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Magic: The Gatheringの「禁止」についてのメモ

『Magic: The Gathering』のスタンダードで、新たに3枚のカードが禁止されました。

今回の禁止やWizards of the Coast開発部メンバーのQ&Aを見ると、前回の自分の記事は、Wizards of the Coastの方針をおおむね言い当てられているため、スタンダードの運営方針について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

さて、そんなわけで今回は予想範囲内の禁止でしたが、SNS上では様々な意見があったようです。前回の記事は少し長いので、今回はスタンダードにおける禁止に絞って、Wizards of the Coastが今後どのように禁止措置を行っていく可能性が高いかを簡単にまとめてみます(どうすべきかではなく、どうなるだろうかという記事です)。

まず、スタンダードにおける禁止措置は元来、ゲーム環境が破綻したときに行う、言わば「最後の手段」でした。

私は、マジック開発部ディレクターとしてのキャリアを通して、1枚もスタンダードに禁止カードを出さないことを目指していました。

スタンダードの禁止に関する声明 2011年6月20日
https://mtg-jp.com/reading/translated/0003964/

2011年7月1日発効の「精神を刻む者、ジェイス」「石鍛冶の神秘家」の禁止はこのような書き出しで告知されました。この禁止措置は2004年・2005年に行われたミラディンブロックのカードに対する禁止以来7年ぶり、2004年の禁止措置は1999年以来5年ぶりです。

この方針は2017年に大きく変わります。「約束された終末、エムラクール」「密輸人の回転翼機」「反射魔道士」の禁止です。

私はスタンダードで禁止を出すべき時のハードルが過去において高すぎたと考えています。

スタンダード 2017年1月13日
https://mtg-jp.com/reading/translated/ld/0018263/

このときから「禁止」は「ゲームが正常にプレイできなくなることを防ぐ最後の手段」から、「ゲームを面白くする手段」に変化しました。

これ以降、スタンダードにおける禁止措置の頻度は激増します。2017年から2022年までに禁止されたカードは27枚。禁止措置の告知回数は12回です。

これはWizards of the Coastが明言しているように「禁止を出すべき時のハードル」を引き下げたことに起因しており、開発力の低下によるものとは必ずしも言えません。
さすがに「守護フェリダー」くらいは事前に検知してほしいですが、「不詳の安息地」みたいな可愛らしいカードが禁止される一方、禁止のハードルが下がる前は「梅澤の十手」「血編み髪のエルフ」「集合した中隊」あたりが野放しだったため、少なくとも禁止の枚数だけで論じるのは適切ではありません。「禁止 = 開発失敗」という意見は「禁止 = 最後の手段」時代の禁止観を前提とした意見と言えます。

このハードルの変化は2019年9月リリースの『MTG Arena』によって助長されており、2019年10月から2020年8月の期間は10枚のカードが4回に分けて禁止されています。2020年8月の「大釜の使い魔」の禁止はその最たるものと言えるでしょう。

さらに、これらのカードが生み出す誘発型能力の数はデジタル・プレイにおいて両方のプレイヤーにとって煩わしいものになる可能性があります。

2020年8月3日 禁止制限告知
https://mtg-jp.com/reading/publicity/0034244/

こうして今回の声明文を振り返ると、Wizards of the Coastが2017年に引き下げた禁止措置のハードルを再び引き上げようとしていることが明らかです。

現在の禁止はプレイヤーがスタンダードに取り組む上での痛点です。禁止はあまりにも突然に出され、あまりにも一貫性を欠いていて、プレイヤーが安心してデッキを構築してプレイするということを損ないます。

2023年5月29日 禁止制限告知
https://mtg-jp.com/reading/publicity/0036964/

ハードルが2017年以前の、禁止を出そうものなら長文の謝罪が必要になるレベルになるかは分かりませんが、少なくとも2019年以降のペースでは禁止措置が行われない可能性が高いです。SNSには「こういうカードも禁止して欲しかった」という意見が多く見られますが、これは「禁止 = 開発失敗」論が「禁止 = 最後の手段」時代の禁止観を前提としているのと同様、MTG Arenaの禁止観を前提としています。

紙の『Magic: The Gathering』と『MTG Arena』(と『Magic Online』)が別の体験をもたらす以上、どちら側に寄せるか(どちら側をどのくらい犠牲にするか)は常に検討しなければなりません。紙のスタンダードが危機的な状況になっており、『MTG Arena』はDCG市場における地位を確立できたため、今回の方針転換はタイトル全体の方針としては理解可能ではないかと個人的には思っています(どうしても我慢できないArenaプレイヤーが、今後アルケミーに誘導される可能性も高いです)。

今回の記事でまとめたかったことは以上なのですが、過去の声明文を読んでいくとWizards of the Coastが丁寧な説明を毎回試みていることが改めて分かると思います。「どうすべきか」は諸説あるべきだと思いますが、ひとまず声明文をもっと丁寧に読んであげると、議論の解像度も上がって良いのではないでしょうか。

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