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夢うつつ、まぼろしの絆

その日、私は二男と住んでいたアパートで惰眠を貪っていた。

確か2013年の夏のこと。7月の暑い昼下がり。

専門学校に通う二男は当然学校に行っている。当時の私は大手書店チェーンで契約社員として日中働きながら、併せて早朝コンビニのアルバイトもしていた。

夫と離婚したい、そんな気持ちに駆られて家を出たのだった。当時二男はそんな私に寄り添ってくれて、ふたりで暮らしていた。

1か月ごとの休み希望を出す書店と、1週間ごとの勤務希望を2週間前に提出するコンビニをかけもちしていた。

書店の来月分の勤務シフトがわかるのは、月末ギリギリだった。

つまり、タイミングが悪いとせっかく書店が休みでも、コンビニの早朝シフトを入れてしまっていた!ということになり、休みが休みではなくなる。そんな「貧乏暇なし」を絵に描いたような生活をしていた。

早朝6時前から働くと、たとえ3時間ほどの勤務でも昼にはもれなく眠気が襲ってくる。そんなわけで、その日はもったいないことに、午後のいい時間にとろとろと眠りこけていた。

玄関の鍵がガチャガチャと音を立て、ドアが開いた。

眠ってはいたがはっきりと意識があった。身体が休んでいて脳が活動している、レム睡眠というやつか。

がやがやと若い男の子たちが入ってくる気配がした。

眠りながら、見てもいないのになぜかはっきりと
「二男と、他に3人の友達。全部で4人いる」
と感じていた。

いや、むしろ俯瞰で見ているような感覚だった。見てはいないのに見えている。そう説明するほかない、不思議な身体感覚。

夢とうつつを行ったり来たりしている内に、いつの間にか誰もいなくなっていた。はっきりと目が覚めて玄関へ行くと、二男が帰って来た形跡は無かった。

私が眠っている間に友達を連れて来て、またどこかへ出かけたのか?と思ったが、そうではない。帰って来た形跡は皆無。それは、わかる。

狐につままれたような、という表現はこんな時に使うべきかな、などどのんきに考えながらとても不思議な気がしたが、その時は

「なぁんだ。夢を見ていたのか」

と思った。そう思わざるを得なかった。

その夜、二男が本当に家に帰って来てから、友達を連れて来た夢を見ていたことを話すと、確かにその時間は友達と遊んでいた、という。

「え?ほんと?ねぇねぇ何人で遊んでた?全員男の子だった?」

聞くと、

「ああ。全員男だよ、6人」

「なんだそうか…。6人か。4人じゃないのね」

その時はそれで終わった。

翌月、一泊で家族旅行に行った。私の母が毎年夏休みとお正月の頃には家族旅行がしたいと言って、子どもたちが小さいころから近場ではあるが一泊でよく車で連れて行ってもらった。

この時は当然私の夫には声をかけず、私の両親と弟、二男と娘と私で出かけた。長男は既に就職していて、休みが合わず一緒には行かなかった。

アウトレットの駐車場から店舗へ向かう林の中を歩きながら、たまたま件(くだん)の私の夢うつつの話になった時、二男が思い出したように話し出した。

「母さんあの時さ、家に4人入って来たと言ってたじゃん?6人で遊んでたと言ったけど、実は最初は4人だったんだよ…」

「えぇっ⁉そうだったの?」

「うん。しかもその時、友達の内のひとりが、

『よし、これからユウジ(二男・仮名)ん家行くかぁ!』

って言ったんだよ…」

お互い、顔を見合わせた。

つまり?

「あんたと友達の合わせて4人は、学校の近くで遊びながらも意識はうちのアパートへ来ていたってことね…。それを、私の疲れた身体から浮いちゃった魂がキャッチしてたってことでいいですかね…」

私は霊など見えない。

人の過去世や、未来も見えない。

でもなぜか、たまに寝ながらにしていろいろなものを見ることがあるのだ。

「キャッチする」という言葉が一番しっくり来るかも知れない。

はたちの学生だった頃、友達に電話をかけてもなかなか繋がらない、いやな感じの夢を見た。

どうにも気になって実際友達の家に電話をしたら、その子の母親から入院したと聞いて愕然としたこともある。

私の左胸が焼けただれたようになった夢のあとほどなくして、私ではなく母の乳がんが見つかった。左胸だった。

夢は私に、大切なことを教えてくれる。警鐘を鳴らしてくれる。

あの夏ふたりきりだった二男と私は、2年後の2015年にもといた家に戻り、子どもたちは長男、娘、二男の順に全員結婚して家を出て行った。

夫とは結局離婚せず、のらりくらりと今の生活に感謝しつつ暮らしている。

そんなことを書き綴っていたら、玄関を開けて聞き覚えのある足音が階段を上がって来た。

なぜ足音でわかってしまうのだろう。


「ユウジ?(二男・仮名)

今ね、ちょうどあんたの話を書いていたところ」

「おお、友達と遊んでた時の話な」

大人になった息子たちは、まるで他人のような感覚なのだが、このへん、ぽんと返してくるあたりに絆を感じずにはいられないのだ。

(↑ここまででちょうどぴったり2000文字!)

#2000字のホラー

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