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プレカットの新潮流・熊本ランベックス・上

 国産材の需要拡大に弾みがつき始めた。昨年の国産材供給量は90万㎥増の1,746万㎥(第290号参照)。この増加ペースは今後も続くと予想されている。中心になるのは、在来軸組構法住宅の部材である。そこで、住宅構造材流通の中核ともいうべきプレカットの最新状況をレポートする。焦点をあてるのは、平角市場である。

平角とは、在来軸組構法住宅構造材のうち梁、桁、胴差しなどの横架造部位に使われる木材のことだ。もともと国産のアカマツやクロマツが多用されていたが、長尺大径木不足や伐採後のカビの発生などで需要が減り、北米産の米マツが平角市場で圧倒的なシェアを占めていた。しかし、米マツ丸太価格の上昇や輸入量の激減が、国内の米マツ製材に深刻な影響を与えている。一方、スギが平角市場に参入できる可能性が芽生えてきた。今回、遠藤教授が訪れたのは、協同組合熊本ランベックス(熊本県熊本市、原田龍三代表理事)。同協組は、スギ集成平角を主力商品に飛躍を目指す“九州の雄”である。

スギムク志向の保守市場に集成平角で切り込む

  熊本ランベックスは、森林組合や製材業など7社が出資して昨年5月に設立、7月から操業を開始した。九州はスギ王国。と同時に、スギについては保守的な風土で、今でも平角にはスギのムクを使う大工・工務店が少なくない。その中にあって、消費者に信頼・納得してもらえるプレカットのスギ集成平角をどのように売り込んでいくかが同社の課題である。

  同協組を率いる原田氏は原田木材(株)の代表取締役会長でもある。終戦から1970年代中頃まで国産材を、それ以後は90年代半ばまで米マツで主に平角製材をしていた。ところが、米マツ丸太の小径化が顕著になり、節の多い「側取り」がしづらくなった。試行錯誤の中、得意先の大工・工務店を廻ったが、当時は大工不足。「大工を紹介しないなら仕事あげないよと門前払いを食らうことが多かった」と原田会長は述懐する。生き残る途はプレカットしかない。そう判断して製材に見切りをつけ、協同組合熊本木材工業団地(92年設立)の一角でプレカット事業を開始した。その後、同協組は解散、それまでのプレカット事業は原田木材が譲り受け、新たに設立したのが熊本ランベックスだ。同協組は原田木材のプレカット部門と密接に連携しながら営業を展開している。

全自動で500棟/年、ライバルは北欧・東欧

遠藤 
  ランベックスのプレカット加工能力はどのくらいか?
原田 
  全自動で加工能力は500棟/年(35坪/棟換算)だ。操業開始後1年経っていないが、金物工法も含めて初年度は700〜750棟はいくだろう。九州でも有数のプレカット工場だと思う。顧客は製材工場、材木店、製品市売市場などだ。

遠藤 
  九州は、縦(柱)だけなく横(梁)でもスギのムク材を多用する。プレカット材も相変わらずスギムクが多いのか?

原田 
  だいぶ様子が変わっている。年間30棟前後の工務店でも集成材にシフトしつつある。施主からのクレームを少なくするためだ。200棟/年クラスの地域ビルダーがムクから集成材に切り替えてクレームコストが2,000万円減ったという例も聞いている。集成材化は構造材だけにとどまらない。間柱、大引、タルキなどでも集成材化が進んでいる。

遠藤 
  「姉歯問題(耐震強度偽装問題)」が木造住宅部材のニーズにも影響を与えているということか? 

原田 
  柱や梁などの構造材の集成材化に拍車をかけたことは間違いない。これまでのムクを使う大工の「経験値」から、施主に対してきちんと構造計算を提示するためには、証明性の高い構造材の使用が不可欠。そのためには含水率、強度を数値化できる集成材がベターだ。ただ、集成材といっても今は北欧、東欧から輸入されるホワイトウッドやレッドウッド集成材が主流。これをどうスギに置き換えていくのか、ランベックスの最大の課題だ。

異樹種集成材の出足好調、加工に独自の工夫

  原田会長は、遠藤教授を横架材のプレカットラインへと招いた。ちょうど集成平角のプレカットの最中であった。よくみると中国木材(株)が伊万里事業所で生産販売を始めた米マツとスギの異樹種集成材(ハイブリッドビーム)である(第280号参照)。同社の伊万里進出については、ラミナ用のスギB材丸太の集荷と納入価格に話題が集中しているが、消費サイドはどうみているのか――。

遠藤 
  中国木材の話によれば、ハイブリッドビームの販売量は急増(今年1月の販売量は584㎥であったのが4月は1,836㎥)しているという。現場での評価はどうか?

原田 
  現在、当社では中国木材のハイブリッドビーム販売量の約半分をプレカットしているが、評判は上々だ。前述の30棟前後の工務店でも、スギムク平角から異樹種集成材に切り替えるケースが多い。今後増えていくことは間違いない。レッドウッド集成平角は手強い相手が出てきたぞと危機感を感じているだろう。  

遠藤
  プレカット加工をする際のポイントは?  

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原田代表理事(左から2人目)の説明を受ける遠藤教授(右から2人目)

原田 
  異樹種集成平角の場合、ラミナのフェイスとバックが堅い米マツ、中が柔らかいスギだ。そのためプレカット加工する場合、硬い層と柔らかい層では刃物にかかる負担が違ってくるため、毛羽立ちが生じたり、継ぎ手・仕口の加工でラミナの一部が欠けたり飛んだりする場合がある。しかし、これは刃物の回転数や送り速度を変化させるなど機械制御や切れのよい刃物に換えることによって十分カバーできる。

  また、メーカーにお願いして接着剤も従来の水性ビニルウレタンからレゾルシノール系に替えてもらった。耐水性、耐候性、耐熱性が高く住宅部材として性能アップにつながると考えたからだ。いずれにしても、メーカーとキャッチボールしながら、消費者に安心して使ってもらえるような製品に改善していきたい。それが国産材需要拡大のためのプレカットの新しい役割だと思っている。

『林政ニュース』第293号(2006(平成18)年5月31日発行)より)

次回につづく。



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