20200508 社会が、変わる(6)

江戸が明治に変わったとき、一番大きく影響を受けた社会層は武士だ。彼らは生活の土台を失い、違う職業に再就職しなければならなくなった。そしてその人たちの再就職先が政府の役人、軍人(士官)や、新しく出来た「株式会社」の社員であったことは想像に難くない。そうすればどういうことが起こったか、政府の役人や軍の士官、株式会社の社員には、その前の「武士」の思想、習慣、情緒が色濃く持ち込まれたのは必然であったろう。

きわめて大雑把な言い方をすれば、明治時代は、表向きはどうであれ、富国強兵、殖産振興のスローガンの元、新しい幕藩体制、つまり、政府が江戸幕府、株式会社は大名、その下に百姓町人、という社会構造が形作られていった。そしてここで、長く続いた江戸時代で形骸化していた階級意識が再登場したのだ。もうここまで言えば、私の言いたいことは分かっていただけるだろう。日本の商業は元々あった江戸伝統の「商業」の上に、「武士」の情緒を色濃く残した「株式会社」がのっかったのだ。黒い背広を着た「会社員」は「目指すべきもの」とされ、商人は「目下のもの」として軽んぜられた。

もともと資本主義における「株式会社」は、戦う組織である。ライバルと競争し、シェアを奪い、最後は一強となるためにある。これは武士の思想と相性がいい。経済的に先行している欧米列強に呑み込まれず、これに追いつくという時代の要請にも合致した。そう、その状態で日本は突っ走ってきた。大東亜戦争で一敗地に塗れるまでは。

それでは敗戦後はどうなったか。力戦で負けたのだから今度は経済戦争だ、とサラリーマンは身を粉にして働いた。これが「企業戦士」である。思想的には何にも変わっていない。そしてまた、負けるんだよね。バブルで。

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