見出し画像

国産材利用へ、銘建工業の新たな挑戦・下

(前回から続く)銘建工業(株)の中島浩一郎社長と遠藤日雄・鹿児島大学教授は、最先端の集成材製造ラインを視察し終えると、木質バイオマス発電やペレット製造の現場に向かった。同社は「ゴミを出さない」「化石燃料に頼らない」をモットーに環境対策を推進している。中島社長と遠藤教授の対論は、森林・木質資源の循環利用から日本林業が抱える問題、そしてグローバル市場の分析へと展開していく――。

副産物が売れないと丸太の価値は上がらない

  工場を出た中島社長は、木質バイオマス発電施設へと歩を進めた。工場から排出されるカンナ屑や樹皮などを利用して自家発電を行っている、いわゆる「エコ発電所」だ。工場に必要な電力は100%、ここから供給されている。近いうちに売電もするという。

  次に見せていただいたのが、ペレット製造機である。木質バイオマスエネルギーの可能性を追求するために導入したものだ。原料は履歴の明らかな自社廃材に限定している。同社のペレット製造量は年間1万トン(2006年予定)と国内では群を抜く規模である。

  このように、中島社長は、丸太や製材品から出る副産物の有効利用に注力している。市場競争力をつけるだけではなく、循環型社会の創出にも寄与する。この姿勢が同社を国際企業たらしめている。  

遠藤教授
  木質バイオマス事業を推進するメリットは? 

中島社長  
  環境に配慮しながら林業・木材産業の競争力を高めるためには、丸太や製材品以外のものをお金に変える仕組みが必要です。端材や樹皮、鉋屑などを貴重な資源として評価できるようにしないと、丸太の価値も上がらないでしょう。先日、フィンランドのある製材工場に行ったのですが、鉋屑をペレットにするのではなく、四角に固めただけで売っていました。畜産用の敷き藁などに使うという話でしたが、販売価格が20円/㎥というのです。

画像2

「エコ発電所」をコントロールする中央制御室

遠藤 
  ㎥当たり20円ですか。ずいぶん高いですね。日本だと6円前後ですよね。

中島  
  日本では、樹皮や鉋屑は産廃扱いで、処理費用がかかる。これとは全く反対です。また、日本はチップの値段が安すぎる。5円/絶乾㎏という現状は、国際相場とはかけ離れた安値です。

  ヨーロッパの国々は、副産物の価値を高める努力を一生懸命やっています。オーストリアの年間ペレット生産量は1999年時点では2万トンでしたが、2005年には60万トンを超えました。バイオマス発電にしても、製材廃材などを燃料にして発電した場合は1kW当たり18円くらいで売れるように時限立法で定めている。ドイツなども同様です。こういう取り組みを通じて丸太の評価を高め、植林を進めることが国策のようになっています。

植林放棄は「盗伐」、役物バブルが甘えを生んだ

遠藤 
  1980年代頃までは、広葉樹の山が「動いてるな」という感じでした。チップやシイタケ原木などを向き向きに売り、萌芽更新で二次林・三次林を育てていました。それが今は山が動かない。スギを伐った後に全く植えないケースも出ています。

中島 
  本当に植えていないですね。海外での違法伐採が問題になっていますが、国内での再植林放棄も大問題でしょう。台風でも来たらグチャグチャになりますから。伐っても植えないというのでは、言い方は悪いが「盗伐」と同じです。

遠藤 
  なぜ日本の林業はここまで落ち込んだのでしょうか。

中島 
  1980年頃に、国産材も外材も価格のピークを迎えたのですが、その後も国産材は、供給量を減らしながらも役物を中心にそれなりの相場が維持された。私はこれを「役物バブル」と呼んでいます。この役物バブルが様々な矛盾を呑み込んでくれた。出材コストが少々高くても、乾燥が不十分でも、先送りできた。そのツケが回って、国産材のシェアは減る、値段も下がると、積み木崩しのような状態になってしまったのだと思います。

遠藤 
  その中で銘建工業が国産材利用に踏み出す理由は?

中島 
  バブルが長いと目が覚めるにも時間がかかりますが、ようやく一昨年あたりから状況が変わってきました。国内の人工林も、スギやカラマツは8齢級や9齢級が主体になり、使える資源に育ってきた。あとは、国産材供給の新しい仕組みをつくるしかない。いっぺんに年間何十万㎥も生産する製材工場を狙うのではなく、数千㎥の製材品をきちんと挽ける工場を整備していくべきでしょう。自由貿易の時代に「外材輸入反対」と叫んでいるだけでは出口はない。自分達がつくっている製品がマーケットでどのように評価されているかをよく知れば、自ずとやるべきことは見えてきます。

丸太が足りず玉突き現象、植林木は益々貴重になる

遠藤 
  ヨーロッパを中心としたグローバルな木材市場は、今後どのように動いていくと見ていますか。

中島
  アメリカの住宅需要が活発なこともあって、ドイツでは、年間の製品生産量が100万㎥以上の製材工場が4つくらいできています。いずれも、自動化された高性能の製材ラインが24時間フル稼働する工場です。これだけの規模の工場ができると、1千万㎥くらいの丸太(原木)が必要になりますが、ドイツ国内ではとても賄えない。そこで、チェコに買いに行っているのですが、今度はチェコ国内で丸太が足りないという玉突き現象が起きています。

  また、シベリアのウラル山脈近くの丸太を、日本人ではとても買えないような高値でどんどん買う人がいるという。中国人だと思ったら、トルコ人だそうです。では、トルコで加工された製材品はどこに売られているのか。最近の原油高で購買力をつけている中東向け、特にサウジアラビアが最大のマーケットになっているようです。一方、アジアでは、中国が巨大な木材市場として台頭していますし、今後はインドの存在感もクローズアップされてくるでしょう。

  このようにみると、丸太は非常に貴重なものになる。人工林を中心とした植林木は圧倒的に不足していくと思います。

画像2

中島浩一郎・銘建工業(株)社長
◇      ◇ 

  中島社長の頭の中には「世界の真庭(銘建工業)」という明確な位置づけがある。ユーラシア大陸の、アメリカ大陸の、そして極東日本の森林資源をしっかりと見据えている。このグローバルな経営戦略にスギが組み込まれたら? 
  血湧き肉躍る取材であった。
『林政ニュース』第290号(2006(平成18)年4月5日発行)より)

遠藤日雄・2020年のコメント

「15年前に銘建工業にお邪魔した『ルポ&対論』であるが、見事に『今』を先取りしている。中島社長の持論をキーワードで整理すると、①役物バブルの崩壊→②グローバルビジネスへの突入→③スギ人工林(並材)の活用→④『いいところ出し』で生産性アップ→その一方で、⑤世界一安いスギ丸太価格→植林放棄は盗伐と同義→⑥スギ丸太の100%の活用でスギ材価格のアップへということになる。『いいところだし』は、最近、国産材業界で広まっているサプライチェーンマネジメントの形成にヒントを与えるものだ。同時に、中島社長が危惧している世界一安いスギの価格をどうアップさせていくか、国産材業界に突きつけられた課題は未だに解決されていない。改めて、中島社長の先見の明に驚かされる。」

次回はこちらから。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?