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ゲームの奥深さと難しさ - 面白さをハードルにしないためのUXデザイン

ゲームには様々な種類の面白さがあり、多様な面白さを持つことはタイトルの魅力に繋がります。一方、開発者の想定した面白さがプレイヤーにとって難しすぎたり、詰め込まれすぎているなどの理由で、プレイヤーを遠ざけるハードルになってしまう事例も多く見られます。

この記事では、ゲームの面白さや奥深さと、プレイヤーにとってハードルとなる悪しき難しさの違いに着目し、面白さを維持しながらハードルを減らす手法を検討します。


面白さにはコストがかかる

前回の記事では、ゲームの面白さを要素分解し、面白さの要素を基にゲームやゲームジャンルの特徴を分析した。

ゲームの面白さには「アクション」「技術」「意思決定」「研究」「成長と達成」「探検」「物語と模倣」など様々なものがある。面白さの嗜好は人によって違うため、多くの面白さの要素を兼ね備えることで人気や売上の向上が期待できる。

その一方、面白さの要素はプレイヤーに負荷をかける。例えば「技術」の要素を問うゲームは、操作技術の向上をプレイヤーに要求する。プレイヤーへの要求、つまりプレイヤーが負担するコストはゲームのハードルとなり、プレイヤーを遠ざける要因になる。

面白さを増やすことと、面白さに伴うコストを減らすこと。この両立はゲームデザインにおいて重要な課題だ。

代表的なコスト「時間」

まずは面白さとコストの関係がシンプルな例を見ていこう。

ドラゴンクエストに代表されるデジタルRPGは、ゲームを進めるためにキャラクターの育成が必要だ。育成のために戦闘を行い、経験値やアイテムを獲得する。キャラクターが成長すればより強い敵と戦闘を行い、キャラクターはさらに成長する。
育成はプレイヤーに時間を要求するため、ゲームの進行度やキャラクターの強さと育成に必要な時間は、報酬とコストの関係にある。

古典的なRPGは一定のスパンでキャラクターが成長していく。進行度ごとに長すぎず、短すぎない時間を要求するのが適切なバランスだ。

これに対し、MMORPGやモバイルRPGなど長期間のプレイを前提とした運営型ゲームでは、強くなり続けるキャラクターに対応するボリュームのコンテンツを提供することが難しい。そのため、いずれかのタイミングで時間の要求量を増やし、コンテンツを引き延ばす必要がある。

時間と報酬の関係をグラフにする

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多くのタイトルは、水色のグラフのように序盤はハイペースで進行するが、途中から必要な時間が指数的に増加する。指数曲線を使うことで、時間のあるコア層には無限の時間を要求し、ほどほどの時間で遊びたいカジュアル層も排除しないバランスが達成できる。

当然だが、コストと報酬が逆の指数曲線は採用されない。最初の村を出てから100時間スライムを狩り続けるRPGをプレイする人はいない。

★印のポイントはプレイヤーが離脱しやすいタイミングだ。プレイヤーからすると突然ギアが変わったようにキャラクターが成長しなくなり、ゲームの難易度が上がる。運営開始直後のモバイルRPGは、このようなギアが変わる瞬間が分かりやすいタイトルが多い。

露骨なギアチェンジはプレイヤー体験を悪化させるため、成長に必要なリソースを複数設けギアチェンジのポイントを分散させたり、ギアチェンジの周辺にプレイヤーの動機になるマイルストーンを設置するなど、進行ペースの変化をなだらかに感じさせる工夫が必要だ。

正弦曲線による緊張と緩和

さらに、シンプルな直線や指数曲線よりも、正弦曲線や非線形の構造を取り入れるのが望ましい。

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直線を用いると、プレイヤーは難易度が常に一定だと感じる。難易度が一定だと、プレイヤーの主観的な状況が変わらないため、実際にはキャラクターが成長し、ゲームが進行していたとしても、成長や進行を実感しないことがある。

このとき、正弦曲線や非線形の構造で難易度に揺らぎを持たせると、難しいときは成長の必要性を感じ、簡単なときは成長の実感を得ることができる。このような「緊張と緩和」はRPGにおいては、

・拠点 → フィールド → ダンジョン → ボス戦 → 拠点 → フィールド
のループによる敵の強さの変化(拠点でキャラクターが強化された直後に、最も敵が弱いフィールドに進む)
・呪文やスキルの取得。通常のレベルアップより激しい成長が稀に訪れる。
・レアアイテムの入手。ランダム性によって非線形を作る。

などの定番システムによって実装されている。

「お金」をグラフにする

時間と同様に「お金」もプレイヤーが負担する典型的なコストだ。

例として架空のカードゲームを考えてみよう。ゲームAはカード5枚を集めると1つ目のデッキが作成でき、その後はカード1枚ごとにデッキを1つ作成できる。ゲームBは1つ目のデッキも、2つ目以降のデッキもカードを3枚集めるごとに作成できる。

実はこの例は、全クラス共通で使いまわせるカードが多かった初期のHearthstoneと、クラス共通カードが少ないShadowverseの対比を単純化したものだ。ゲームAがHearthstone、ゲームBがShadowverseを表している。

一見するとゲームAの方が低コストだが、ゲームAの問題は初期コストが高く、進行するとコストが下がることだ。

重要なのはグラフの形

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ゲームA(オレンジ)が初期コストを軽減するためカードの配布を行うと、ゲームの課金余地が大幅に少なくなってしまう。一方ゲームB(水色)は、多少の配布を行っても影響は少ない。ゲームAとゲームBを比較したとき、カードの配布やゲーム内の報酬増加に弾力性があるのはゲームBで、ゲームAは報酬を絞る「ケチ」なゲームと思われやすい。

モバイルゲームの「課金」をプレイヤーが評価するとき、「無課金で遊べる・遊べない」などの「最低額」か、「何十万円も使ったのに出なかった」などの「最高額」が話題になりやすいが、設計者は最低額・最高額だけでなくグラフの形にも気を配る必要がある。

モバイルRPGは複数の課金プランを組み合わせることで、必要なお金を指数的に増加させている。ガチャは戦力が整ってないうちは何を引いても有効だが、戦力が整ってくると「当たり」を引かないと効果がない。そのため、ガチャは単独でも戦力増加に必要なコストが徐々に増える構造を持っている。

ここにガチャより低価格・高コスパの商品と、高価格・低コスパの商品が組み合わさる。初心者支援パックなど購入制限のあるお得パッケージは前者、ランキング争いのためのスタミナ課金は後者に属している。典型的なモバイルRPGの課金プランが、時間と進行度の関係と同様に、コストが指数的に増加する仕組みを持っていることが分かる。

(実際には、昨今のモバイルゲームは高額課金を控える傾向があり、ランキング争いがなかったり、ガチャにも「天井」が導入されるなど、高コスト部分がカットされていることが多い)

コストと報酬の関係を「技術」に当てはめる

ここまで、時間やお金などの「コスト」と、ゲーム進行度などの「報酬」との関係について、

・コストに対し、長すぎず、短すぎないスパンで報酬が必要
・長期間のプレイを前提とする運営型ゲームは、初期コストが安く、徐々にコストが上がる指数曲線が望ましい
・序盤のコストが高く、終盤にコストが下がる指数曲線は望ましくない
・正弦曲線や非線形にすると、面白さが増す

と論じてきた。

これらは「時間」や「お金」などの分かりやすいコストだけでなく、「操作技術」などゲームがプレイヤーに要求すること全般に当てはまる。具体的に見ていこう。

アクションゲームのレベルデザイン

アクションゲームなどプレイヤーに操作技術を要求するゲームは、ゲームの進行度に応じて必要な技術レベルが徐々に上昇することが望ましい。自分の技術に対し、難しすぎず、簡単すぎない挑戦をするとき人は「フロー」という状態になり、挑戦に熱中する。

ゲームの進行度とゲームに必要な技術レベルを結び付けるとき、

・ゲームの取得に必要なスキルを要素分解する
・基礎的なスキルと、複数のスキルを組み合わせた複合スキルを分類する
・スキル習得ツリーをつくり、スキルを基礎的なものから順に並べる

などの作業が必要だ。

ゲームの操作技術はRPGのキャラクターと違って、ただゲームをプレイするだけでは成長しない。そのため、プレイヤーが学習しやすい順にスキルを要求しなければならない。また、スキル習得の動機付けとして、ゲームの進行や敵に対する勝利、キャラクターの成長などを、報酬として設置する必要がある。

これらのノウハウが凝縮されているのが、スーパーマリオブラザーズなど、プラットフォームゲームと呼ばれる古典的なアクションゲームのレベルデザインだ。

スレッドの添付動画で解説されているように(解説は4/9から)ロックマンXの導入ステージは、

ショット → 移動 → ジャンプ → 攻撃 → ジャンプ+攻撃 → ジャンプ+攻撃+弱点を狙う → ジャンプ+壁蹴り → チャージショット

と、必要なスキルを1つ1つプレイヤーに習得させている。また、面白さを増す正弦曲線も多くのアクションゲームにおいて、ステージ序盤から終盤にかけて難易度が上がり、次のステージの序盤は簡単になるなどのステージ構造によって形成されている。

対人ゲームの技術要求

古典的な1人プレイのアクションゲームは、スキルを基礎的なものから徐々に要求するレベルデザインを行っている。しかし、他のプレイヤーと対戦する対人ゲームはこの手法を使いづらい。

対人ゲームは対戦相手が人なので、進行度と技術レベルが結びついていない。ランクシステムなどで実力の近いプレイヤー同士を対戦させることは可能だが、運営が長期化しプレイヤー全体の水準が高くなると、新規参入しにくくなってしまう。

また、1人プレイのアクションゲームはスキルを習得しやすい順番で課題の提示をするが、対人ゲームはプレイヤー自ら創意工夫してスキルを要素分解し、習得しなければならない。

つまり、初心者ほどゲームを楽しむためのコストや、スキルの取得コストが高い状態になっている。これは「悪い指数曲線」に近い状態だ。敷居が高いとされる対人ゲームは、初心者に要求するコストが高い。ストリートファイターなどの格闘ゲームを楽しむためにはコンボ練習などの「筋トレ」が必要で、これはプレイヤーに要求する「コスト」として典型的と言える。

対人ゲームの敷居を下げる手法

対人ゲームの敷居を下げるためには、ゲームを楽しむための初期コストが高い状態を脱却しなければならない。具体的な手法を検討していこう。

・技術がなくても楽しめるようにする
技術がなくても楽しめるようにゲームの構造を変えるのが、ヒットタイトルによく見られる手法だ。

Counter-StrikeなどのFPSを楽しむためには射撃技術が必要だが、PUBGなどのバトルロイヤルは射撃技術が全くなくても、逃げ回ってるだけでそこそこ楽しめる。また、勝つか負けるかのFPSと比べ、バトルロイヤルには順位があるため、射撃技術がなくても小規模な成功を収めることができる。

荒野行動Fortniteが従来のFPSを全くプレイしなかった層にリーチし、若年層に爆発的に普及した理由はここにある。どちらも(特にFortniteは)高い技術を要求するゲームだが、これは最高水準の技術レベルについてであって、ゲームから楽しさや成功体験を感じるために必要な技術レベルは低い。

ゲームの上級者はゲームの「難しさ」をゲームの奥の深さと混同しがちだが、初心者を阻む「難しさ」は楽しむために必要な初期コストである。初期コストを下げ望ましい指数曲線を作ることが、簡単さと奥深さを両立する基本戦略だ。

・楽しむためのハードルになっている要素をなくす
ゲームに複数の要素があるとき、楽しむための初期コストを上げている要素、つまり初心者に対する「足切り」の効果が「奥深さ」より大きい要素を撤廃してしまうのも1つの選択だ。

League of Legendsに代表されるMOBAは人気RTS、Warcraft IIIのmod(ユーザーが自主的に作った改造版)が元となったジャンルだ。RTSは操作技術、意思決定力、事前研究などあらゆる能力が要求されるジャンルだが、MOBAはRTSの重要な要素だったマルチタスクの内政管理を完全に撤廃した。

RTSの内政は上達しないとほぼゲームに参加できない「筋トレ」要素だったため、この要素の廃止はMOBAが普及した要因の1つだと思われる。

・楽しむためのハードルを緩和する
完全に廃止することが難しくても、初心者に課す筋トレ要素を発見すれば、要素をマイルドにする選択肢が生まれる。

大乱闘スマッシュブラザーズは格闘ゲームの技術要求を緩和し、かけ引きに重点を置くことを意図したシリーズで、多くのファンを獲得している。

また、プロ格闘ゲーマーのウメハラ氏は技術要求の緩和と、技術の価値の維持を両立させる意図で、リズムゲームの判定のようにタイミングが合った入力にボーナスを与えるシステムを提案している。

成功は繋がる、失敗は繋がらないという落差が激しすぎるから、技術がない人達は気持ちよくなくなっちゃう。
技術がない人達でも、ボタンを押せばきちんと画面に反映されるという気持ちよさを残しつつ、上手い人達は全部ビタで押したからダメージが15アップとか、実際それがちゃんと画面に出ると良い。キャラクターが白く光るとか。

ウメハラ、ふ~ど、ネモが語る格闘ゲームの調整
http://chigesoku3.doorblog.jp/archives/50389315.html

これはまさに、報酬を得るための初期コストの低さと、向上の余地(奥深さ)の両立を狙った案であり、興味深い。

初期コストの高い要素を見つけることは、開発だけでなくコーチングやマーケティングにも有用だ。ゲーム自体だけでなく、ゲーム外の取り組みも敷居を下げる力がある。

上記のブログ記事は、習得コストの高い要素を無視することで、楽にゲームに勝利し、楽しむことを奨励した記事だ。このようなアプローチも敷居の高いゲームを普及させるには必要だろう。

・必要なスキルを習得するコンテンツを作る
初期コストの高い要素がゲームの中核的な要素で、取り除けず緩和もできないときは、プラットフォームゲームのように要素分解したスキルを、1つずつ習得するための導入コンテンツが求められる。

敷居の高い対人FPSが欧米に浸透しやすかった理由の1つは、1人プレイのFPSによって鍛えられたプレイヤーが多かったことだろう。(Counter-StrikeはHalf-Lifeのmodから派生したゲームだ)

格闘ゲームの1人プレイモードは対人戦の代替として設計されており、スキル習得のためには設計されていない。これは元々ゲームセンターでプレイされていた名残と思われるが、導入コンテンツがゲーム内に全くないことも格闘ゲームの敷居の高さに拍車をかけている。

プラットフォームゲームのような精度の高いスキル習得コンテンツは、設計が難しくコストもかかるため、あまり試みられない。しかし、ヒットタイトルや大規模展開を目指すタイトルならチャレンジする価値はある。
(この点でグランブルーファンタジー ヴァーサスのRPGモードは「残念な出来」と言わざるを得ない)

このアプローチもコーチングに転用できる。以下の動画(日本語字幕あり)では、初心者にとってつまらない個別スキルの練習(筋トレ)をゲーム化して面白くする手法が紹介されている。

自由は意思決定のコストを生む

楽しむためのハードルになるのは操作技術だけではない。プレイの選択肢もプレイヤーにとっての負荷になる。

選択肢の豊富さは、一般的にプレイヤーにとって良いことだ。選択肢のないゲームはそもそもゲームなのか怪しいし、選択肢が多いとプレイヤーは自由や戦略の奥深さを感じる。

一方、複数の選択肢を提示することは、プレイヤーに意思決定を要求することを意味する。意思決定は疲れるし、難しい。あまりにも難しい選択は、難しい操作と同じくプレイヤーを離脱させる。操作技術と同様に、コストと報酬のバランスを取る必要があるのだ。

プレイヤーを誘導して自由とコスト軽減を両立する

選択の自由と意思決定コストの軽減は、選択肢を残しつつ、プレイヤーを1つの選択に誘導することで両立できる。選択したいときは豊富な選択肢から選択し、選択したくないときや何も分からないときは誘導に従えばいい。そして、多くの初心者は誘導されていることにすら気づかない。

典型的な実装例はアクションゲームのレベルデザインだ。中でもスーパーマリオブラザーズの1-1は有名で、マリオが左側に居るので右に進む、?と書かれている箱があるので叩く…などプレイヤーが自然と開発者の想定した行動をとるように設計されている。また、プレイヤーが自発的に(誘導に従って)行動するため、スキルの習得も捗りやすい。

これを高度化したのがゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルドで、自由度の高いオープンワールドの世界でプレイヤーが迷子にならないよう、プレイヤーを誘導する多くの仕掛けが用いられている。

誘導はアクションゲームだけに限らない。トレーディングカードゲームの元祖Magic: The Gatheringにはキッカーという能力のカードがある。

キッカーはカードを使用するときに追加の費用を払うことで、より強力な効果を発揮する能力だ。これは通常とキッカー、2通りの使い方があることを意味する。

これらの使い方は並列に表記されておらず、通常の使い方が目立つよう表記されている。このように複数の選択肢から1つを強調表示するだけでも初心者を誘導する効果がある。キッカーの表記法は、2通りの使い方が並列表記されている分割カードより意思決定の初期コストが低いと言える。

解答を提供して意思決定を不要にする

さらに強力な誘導方法には、100点満点中80点くらいの解答をプレイヤーに明示してしまうものがある。

代表例はデジタルカードゲームのデッキ構築だ。HearthstoneやShadowverseなどメジャーなデジタルカードゲームは、強力なデッキ構築支援機能を持っている。Hearthstoneには機械学習を用いたサジェスト機能があり、Shadowverseは大会上位デッキをゲーム内のみでコピーできる。

デッキ構築はカードゲームの醍醐味だが、初心者のオリジナルデッキがコピーデッキに対抗するのは困難で、デッキ構築は上級者でなければ楽しめない要素になっている。デッキ構築を完全にスキップする機能は、デッキ構築の自由度を残しつつ初心者の脱落を防ぐ効果を持っている。

また、MOBAにも解答提示システムが導入され始めている。MOBAは試合中に稼いだお金で多くのアイテムの中から状況に合わせたアイテムを購入してキャラクターを強化するが、League of Legendsのモバイル版Wild Riftでは、そのとき購入すべきアイテムが常に画面上に表示されている(このシステムは中国のモバイルMOBAでは以前から導入されていた)。

「おすすめ」という形で暫定的な解答を提示することも、奥深さに伴うコストを軽減し、選択の自由と低い意志決定コストを両立させる手法の1つだ。

ゲームの奥深さと難しさを分けるもの

ここまで見てきたようにゲームの要素は、

・無視しても楽しめるようにしたり、解答を提供して必須でなくする
・正しい選択に誘導する
・スキルを習得する導入コンテンツを作る
・習得コストの高いスキルを特定し、緩和したり、ゲーム外から支援する

ことで初期コストの低さと、奥の深さを両立できる。反対に、

・強制する
・面白くなるまでに時間や労力がかかる
・選択のガイドラインがない
・導入コンテンツや成長のマイルストーンがない

などの条件が揃うと、プレイヤーに対するハードルとして機能してしまう。

このように、ゲームのハードルとなる「難しさ」は多くの要因が複合したものだ。「簡単・底が浅い」ゲームと「難しい・奥が深い」ゲームを二分して、「簡単な方が売れる」「難しいから一般受けしない」などとする意見は「難しさ」の解像度が低い一面的な見方だろう。

ゲームに必要な要素を見極める

ゲームの要素をコストと報酬の関係として捉えることで、ゲームの面白さや奥深さと、悪しき難しさを区別できる。このことはゲームを設計する際、どのような要素を導入し、どのような要素を省くかの判断にも有用だ。

League of Legendsには操作技術、試合中の意思決定、装備の事前知識など多くの能力が必要だが、どれかが欠如していてもゲームを楽しむことは可能だ。例えば操作技術の低いプレイヤーは、対戦相手と対峙する時間の短い役割を選べるし、意思決定に自信がなければ味方のプレイヤーに従えばよい。事前知識もおすすめ機能による支援がある。

このように、初期コストが低く、奥は深い要素がゲーム内に多ければ、より多くのプレイヤーに訴求し、タイトルの魅力を高めることができる。
一方、要素の初期コストが高いと、プレイヤーを遠ざける効果の方が強くなってしまう。

ドラゴンクエストライバルズなど位置の概念を強調したデジタルカードゲームがいくつかあるが、位置の概念は初心者への負荷が強い。ユニットを出すたびにどこに出すかの選択を迫られ、選択に必要な情報は十分に与えられない。
位置によって生まれる奥深さはあるものの、発生するコストと見合っているとは言えず、位置の概念を強調したデジタルカードゲームはいずれも商業的に成功していない。

要素を減らすときも、減らす要素や残す要素のコストと報酬を精査することが重要になる。ファイトクラブ(サービス終了済)は、読み合いや距離感など、格闘ゲームのかけ引きに焦点を当て、操作を極端に簡略化したゲームだ。複雑な操作を撤廃し、カジュアルゲーマーへの訴求を狙ったタイトルだったが、商業的には成功しなかった。

格闘ゲームのかけ引きに代表される「意思決定」は、ゲームの要素の中でも習得の難しい要素だ。意思決定はスキルの要素分解が難しく、マイルストーンが乏しく、成功の実感もすぐに得られない。

難しい要素を取り除いても、残った要素がさらに難しい要素だけならばプレイヤーの逃げ道がなくなり、かえってハードルを強調してしまう。これはLeague of Legendsがプレイヤーに多様なスキルを要求することで、プレイヤーの多様性を許容しているのと逆の現象である。

まとめ

・ゲームの面白さはプレイヤーに負荷をかける。負荷の強さと面白さは、「コスト」と「報酬」の関係にある

・コストと報酬の関係をグラフにしたとき、長期間のプレイを前提としたゲームは、初期コストが低い「指数曲線」を形成するのが望ましい

・「非線形の構造」や「正弦曲線」を取り入れるとゲームの面白さが増す

・ゲームの要素ごとにコストと報酬の関係を精査することは、要素の改良、緩和、コーチング、追加・廃止の判断に役立つ

ゲームの面白さを最大化する上で、面白さのコストパフォーマンスを改善することは非常に重要だ。コストは人間の思考や認知のプロセスと密接に関わっており、行動経済学や認知科学などゲームデザイン以外の領域から多くの知見が応用できる。気になった人は参考文献を足掛かりに、研究してみるのもおすすめだ。

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・参考文献

(12月26日追記:ゲームデザイン本の紹介記事を書きました)


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