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2×4住宅に国産材を活用・ネットイーグル

昨年のわが国における新設住宅着工戸数のうち、木造住宅は542,848戸。このうち、在来軸組構法住宅は426,299戸でシェアは79%と高い。だが一方で、2×4(ツー・バイ・フォー)住宅(枠組壁構法)の着工戸数が着実に伸びており、昨年は95,824戸に達した。2×4住宅部材の大部分は、カナダ内陸産のSPF製材品で占められている。ここに国産材を食い込ませる可能性はないのか。その答えを求めて、遠藤日雄・鹿児島大学教授は福岡市に本社を置くネットイーグル(株)(祖父江久好・代表取締役社長)を訪れた。同社は、在来軸組構法及び2×4構法のプレカットCAD/CAM(注)の開発・販売を手がけ、シェア50%を誇る有力企業。先端技術を知り尽くす祖父江社長の口から、2×4住宅建築の意外な実態が明らかにされた。

最新鋭の戦闘機づくりとプレカットの共通点  

  遠藤教授が訪問した社長室には、F15イーグル戦闘機(在沖米空軍及び航空自衛隊の主力戦闘機)の模型や写真が並んでいた。なんと祖父江社長は、三菱重工でF15の製作に携わっていたという。

遠藤教授
  なぜ、最新鋭の戦闘機づくりからプレカットに転じたのか。

祖父江社長 
  現プレカット協会の生みの親である(株)ケー・エイチ・ケーからプレカットCAD/CAMの要求を請けたことでこの業界に参入した。当時のプレカットは、最新鋭戦闘機に携わった我々から見ると相当な技術格差があった。我々の最新技術で、この業界の合理化、すなわち全自動プレカット化を追求していきたいと思った。

遠藤 
  プレカットの現場に足を踏み入れたときの感想は?

祖父江 
  驚くことのみ多かりきだった(笑)。大工の研修会でサイン(sin)、コサイン(cos)を使ったらみんなキョトンとしていた。

遠藤 
  ♪サイン、コサインなんになる、の世界。

祖父江 
  それそれ(笑)。

意外に低い2×4住宅のプレカット率

  現在、わが国には約870のプレカット工場があるが、2×4プレカットは約30工場にすぎない。その大部分は2×4部材を供給するコンポーネント会社が手がけている。2×4住宅のプレカット率は10〜15%、在来軸組構法住宅の80%に比べると極端に低いのが実状だ。その理由はCAD/CAM化の遅れにあるという。

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2×4住宅の設計図を手に説明する祖父江社長

遠藤 
  意外だ。2×4住宅といえば合理的な建築というイメージがある。

祖父江 
  2×4住宅の建築現場は10年前とほとんど変わっていない。人海戦術の上、木拾いのノウハウも定着していないし、部材歩止まりも悪い。在来軸組構法住宅では常識になっている野地板のプレカットなどは皆無に近い。高コスト体質を脱却していない。私が2×4の全自動プレカット化を提唱する理由がここにある。

遠藤 
  そこで聞きたい。2×4部材で国産材が使える可能性があるか。あるとすればどこか?

祖父江 
  スタッドだ。スタッドとは、壁の枠組みを構成する縦枠材のことだが、在来軸組構法住宅の間柱と考えて差し支えない。断面は2インチ×4インチ(38 ㎜×89㎜)と4インチ×4インチ(89㎜×89㎜)の2種類を考えている。長さは2.336mだ。

遠藤 
  2.336mというサイズは、伐出現場での玉切りは可能だが、製材ラインでの木取りは難しいのではないか。

祖父江 
  スギの縦継ぎ間柱(FJ間柱)で十分だ。現在、九州のあるスギ集成材工場と共同で試作品を作り強度試験を行っている。

狙いはスタッド、スギにも十分出番がある

遠藤 
  スタッドは1棟当たりどのくらい使うのか。

祖父江 
  1棟当たり約500本使う。2インチ×4インチ断面の場合、1棟当たりの材積は約4㎥になる。

遠藤 
  現在使われているスタッドの樹種と価格は?

祖父江 
  樹種はSPF。価格帯は36,000円〜40,000万円/㎥といったところか。中にはかなり品質の劣るものがある。

遠藤 
  スギ間柱でこの価格帯は難しい。45,000円/㎥前後でないと供給できない。

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2×4部材について説明する祖父江社長(右)
縦の部材がSPFスタッド

祖父江 
  そんなことはない。スタッドを3〜4枚貼り合わせる際、クギ打ちをする。このクギ代と加工賃を加えると約65,000円/㎥になる。さらに2×4プレカット率を高め、施工現場での歩止まりを向上させれば、スギは十分使える。要は1棟当たりの採算ベースに乗れるか否かが勝負だ。

遠藤 
  なるほど。精度・強度が担保できればスギの出番が十分あるというわけか。量的な条件はどうなのか?

祖父江 
  弊社は全国展開のパワービルダー(大手集合住宅メーカー)に2×4CADを提供している。そのパワービルダーは年間20万㎥以上のSPF製材品を使っており、九州・山口向けに部材を供給しているコンポーネント会社は、月間45〜50棟(1棟100坪平均)分を納入している。部材の安定供給能力が不可欠だ。

遠藤 
  SPF製材品の日本への輸入状況はどうなっているのか。

祖父江 
  SPF製材品の輸入単価は300〜500ドル/1,000BM(1,000BM=4・53㎥)と大きな幅があるのが特徴だ。これがSPF製材品を扱うコンポーネント会社の最大の泣き所、しかもスタッドの撥ね率は3割と高い。単体の場合なら撥ね材は短く切って使えるが、量産ではコスト高になってしまう。2×4住宅が日本で飛躍的に伸びなかった1つの理由だ。

遠藤 
  2×4住宅は住宅部材手当に多額の投資をしてきたのに対し、在来軸組構法はプレカット機械設備に投資してきたというわけか。プレカット率に大きな差が出た理由がよくわかる。ところでコンポーネント会社でスギに対する要望はあるのか?

祖父江 
  先述の九州のコンポーネント会社では、2×4住宅は将来性がある。でも部材の供給に不安がある。スタッドだけでもスギが使えないかと言っている。

◇ ◇

祖父江社長は、国産材とは流通チャンネルの異なる2×4住宅へスギを売り込む可能性を示唆してくれた。今年7月、国内のスギ集成材メーカー10社が結集して「国産スギ集成材協議会」(事務局=ウッドエナジー協同組合、第295296号参照)を発足させた。共同販売体制の確立も視野に入れてスギ集成材の販売促進活動を展開していく方針だ。その販売先の1つの選択肢として2×4住宅を考えることができるのではないか。1社での供給は難しいが、組織的にロットをまとめれば使ってもらえる可能性は十分にある。
(注)CAD/CAM=コンピューターによる製図システムとそれに連動した生産加工システムのこと。                  

『林政ニュース』第303号(2006(平成18)年10月25日発行)より)

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