きも少なくない。しかし、吉田代表理事には、地域に立脚点を求めながら、グローバル市場競争で勝ち抜くという確固とした信念がある。恐らく、自分を客観化できる能力をもっているのだろう。

遠藤 
  地域材へのこだわりとグローバル市場競争への参入、そのギャップを埋めるのは何か?

吉田
  地域のもつ固有性なり特殊性を、「何か」を媒介にしながら全国ベースに広げていくことだ。その「何か」が、国産材の場合は集成材だと考えている。

遠藤 
  どういうことか?

吉田
 
5月中旬、全国に10社あるスギ集成材メーカーが東京に結集した。当面は10社間の相互連携、情報交換、スギ集成材の普及が目的だが、他のスギ集成材メーカーにも参加を呼びかけていく。将来は、製品の共同販売も視野に入れている。個々の企業の生産・販売では限界があるから、組織的に全国的な活動をしていこうということだ。お互いの課題にも共通する点が少なくない。切磋琢磨しながら消費者に信頼していただけるスギ集成材メーカーへと発展していきたい。事務局はウッドエナジーに置くことになった。

「全国統一商品」の海外進出に2つの方法

遠藤 
  ウッドエナジーが九州のスギ集成材リーダーから日本のリーダーへと飛躍することになる。そこで聞きたい。その「何か」が、なぜ集成材なのか?

吉田
  集成材はエンジニアードウッド、つまり数値化された工業資材だ。積層数、強度等級、曲げヤング係数、曲げ強さなどすべて数値化できる。そこには、秋田のスギは目詰まりはいいが、飫肥スギは目粗だなどといったスギがもつ品種特性の違いや、長伐期、短伐期経営の違いなどが入り込む余地はない。全国統一商品だ。

遠藤 
  なるほど、これまでの国産材販売戦略に見られなかった新しい視点だ。ところで、スギ集成材の海外輸出も検討しているということだったが(前号参照)、どんな戦略を立てているのか?

吉田
  2つの方法がある。1つは部材(集成材)の輸出だ。もう1つは構法を伴った輸出だ。前者の場合は商社との連携になろうが、後者の場合は輸出先の建築企業との連携が必要になる。いずれにしてもスギにこだわりたい。海外マーケットでスギの特性を活かすとはどういうことか?その際、競争相手は誰なのか?誰と連携すべきなのか?

  現在、その調査を行っている。今がスギ需要拡大のチャンスだ。スギ材産地宮崎から全国、そして海外を目指したい。

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志布志の乾燥施設へ向かうスギラミナ

◇    ◇

  毛沢東が書いた『実践論・矛盾論』という本がある。本来、革命遂行のための書であるが、ビジネス書としても説得力がある。実践―認識―再実践―再認識…の繰り返しの中で、実践(ビジネス)と認識(経営哲学)の内容が一段と高い段階に進んでいく。またその過程で矛盾もより質の高いものへと変化していく。大雑把にいえばそんな内容だ。吉田利生代表理事のスギ集成材ビジネスは、これを地で行っている。特に、地域市場とグローバル市場との矛盾を解決する糸口を集成材という「全国統一商品」に求めた点はユニークだ。これからの国産材販売戦略を考えていくうえで大いに示唆に富むと思うが、読者の皆さんはどのように受けとめたであろうか?

『林政ニュース』第296号(2006(平成18)年7月12日発行)より)

遠藤日雄・2020年のコメント
「2000年代初頭、私は森林総合研究所に勤務しており、スギで集成管柱はできないかと提案した。ところが、内外から徹底的に叩かれた。ムク(無垢)の、しかもグリーン(未乾燥)の木材が主流の中で、集成材はあくまでも異端の存在だった。だが、それでも私はめげなかった。木造住宅のプレカット化が一気呵成に進む中で、国産材の加工度を高めていかないと日本の林業は生き残れないと確信していたからだ。そうした中で出会ったウッドエナジーの吉田利生代表理事は、集成材は当たり前であり、それを媒介に地域林業を再生するという一歩も二歩も先を行く構想を語った。隔世の感を禁じ得なかった。と同時に、私にとって大きな励みと刺激を与えてくれる『対論』となった。」

次回はこちらから。


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