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北京で進む「未来の家プロジェクト」・上

経済発展著しい中国。その首都北京で、熱い住宅競争の幕が切って落とされた。中国政府建設部が進めている「未来の家プロジェクト」がそれだ。コンセプトは、環境共生、省エネ、ハイテクである。これを受けて、政府系ディベロッパーが北京市郊外に住宅展示場を造成中だ。同プロジェクトへの参加国は、日本、アメリカ、カナダ、ドイツ、スウェーデン、韓国、ノルウェーなどの10か国。日本からは輝北プレスウッド(株)(徳留弘孝代表取締役社長、本社=鹿児島県鹿屋市)が参画している。同社は、スギ大断面集成材、LVL製造とともに住宅建築も行っており、これまで公営住宅を中心に数多くの住宅を手がけてきた。遠藤日雄・鹿児島大学教授が北京市の住宅展示場を訪ね、徳留社長と国産材の中国市場進出について考える。

約2万坪の展示場で各国のモデルハウスが競う

  モデルハウスの展示場は約2万坪。北京市北部の郊外(昌平区七家町)にある。既に基礎工事が完了した日本のモデルハウス建築箇所の隣には韓国、その向こうにはスウェーデンのモデルハウスが建築中だ。韓国も基礎工事が終わり、鉄骨を組み立てている。スウェーデンのモデルハウスはツーバイフォー(2×4)住宅だ。2008年の北京オリンピックに先立つ「住宅オリンピック」の観を呈している。

  徳留社長は展示場の概略を説明しながら、日本のモデルハウスの完成予想図と設計図を見せてくれた。

遠藤教授
  白を基調としたヨーロピアンスタイル。背景の青い空とマッチし、地中海沿岸の高級住宅を思わせる。

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北京モデルハウス

徳留社長
  
そのとおり。中国沿岸部の住宅市場は、アジアというよりもユーラシア大陸の東端と位置づけたほうがいい。中国の富裕層の目はヨーロッパを向いている。そして好みに応じて、イギリス風、フランス風、ドイツ風、北欧風の住宅建築となる。ちなみに北京では北フランス風とイタリア風に人気がある。弊社のモデルハウスはイタリア風だ。

売れ筋価格帯は2億円、和魂洋才で勝負

遠藤 
  設計図をみると、大邸宅で大量の木材を使用している。

徳留 
  床面積120坪の2階建。中国の一人っ子政策を考慮に入れて、3人家族用の住居にした。家族一人一人が独立した部屋をもち、バス(シャワー)・トイレ付きだ。中国人の合理的考え方を重視した。売値は1億5千万〜2億円の価格帯を設定している。このタイプは今、中国の富裕層での売れ筋住宅だ。

遠藤 
  モデルハウスは在来軸組構法住宅か?

徳留 
  正確にいえば在来軸組パネル構法だ。筋交いを使わないでパネルとしてスギ構造用合板を使う。また、6mの梁はスギ集成材だが、そのほかはすべて鹿児島県産スギを製材したムク材をプレカットして使っている。オールスギだ。柱は4寸角の(12㎝)6m、通柱は4寸の6.5mと、日本の在来軸組構法住宅よりもサイズが大きい。骨組みで約60㎥、全体で80㎥のスギを使うことになる。スケルトンは日本のスギ、概観はヨーロピアン。和魂洋才型住宅だ(笑)。私の15年にわたる中国の住宅市場調査から得た結論だ。

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北京郊外の「未来の家プロジェクト」展示場での徳留社長(右)と遠藤教授。後ろは完成した輝北プレスウッド(株)のモデルハウスの基礎。
後方の建物は完成間近の管理棟。

省エネに関心、当たれば「値千金」の商機到来

  「未来の家プロジェクト」のコンセプトは環境共生、省エネ、ハイテクである。中国の住宅市場は拡大の一途をたどり、年間20億㎡(床面積)のペースで住宅建築が進行している。ただし、新築の8割では省エネが進んでいないため、中国政府上層部は省エネを重視。その1つとしてOMソーラーシステムに関心が高まっている。そこで、輝北プレスウッド(株)では、中国でOMソーラーをてがけている大連奥邦太陽能新技術有限公司やOMソーラー雨水利用、合併浄化槽を取り扱っている奥陽科技発展(上海)有限公司と提携して、共同建設事業体を組織している。

  中国の住宅市場には2000年代に入って2×4住宅が輸入され始めた。この中にあって、輝北プレスウッド(株)は、在来軸組パネル構法住宅+OM+汚水処理で勝負をかけようとしている。

遠藤 
  モデル住宅完成後はどうなるのか?

徳留 
  モデル住宅の完成は10月だ。それと前後して、中国政府がモデルハウスの評価委員会を設置する。委員会での評価が高ければ、政府の後押しにより中国各地の住宅団地建設に採用されることになる。評価に当たっては熾烈な競争が予想される。出たからには日本代表として金メダルを狙いたい。自信はある。

遠藤 
  住宅団地の規模はどの程度か?

徳留 
  1箇所最低1千棟規模と聞いている。これがやがて、上海や重慶などの主要都市に広がっていく。そこに日本の家、カナダの家、スウェーデンの家などが建設されることになる。それだけに今回のモデル住宅建設には全力を傾注している。当たれば凄い。「春宵一刻値千金」をもじれば、「モデル一棟値千金」となる(笑)。

遠藤 
  「値千金」となれば、日本から大量のスギを中国へ輸出しなければならない。

徳留 
  鹿児島県からスギ丸太を船輸送し、上海近辺に製材工場をつくる計画だ。今後採用が決まれば、生産拠点を中国につくる考えだ。(次号につづく)

『林政ニュース』第291号より(2006(平成18)年4月19日発行)より)

次回はこちら。


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