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「インプット」ってどうやればいいの?

創作において「インプットが大事」みたいな話はよく聞きます。しかし「インプット」をどうやってすればいいのかは、インプットの大事さと比べるとあまり説明されていないのではないでしょうか。

例えば、この記事には桜井さんが膨大なゲームや漫画を鑑賞しインプットしていることが書かれていますが、観察眼の養い方を聞かれた際は「見ればわかるでしょう!」「もしかしたら、私は動体視力が少し良いほうなのかもしれません」くらいの答えで流れされています。
「あんなにたくさん遊んだのに、まったく気がついていませんでした……」と話す人が登場するように、漠然とコンテンツを鑑賞するだけでは創作に役立つインプットはされないのが実際のところです。

我々はこれまでの人生で数万回の食事をして「美味い」「不味い」と日々思っていますが、それだけではプロの料理人にはなれません。コンテンツを鑑賞することと、そこから何らかの情報・知見を得ることは同一ではなく、(私も含めて)多くの人が「ただ食べているだけ」になっています。ここで「日々豊かな感受性を持って生きましょう」みたいなお説教をされたところで、全然嬉しくない気がします。

そんなわけで、私が思っている「インプットのコツ」を披露してみよう、というのがこの記事の目的です。

創作上の課題や疑問を意識する

先ほどの料理のたとえを続けますが、例えば「1か月前に焼肉屋で食べたサラダに入ってた野菜」を思い出せるでしょうか?少なくとも私は思い出せません。漠然とコンテンツを鑑賞すると、「美味しかった(良かった)」という気持ちは残っているものの、コンテンツの内容は大して覚えていないという事態が起こり得ます。

しかし、自分で色々なサラダをつくるのにハマっている人は、外食をするときも美味しいサラダがあれば「今度この野菜も使ってみよう」と思うでしょうし、1か月後も覚えている可能性が高いです。サラダを自分でつくっている人は「どのような野菜をサラダに入れるべきか?」という観点でサラダを見るため、「入っている野菜」をインプットしやすい状態になります。

自分自身が創作を行い、その中で何らかの課題・疑問を感じている人は、コンテンツを「課題や疑問の答え」という観点で見ます。上記の記事でも軽く触れられていましたが、創作に着手し、課題を意識している状態になることは、インプットをする上で非常に有効だと思います。

分析の切り口を掴む

課題感はインプットに有効ですが、日々目にするコンテンツすべてから課題に合致する要素を見出せるわけではありません。このとき、普遍的に使える分析の切り口をツールとして持っていれば、自分の専門分野ではない「土地勘のない」ジャンルから知見を得やすくなります。

私はゲームを見るとき、Gamer Motivation Modelを意識することが多いです。Gamer Motivation Modelはゲーマーがゲームをプレイする動機を「Story(物語)」や「Strategy(戦略)」など12の因子に分類したものです。分析するゲームの「面白さ」を12因子に分解して把握することで、ゲームの特徴を理解しやすくなります。また、それぞれの仕様が12因子にどのような影響を与えているかを考えると、ゲームデザインの方針も何となく推測することができます。

このような分析の観点は、あくまで自分のインプットを促進するためのツールとして扱う限り、どれが正しい・正しくないということはなく、自分に合った「刀」を使えばいいのではないかと思っています。

一方、切れ味の良い刀を持つと何でも切りたくなってしまうため、特定の分析手法に拘泥して、物の見方が画一的になることには注意が必要です。分析の観点が多いほど知見を得るチャンスが増えるため、色んな刀を揃えておくことが望ましいと思います。他人が一見的外れな「考察」をしていたとしても、「こういう見方もあるんだ」と思うのがいいのかもしれませんね。

体系的に学ぶ

「インプットを促進するための分析ツールが必要」と言ったところで、「便利な分析のツールが見当たらない」人もいると思います。こういうときは、教科書など体系的にまとめられたテキストを学ぶのがおすすめです。教科書には同種のコンテンツに共通する構造や、幅広く有効な概念が書かれていることが多く、大抵の場合何らかの分析ツールは手に入ります。
ゲームはあまり体系化されていない分野ですが、『ゲームデザインバイブル』『ゲーマーズブレイン』『ゲームメカニクス』を読むだけでもかなり違うのではないでしょうか。

問題は、体系的な学習をいきなり始めるのは、大半の人にとって面白くないという点です。何の課題感も好奇心もない状態で本を読んでも苦痛ですし、大して記憶に残りません。「創作上の課題や疑問を意識する」「分析の切り口を掴む」を先にやってみて、行き詰った段階で教科書に助けを求めるという方法もあるでしょう。

なお、体系化されたテキストを読むことで、いままでバラバラに収集していた情報が関連付けられ、相乗効果を持ったり、新たな観点を発見できることがあります。体系的学習は、むしろ今まで実務で十分なインプットを行ってきた人にこそ効果の高い方法かもしれません。

インプットは情報を入れる「引き出し」が大事

今まで紹介してきた「コツ」は結局のところ、情報の「引き出し」を増やすことと言えます。我々はコンテンツから情報を得るとき、コンテンツのありのままを記憶するのではなく、コンテンツから必要な要素を抜き出し、それを観点ごとの引き出しに入れていきます。サラダであれば「野菜」「ドレッシング」「盛り付け」などです。

インプットが得意な人は引き出しの数が多く、同じコンテンツを鑑賞してもより多くの要素を、高い解像度で抜き出し、様々な引き出しに入れていきます(サラダに「器」という引き出しがあったり、「ドレッシング」の中に「油」という引き出しがさらにあったりします)。

往々にして引き出しの多い人は引き出しが多いことに無自覚で、「見れば分かるでしょ」とか「感性を磨く」とか言ってくる傾向にあります。「見ても分からんわ」と困っている人は実践・分析・学習で引き出しを増やすことを意識するのがいいと思います。

人に教えようと試みる

これはよく言われていることですが、人に教えることは引き出しの整理につながります。人に伝えようと試みると、当然ある程度の整合性や網羅性が求められるので、自分の中での体系化が促進されます。

「今まで分かっていたつもりになっていたが、話のつじつまが合わず、分かっていない部分が判明した」ということがよく起こり、この時点で「分かってない部分」、つまり新たな引き出しを発見したことになります。私がこういうnoteを書いているのも、自分の思考を整理するためという側面があります。

こうやってテキストを公開した方が、人に褒められたり、逆にツッコミをもらえたりするチャンスが生じるので望ましいのですが、恥ずかしい・怖い・面倒くさいという人は、頭の中のイマジナリーフレンドに教えるだけでも効果はあると思います。
私は、何かを考えないといけないが糸口が完全にノーアイデアな状態のとき、とりあえず目についた記録できる情報を無心で収集して架空のミーティングに使う資料を作成することがありました。誰にも見せないものですが、自然と「こういう情報が必要だな」などと情報収集が促進され、仮説が生まれるきっかけになりました。

習慣化する

ここまでは情報を入れる先の話でしたが、情報収集についても軽く触れておきます。まずインプットする量を増やす場合、日常的に行うのが望ましいです。

「休日に頑張ってここ1か月のゲーム業界のニュースを調べるぞ」「連休中は積みゲーを全部消化するぞ」こういうことは大抵の場合実現しません。わざわざ頑張ってインプットするのは辛いです。日常的に収集しないといけない情報は、何もしなくても勝手に入って来る状態にすべきで、ニュースサイトや有識者・キュレーターのTwitterアカウントをリストに入れ、毎日見るなど、なるべく習慣に組み込んでいく方が量を確保しやすいです。

この記事のおまけとして、私が見ているゲーム関連メディアのTwitterアカウントを末尾に貼っておくので、巡回先を探している方は参考にしてみてください。

インプットの偏りを自覚する

習慣の話にも関連しますが、いまの時代、どんな人にもインプットの偏りはあります。

例えば、ゲームデザイナー・ライターはゲームを沢山プレイしないとダメみたいな話があったとして、近年とてつもない数のゲームがリリースされつづけており、各タイトルはより長い時間プレイヤーを拘束しようとしています。話題作・人気作に絞ってプレイするだけでも至難の業です。

以下の記事には昨年(2022年)のモバイルゲームのMAUランキングや、上半期売り上げランキングが掲載されています。ここに載っているタイトルは、日本の人気モバイルゲームトップ10と言ってもいい「大人気タイトル」ですが、「どういうゲームか分からないタイトルがある」という人も多いのではないでしょうか。

ここでわざわざモバイルゲームを持ち出したのは、「ゲームを沢山プレイしないとダメ」的なことを言う人に、「低俗な」モバイルゲームを軽視し、「高尚な」コンシューマゲームやインディーゲームを重視する傾向があると感じているからです。ほかにも「海外の」と言うとき、北米やヨーロッパ市場のタイトルが注目され、中国や東南アジア市場で流行ってるタイトルはあまり注目されない印象があります。

もちろん時間も気力も有限なのでプレイするゲームが偏るのはしょうがないのですが、幅広いインプットを心掛けるならば、偏りを自覚し、補正を試みるのも有益に思えます。

特に現代はテレビ・新聞・雑誌などのマスメディアが弱体化し、SNSやYouTubeなどのパーソナライズが激しいメディアが力を増しているため、人によって見ている世界がまるで違います(Twitterのおすすめタブのスクショを貼って、日本中で話題になってるかの如く主張するのはやめましょう)。

そのため、観測対象に自分とは違う発想のアカウントを入れたり、ランキング・チャートなどの客観的な指標を定期的に見たり、網羅的な資料を確認するなど、無知を発見する棚卸作業を定期的にやることがおすすめです。習慣的に見ているからこそ、見る対象のメンテナンスが大事です。

ちなみに私はJ-POPに詳しくないため、Billboard JAPANの2022年ランキングを見て、聞いたことない人がトップ10に複数居て驚きました。やはりこういう網羅的・客観的な情報にたまに触れ、知らないものを知るのは中々面白いと思ってます。

おまけ:筆者が見ているゲーム関連メディア

・国内

4Gamer
https://twitter.com/4GamerNews

ファミ通.com
https://twitter.com/famitsu

gamebiz 【ゲーム業界ニュースサイト】
https://twitter.com/gamebiznews

電ファミニコゲーマー
https://twitter.com/denfaminicogame

AUTOMATON
https://twitter.com/AUTOMATONJapan

・海外

Kotaku
https://twitter.com/Kotaku

GameSpot
https://twitter.com/GameSpot

Game Informer
https://twitter.com/gameinformer

GameDeveloper.com
https://twitter.com/gamedevdotcom

・中国

ゲーム大陸 -中国ゲーム情報サイト-
https://twitter.com/Game__Tairiku

ゲーム会社で働く女子のつぶやき〜中国ゲーム・アニメ情報〜
https://twitter.com/mami67887139

・アプリ全般

アプリマーケティング研究所
https://twitter.com/appmarkelabo

Sensor Tower
https://twitter.com/SensorTower

・その他

モリカトロンAIラボ
https://twitter.com/morika_ailabo

Kultur
https://twitter.com/Kultur_t

Negitaku.org esports
https://twitter.com/negitaku

ICv2
https://twitter.com/ICV2

ジュンク堂書店池袋本店 PC書担当
https://twitter.com/junkudo_ike_pc

上記に気になるタイトルや個人のアカウントを加えたリストを巡回しています(App Store・Google Playのランキングもよく見ています)。

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