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経済に関するメモ(7) 【金融市場】

本メモは経済の基礎的な内容に関するメモです。


1. 金融市場 22項目

1-1. 金融
…カネが余っている人からカネが必要な人へ、カネを回すこと
→双方の利害を一致させてカネを回すのは難しい、カネが余っている人は利回り・安全を求める、カネが必要な人は低いコストでカネを得ようとする
→カネ回しの利害調整機能としての金融機関


1-2. 間接金融
…カネが余っている人とカネが必要な人が相対せず、それぞれが金融機関と取引を行うカネ回し
→銀行は預金のカネを回すわけではない、銀行に預金した人は自分のカネがどこに回ったかを知ることはできない、銀行から融資された企業が倒産してもカネは引き出せる


1-3. 直接金融
…カネが余っている人とカネが必要な人が直接取引を行うカネ回し
→市場を活用する、カネが余っている人はカネが必要な人を探し回らなくていい
→証券会社に入金した人は証券会社の市場取引を経由して取引できる、取引には有価証券を用いる


1-4. 市場
…売り手と買い手が集まって取引を成立させれる場所
→金融の場合、カネが余っている人とカネが必要な人が集まって取引を成立させれる

・相対型取引市場
…取引参加者が相対で取引をする

・市場型取引市場
…不特定多数の参加者が取引をする


短期金融市場

…取引期間が1年以内、インターバンク市場、オープン市場

1-5. インターバンク市場
…取引参加者が銀行などの金融機関に限られる


1-6. コール市場
…手形売買市場、ドル・コール市場など
→コール市場が中核をなし、ここでは金融機関が一時的な資金の過不足を調整する


1-7. 有担保コール
…短資会社が自己勘定で資金の貸し手と借り手の出会いを仲介する取引


1-8. 無担保コール
…短資会社が資金の貸し手と借り手の出会いを仲介する取引


1-9. 無担保コール翌日物
…今日借りて明日返す取引、この時の金利がコールレート
→日本銀行はコールレートを一定の水準に誘導することを金融政策の操作目標とする


1-10. オープン市場
…一般企業も参加
→CD市場、債券現先市場、債券レポ市場、CP市場、FB市場、TB市場など


1-11. CP、コマーシャルペーパー
…優良企業が割引方式で発行する短期の無担保約束手形
→無担保で発行され市場で活発に流通するため優良企業でなければならない


1-12. FB、政府短期証券
…国庫の一時的な資金不足を補うために発行される割引債券


1-13. TB、割引短期国債
…国債の償還・借り換えを円滑に行うために発行される


長期金融市場

…取引期間が1年以上、株式市場、債券市場

1-14. 証券
❶有価証券
…財産権を表象し、記載された権利の行使や移転がその証券により行われるもの、株式、債券

❷証拠証券
…単に一定の事実を証明するもの、保険証券など


1-15. 証券の機能別分類
❶貨幣証券
…貨幣請求権を表象する、手形、小切手

❷商品証券
…財貨的権利の内容に応じて一定の商品又はサービスの請求権を表象する、船荷証券、倉荷証券

❸資本証券
…収益請求権など資本提供者の諸権利を表象する、債券、株式


1-16. 有価証券の役割
❶資金調達
…発行者(企業)にとっては長期資金の調達手段としての役割を果たす
→設備投資資金などの調達に利用される

❷投資
…投資家にとっては投資手段としての役割を果たす
→資産運用に利用される

❸リスク移転・分散
…証券は転売可能でありリスクの移転・分散手段としての役割も果たす。


1-17. 証券市場
…株式・債券などの有価証券の発行・売買を行う市場
→発行市場と流通市場は相互依存の関係にありお互いの発展が必要となる


1-18. 発行市場
…有価証券の発行を行う市場、プライマリーマーケット
→セリング、アンダーライティング


1-19. 流通市場
…有価証券の売買を行う市場、セカンダリーマーケット
→ブローキング、ディーリング


1-20. 国内の証券取引所
…東京証券取引所、名古屋証券取引所、札幌証券取引所、福岡証券取引所
→大阪証券取引所はデリバティブ専門、デリバティブの仕組みが世界で最初に整備された


1-21. PTS、私設取引システム
…取引所を介さずに有価証券の売買を行える電子システム、証券会社が開設
→大口の取引を取引所を介さずに行う時・取引が行われない夜間に利用される


1-22. 取引手法
❶オークション方式
…1つの場所に買い注文・売り注文を集めて注文同士で約定を成立させる手法
→競争売買の原則に従って最優先の買い注文・売り注文の価格が合致したときに、その価格を約定価格として売買が成立する
→東京証券取引所では、取引単位は 100 株、
取引時間は、前場(午前9時〜午前11時30分)と
後場(午後12時30 分〜午後3時)

・価格優先の原則
…買いでは高い値段が優先され売りでは低い値段が優先される、指値より成行が優先される

・時間優先の原則
…同じ値段の注文については先に出された注文が優先される

・板寄せ方式
…すべて同時に出された注文とみなして価格優先の原則に従って順次付け合わされ、成行注文が指値注文と合致した価格を約定価格としてそれまでの注文も取引を成立させる
→前場・後場の始値・終値を決定するために利用される

・ザラバ方式
…価格優先の原則と時間優先の原則に従って最も高い値段の買い注文と、
最も低い値段の売り注文が合致した価格を約定価格として取引を成立させる
→始値がついてから終値までの間の取引で利用される


❷マーケットメイク方式
…マーケットメイカーである証券会社が投資家の注文の相手となり売買を成立させる手法
→投資家は提示された価格により判断し、マーケットメイカーは提示した価格での取引に応じる
→流動性の低い株式についても価格がつく、マーケットメイカーが買値・売値を提示するため

・信用取引
…投資家が証券会社に委託保証金を差し入れお金や株式を借りて行う取引
→手持ち資金の約3倍まで取引できる、個人投資家の取引の過半数が信用取引

・空売り
…証券会社から証券を借りて市場で売る取引、証券の返却期日前に買い戻す
→株価が下落するときに利益を得ることができるためりスクヘッジに用いられる


2. 金融市場のプレーヤー 12項目

金融仲介機関

2-1. 預金取扱機関
…決済手段供給機能を持つ企業、銀行、信用金庫、信用組合など
→銀行については後で詳しく

・信用金庫
…信用金庫法に基づいた会員の出資による共同組織の地域金融機関で非営利団体、預金受け入れに制限はないが融資は原則として会員を対象とする
会員資格は信用金庫の所在地の会員中小企業(従業員数300人以下あるいは資本金9億円以下)


2-2. 非預金取扱機関
…保険会社、ノンバンクなど

・ノンバンク
…預金を受け入れずに融資業務を行う企業
→クレジットカード会社、リース会社、ベンチャー・キャピタル


2-3. ホールセール
…法人向けサービスを行う


2-4. リテール
…個人向けサービス・企業や投資家への情報提供を行う


非金融仲介機関(証券業)

…直接金融で活躍する

2-5. セルサイド
…投資家や運用業者に金融商品を売る
→証券会社、投資銀行のIBD部門


2-6. バイサイド
…後ろに投資家がいてそのお金を運用する
→生命保険会社、年金基金、証券会社・投資銀行のマーチャントバンキング部門・プリンシパル投資部門、ヘッジファンド、PEファンド


2-7. 証券会社
…株式・債券などの有価証券に関する様々な業務を行う金融機関


2-8. 証券会社の基本業務
❶ブローキング業務(委託売買)
…投資家の注文に応じて市場で有価証券の売買を仲介したり代理で売買したりし、その対価として手数料を得る

❷セリング業務(募集・売出)
…新たに債券や株式を発行した企業から委託を受けて投資家に債券や株式を販売する、その対価として手数料を得る

❸アンダーライティング業務(引受)
…新たに債券や株式を発行した企業からそれらを買い取りそれを投資家に販売する
→企業は確実にプロジェクト資金を調達できるが証券会社は比較的高いリスクを負い、その対価として企業から手数料を得る

❹ディーリング業務(自己売買)
…証券会社が自ら投資家として債券や株式の売買を行う


2-9. 投資銀行
…企業向けに資金調達のサポートやM&A 仲介業務を専門に行う金融機関
→投資ファンドは資金を運用し収益を配分していて、複数の投資家から資金を集めてファンドを作ったり、証券会社が自らの資金による買収ビジネスを展開するために子会社がファンドを作ったりする
→ディーリングは証券会社等が自己勘定で債券や株式、為替等に投資することを指す


2-10. 投資銀行の業務
❶IBD、投資銀行部門
…アドバイザリー、M&A(企業買収)の提案、株式上場(IPO)の提案
→体育会系、日本独自のカルチャー、英語は読み書きできるレベルで十分

❷マーケット、証券部門
…株式・債券・為替・デリバティブを営業・売買、銀行や保険会社などの運用部門が顧客
→実力主義、部署内で力のある社員がGOサインを出したら採用される

・リサーチセールス
…顧客におすすめの株式や債券などを紹介し、その売買の注文を受ける
→ザ営業、中長期的な信頼関係を構築することが最重要、対人能力

・トレーディングセールス
…顧客から有価証券の取引依頼を受け、執行する
→トレーダーと呼ばれる人はほとんどがこれ、営業とは異なる、ミスせず即座に仕事をこなす、社交的である必要はない

・トレーダー
…会社の資金を元手に、株式など金融商品の売買を行う
→稼ぐ嗅覚、ずば抜けた数的センス、頭の回転が早い、謙虚で凄味のある、数人しかいない

・マーケター、ストラッツ
…金融商品を開発・営業する、顧客との対話からニーズをくみ取る
→商品開発には複雑な数学が必要、ずば抜けた数的センス、対人能力

・アイボリータワー
…理論値モデリングと既存モデルを利用しプライシング・リスクヘッジを行う
→ずば抜けた数的センス、コンピューター・サイエンスやプログラムに精通

・クリスタルボール
…人間の直感を排除してアルファを作りアービトラージの機会を見つける
→ずば抜けた数的センス、コンピューター・サイエンスやプログラムに精通、トレード理解

❸リサーチ、投資調査部門
…株式・債券などからマクロ経済まで分析し、顧客がどこに投資するかの判断材料を提供
→財務分析、業界独自の知見、数的センス・分析能力、学者タイプが多い

❹アセット・マネジメント
…顧客となった企業や個人の資産を増やす、サイドビジネス
→完全な別会社として分かれている

・ファンド
…自己資金+ローン+私募で集めた機関投資家等の資金

・プリンシパル
…自己資金+ローン


2-11. PE、プライベートエクイティ
…潜在的な成長力はあるものの活かしきれていない企業に投資する
→企業価値を高めてExit(IPO、他社への売却等)しリターン獲得を目指す
→3~5年程度で手放すことを前提に買収
MBO(Management Buyout)
LBO(Leveraged Buyout)
→大企業の子会社や非主流部門・オーナー系中堅企業の企業の株式を引き受けるという形で投資を実行
→事業再生・ディストレス・不良債権投資も一部含まれる


2-12. 持ち株会社
…株式の保有によって複数の企業を傘下に収めて統括する会社
→金融持ち株会社、信託銀行、証券会社、リース会社、クレジットカード会社、消費者金融会社、資産運用会社などを次々にグループに加える
→総合金融グループの形成


3. 銀行 36項目

3-1. 銀行
…預金を通じて、カネが余っている人からカネが必要な人へ、カネを回す
特殊な金融機関、代表的な金融仲介機関、金融仲介機関としての銀行・流動性供給機関としての銀行という 2 つの役割を果たす
→多数の人々と取引しているため大数の法則により効率的に役割を果たせる


3-2. 大数の法則
…母集団から標本を取り出すとき、標本数nを大きくするほど、標本平均xは母平均μに近づく


3-3. 情報生産
…個々の投資家は貸し出した企業の監視を自分で行わなくてはいけない
→銀行は多数の投資家・企業と取引しているため、銀行自身の企業の経営監視コストが限りなく小さくなる
→銀行は貸し出した企業の経営監視を投資家の代わりに行うことで貸出の仕組みを作れる


3-4. 預金の引き出し
…個々の預金者は預金を引き出す金額・タイミングがランダムで不確実性を伴う
→銀行は多数の預金者から預金を預かって取引しているため、銀行の 1 日当たりの預金引出額は常に平均値に近い額となる、経済ショックを除く
→銀行は預かった預金の一部だけ引き出し用に現金で準備して残りを貸し出せる


3-5. 企業への貸出
…個々の企業は業績にリスクが存在し銀行借入には個々のリスクが存在する
→銀行は多数の企業に貸し出しているため、一定期間中に発生する不良債権の割合は一定となる
→銀行は十分な金利収入の下で預金者に確実に払い戻しを約束できる


3-6. 融資
…カネが必要な人にカネを貸すこと


3-7. トランザクションバンキング
…財務諸表などの定量情報に基づいて融資を行うこと
→定量情報に基づくため審査コストが低い

・財務諸表融資
…主に貸借対照表・損益計算書の内容に基づいて行われる融資
→監査済み財務諸表が完備している必要があり主に大企業向けに用いられる

・資產担保融資
…主に企業の保有資産の担保価値に基づいて行われる融資
→担保なしでは融資できない信用リスクの高い企業に用いられる
アメリカでは主な担保は不動産・売掛債権で金融機関はこれらのモニタリングが必要
→日本のバブル期の不動産担保融資の場合はモニタリングの必要がなかった

・クレジットスコアリング
…消費者金融で活用されてきた分析・統計的手法を適用して行われる融資
→多数の企業のデータから算出したデフォルト確率等により融資審査を行う
個別の貸出債権ごとではなく貸出ポートフォリオ全体でリスク管理をする
→短期間で融資審査を行う、貸出額に限度制限がある、自動化によって審査コストの削減ができる
→クレジットスコアリングの典型は住宅ローンの審査、客観的・定量的な情報に基づいているため債権の性質が第 3 者にも分かりやすい
→転売や証券化が比較的容易


3-8. サブプライムローン
…お金がない人への住宅ローン 、低金利の固定金利から変動金利へ、固定金利期間は利子だけ
→低金利の期間が終わって返済額が増えた途端に支払えなくなる、担保の住宅を売って資金を回収しても全額回収はできない
→担保となる住宅の価格が上がれば返済しやすいローンに鞍替えしていけばいい
→住宅価格がバブルで上昇した、低金利の期間が終われば別のサブプライムローンを組めばいい、最悪担保の住宅を高く売れば良い
→ローン会社は証券化によって貸したサブプライムローンを別の投資家に買い取ってもらって、身軽になって新しくサブプライムローンを売る
→ちょっとずつキツくなってくる
→ローン会社の再編、資本力のある会社が資本力の乏しい会社を M&A
→自己防衛のため、産業崩壊を防ぐ、破綻すると買い手が売り手になる、
ローン会社から資金が引き上がる、同業を助けるわけではない


3-9. サブプライムローン問題
…サブプライムローンが破綻すると他の債権まで暴落し金融危機に陥った
→アメリカの住宅価格上昇が鈍化するとともにサブプライムローンの延滞率が上昇、証券化されたサブプライムローン債権の利回り低下・元本割れが生じ、それらが組み込まれた金融商品の信用リスクが上昇
→これらの金融商品に投資していた金融機関の経営悪化が金融市場全体に波及
→クレジットスコアリングのようなマニュアル化された審査が貸し過ぎを助長した可能性
→日本の高度経済成長期からバブル期までの貸出の多くは不動産を担保とする融資で、担保不動産の価値だけに注目して借り手の返済能力を無視していた点で類似


3-10. リレーションシップバンキング
…長期継続的かつ多種多様な取引を通じて入手した定性的な情報に基づいて融資を行うこと
→地域の中小企業向け貸出のビジネスモデル

・情報の独占
…長期間の多様な取引の中で定性的な情報が生産されるため短期的には高い審査コストが生じる
→長期的にはコストが低くかつ他者に情報が流出しにくい
→長期的な関係を前提とするため景気変動に関わらず貸出金利が平準化されやすい

・借り手企業の経営困難時に貸し手が主導となり企業再生へコミットメント
…業績悪化で短期的に返済が困難になっても情報をもっている銀行は将来の業績回復を見越して、貸出条件の変更に応じがちとなる
→借り手企業が事前にそれを見越すと非効率でもリスキーな行動をとりがちとなる

・ホールドアップ問題
…貸し手銀行の立場が強くなりすぎて高金利で貸し出すことで、
企業の収益を過度に圧迫し企業が借入を躊躇するようになること

・生産される情報が定量化しにくい
…経営者個人の資質・経営内容・事業の成長性など
→銀行内部でも伝達が難しい
→銀行側の現場担当者の自由裁量権が強くないと現場レベルでうまく利用されない
→銀行の内部組織がフラットである必要


3-11. リレーションシップバンキングに注目しよう
…バブル崩壊後の企業・金融機関の経営環境の悪化で、対応がリレーションシップバンキング的なものからトランザクションバンキング的なものに変化
→経営内容や事業の成長性の良い企業の情報が生かされず十分な資金が提供されない
→リレーションシップバンキングの重要性を改めてアピールする必要
→高度経済成長期に高い審査コストを負担できたのは成長余地を大きく見込めたため
→整備された金融市場の下で成熟した企業の情報の独占は難しい
→コストの低いトランザクションバンキングや社債発行へ移行
→地域の中小企業の成長余地が大きく情報の非対称性が深刻でないと、
短期的にコストの高いリレーションシップバンキングを行うことは難しい


◯金融仲介機関としての銀行

…資産変換機能・情報生産機能

資産変換機能

…企業への融資などを多数の預金をまとめることで融通できるようにする
→本源的証券から間接証券へ変換する
→間接金融へ

3-12. 本源的証券
…最終的借り手が発行する証券


3-13. 間接証券
…金融仲介機関が発行する証券


3-14. 直接金融
…最終的貸し手が本源的証券を保有
→企業が融資してほしい、個人が融資


3-15. 間接金融
…金融仲介機関が本源的証券を保有
→企業が融資してほしい、銀行が個人の預金を元に融資


3-16. 3つの変換
❶規模の変換
…最低金額の高い本源的証券を最低金額の低い間接証券へ変換する

❷流動性の変換
…現金化しにくい本源的証券を現金化しやすい間接証券へ変換する

❸リスクの変換
…値動きの激しい本源的証券を預金を基に値動きの小さい間接証券へ変換する


情報生産機能

…借り手の情報を収集したりきちんと返済されるか監視したりする

3-17. ディスクロージャー
…法的に義務付けられた情報公開、企業の財務情報やその他情報


3-18. IR
…上場企業が行う任意の情報公開、プロの投資家向け


3-19. 投資家による逆選択問題
…良い借り手がいなくなり、悪い借り手だけが残る

【仮定】
・借り手は自分のタイプを知っている、貸し手は各タイプのウェイトしか知らない

$$
\begin{array}{|c|c|c|c|c|} \hline
タイプ & ウェイト & 確率 & 金利 & 利子率 \\ \hline
A & 50\% & 80\% & 5\% & 6.25\%  \\ \hline
B & 30\% & 40\% & 5\% & 12.5\%  \\ \hline
C & 20\% & 20\% & 5\% & 25.0\%  \\ \hline
\end{array}
$$

→利子率の期待値 = 6.25(0.80)×12.5(0.40)×25.0(0.20) = 11.88%
→借り手は自分がどのタイプか知っているため期待値と照らし合わせる
→割に合わない A が離脱

→B とC が借り入れるとウェイトは変化
→利子率の期待値 = 12.5(0.60)×25.0(0.40) = 17.50%
→割に合わない B が離脱

→最後に C が借り入れると利子率は 25.0%で均衡する
→上限金利を 20.0%とすると悪質な借り手が残ることになるため、
貸し手が躊躇することで取引が収縮していく
→逆選択問題を解決するには貸し手が情報生産を行う必要
→単一の代理人に情報生産を委託して生産された情報を共同利用するのは難しい
→情報生産機関があればいいのでは?
→情報生産機関の運営は非常に難しい


3-20. 情報生産機関の運営が難しい理由
❶情報生産機関は利益を上げることが難しいため
・情報は公共性を持つため、転売可能でコストを回収できない
・情報を購入した後でなければ質がわからないため、価格が質を反映して決定される
→これは金融仲介機関が情報生産者となることで解決する
・情報生産者と貸し手との間で公共性を持たない金融証書が取引され、情報生産に関わる利益を情報生産者が享受できる
・情報生産能力が高ければ正確な情報に基づく資産運用により収益が高くなると予想でき、内部者は自社株式を保有しようとするため出資比率を信頼性のシグナルとして利用できる

❷情報生産機関は信頼性確保のためコスト負担が必要となるため
→これは金融仲介機関が情報生産者となることで解決する


3-21. 監視委任の理論
…大数の法則で金融仲介期間自身の経営監視コストが限りなく小さくなるため、投資家は貸し出し後の経営監視を金融仲介機関に委任する

❶負債契約によって監視コストを低減
…虚偽申告の可能性が低くなり虚偽申告かモニタリングする無駄なコストを低減できる
→持分契約では虚偽申告をしているどうかに関わらず監視が必要になる
→負債契約で行うことにより、虚偽申告で支払いを節約して得る利益よりも、契約不履行で信頼が失われて失う費用の方が大きくなる

❷分散化によって監視コスト・倒産コストを低減
…投資家の人数 n、企業の数m、投資家の期待収益 Re、実際の収益 Ra、
支払利息Drd、支払額B、監視コストK

ⅰ) 個々の投資家が直接貸し出す場合
・実際の収益の期待値 E[Ra]は投資家の期待収益 Reより大きい、Re<E[Ra]
→実際の収益 Ra は企業だけが知っている
→個々の投資家は監視コストKを支払った場合に限り実際の収益 Ra を知ることができる

・情報のない投資家は企業の支払額Bが支払利息 Drdを下回れば法的整理を求める、B<Drd
→法的整理は企業に追加費用を発生させる、倒産コストCdf
→企業は可能な限り支払い利息Drdを支払う、
Ra≧Drdのとき、B=Drd

不可能な場合も支払える限りの支払利息Drdを支払う、
Ra<Drdのとき、B=Ra

→企業のデフォルト確率 P(Ra<Drd)が高いほど倒産コストCdfの期待値 E[Cdf]は大きい
→デフォルト確率 P(Ra<Drd)が十分高く、nK<E[Cdf]となるとき、
投資家は事前に監視コストKを支払って実際の投資収益Raを知れるようにしておく
→実際の投資収益Raが小さい場合、企業は倒産コストCdfのかからない私的整理を選択する


ⅱ) 個々の投資家が直接貸し出さずい1つの銀行にプールして一括して貸し出す場合
→企業を監視するために必要な監視コストは1企業分のKだけで済む

→個々の企業の実際の投資収益Raが互いに無相関な場合は、
多数の企業に貸し出す銀行が受け取る収益mBは大数の法則により期待値 mE[Ra]に収束する

→銀行が多数の企業から受け取る収益 mE[Ra]が多数の投資家への支払利息 nDrdを下回るようなデフォルト確率P(mE[Ra]<nDrd)は貸し出す企業の数nが増えると大数の法則により0に近づく
→銀行が負担する倒産コストmE[Cdf]も0 に近づく
→分散投資が十分に行われると内容を保証するためのコストは無視できるほど小さくなる
→返済確率pとして

$$
\frac{\left(1+r_e\right)m}{1-(1-p)^m} \leq(m-1)+B
$$

$$
B^*=\frac{\left(1+r\right)m}{1-(1-p)^m} \leq(m-1)+B
$$

以上のときデフォルト確率は$${(1-p)^m}$$
→mが大きくなるほど小さくなる


3-22. イベントスタディ
…決算・企業戦略発表・政策発表の周辺日の株式リターンの動きを分析する
❶イベント発生日を正確に特定する
❷周辺日の異常収益率(=実現収益率ー通常収益率)を測定する
・推定期間、イベント日前200日
・最終日、イベント日前 20〜10日とする
・検証期間、イベント日前数日間

$$
AR_{i,t}=r_{i,t}-E[r_{i,t}]=\left(α_i+β_ir_m+ξ_{i,t}\right)-\left(α'+β'_ir_m\right)
$$


3-23. ファーマの実証研究
…CD(譲渡性預金)・CP(コマーシャルペーパー)・BA(銀行引受手形)を取り上げる
→預金は無利子で預けるため機会費用が発生するが CP や BA は発生しないため、資金調達手段として見ると CD が割高となるはずだが実際は 3 つの最終利回りに差はない
→機会費用が借り手に転嫁されたことを意味する
→高い費用を払ってまで借入れを選択する企業の存在は借入れの情報生産機能を示唆


3-24. ジェームズの銀行のアナウンスメント効果に対する研究
…債権者より銀行の方が高い能力を有していれば社債発行より借入れの方が良いため、融資の公表に関しては他の手段よりも株式市場の反応が良い
→質の低い企業は情報生産機能を有する銀行からの評価を避けたいはずなので、借入れの返済を決めた企業に対して否定的な反応をするはずと考える


3-25. Goldsmithらの金利構造と経済成長に関する研究
…GDPに占める金融仲介機関の資産の割合と経済成長の関係を考察
分析対象が少ない、他のファクターのコントロールがされていないなどの問題点があった
→Kingらが流動負債、銀行部門、銀行信用、企業貸出の GDP 比率を回帰分析で考察、金融活動の水準は様々なファクターをコントロールした後でも、
その後30年間の経済成長を十分に予測できる変数であることを発見した


◯流動性供給機関としての銀行

…流動性供給機能・決済機能

流動性供給機能

…資金供給により予期せぬ支払いへの対応を可能にする
→中央銀行による流動性供給は危機のような異常時だけでなく平常時にも継続的に実施
→短期金融市場での金利の安定と効率的な取引が実現

3-26. 流動性リスク
…支払いが不確実でカネが急に必要になったときに用意できないリスク


3-27. 預金の特徴
❶負債契約である
❷流動市場が少ない、市場による価格リスクは存在しない
❸満期が決まっていない、いつでもペナルティ無く引き出せる
❹払い戻しは早い順、早いと好きなだけ引き出せる、遅れると引き出しが制限される
→❶❷は通常の負債契約の特徴
→❸❹は❶❷のみでは発生してしまうエージェンシー問題を防ぐための特徴

・もし満期があり払い戻しにペナルティが課されると、払い戻し能力に不安を感じた預金者は、ペナルティを負担しても払い戻した方が得という状態まで経営が悪化して初めて払い戻す
→銀行にとって払い戻しは利益機会獲得の縮小を意味し破綻を招きかねないので修正が必要

→❸によって預金者保護だけでなく銀行の健全化も担保できるがフリーライダー問題が発生する
情報優位な預金者による払い戻しは情報劣位な預金者にも観察できるため、
債権者平等の原則が適用されれば情報生産をした者への対価が生産していない者に奪われると、誰も情報生産をしなくなってしまう

→❹によって情報優位の預金者はほぼ確実に払い戻しができるため積極的に情報生産をする、これが銀行の健全化にもつながる
→預金を保有していれば予期せぬ支出に直面しても必要額を引き出すことができる
→大数の法則により預金者が多くなると預金者が実際に引き出すかどうか分からなくても、銀行は全体の何割が引き出すのかを数理的に予測でき必要額を準備して企業へ貸し出せる
→流動性リスクを預金者間で分担することができる


3-28. 銀行取付問題
…多くの預金者が払い戻しを求めて銀行に殺到する
→2つのタイプの消費者を考える、消費Cit、タイプ1の割合α
$${αu(C^1_1)+(1-α)ρu(C^2_2)}$$

→t=0、自分のタイプはわからない
→t=1
自分がタイプ1だと知れば投資を中断して1単位の財を手にいれる$${C^1_1=1}$$

自分がタイプ2だと知れば投資を継続してt=2でR単位の財を手にいれる$${C^2_2=R}$$

→予算制約は

$$
αC^1_1+(1-α)\frac{C^2_2}{R}
$$

→最適な消費は

$$
1< C^1_1 < C^2_2 < R
$$

$${C^1_1=1,  C^2_2=R}$$は適切でない
→預金により銀行はタイプを確認しなくても最適化を実現できる
→多くの預金者が引き出しを求めて銀行に殺到すると銀行取付が生じる


3-29. ex)銀行取付
…預金者ABCDは100ずつ預金、銀行は400保有、
2人がタイプ1、2人がタイプ2
→t=0、自分のタイプはわからない、
リターンはそれぞれ$${R=2,  C^1=130,  C^2=140}$$

→t=1、銀行はタイプ1の2人が引き出すと予想して260を保有、140を投資
→t=2、銀行は投資のリターン280をタイプ2の2人に支払う

・t=1、預金者AB がタイプ1・預金者CD がタイプ2 と判明した場合
→タイプ2がt=1で引き出さない均衡・タイプ2がt=1で引き出す均衡が存在しゲームが発生

→タイプ2が2人ともt=1で引き出す場合、払い戻しは早いもの勝ち、3人目まで130、4人目に10

→タイプ2が1人だけt=1で引き出す場合、投資予定の140のうち130を支払って、4人目に20
→最適応答は引き出すこと
→銀行取付は自己実現的に起こる可能性


政府の介入

3-29. 預金保険
…金融機関が破綻した場合に金融機関に代わって預金を払い戻す

→預金の安全性が保障されれば自己実現的な銀行取付は発生しない
→保険料徴収・金融機関の破綻処理・破綻処理後の回収・責任追及
健全な金融機関に対する資本増強

・対象金融機関
…日本国内に本店のある銀行・信用金庫・信用中央金庫・信用組合・
全国信用協同組合連合会・労働金庫・労働金庫連合会・商工組合中央金庫

・保護される範囲
…預金・定期積金・掛金・元本補填契約のある金銭信託、外貨預金等は対象外
→決済用預金は全額、それ以外は 1 金融機関ごとに 1 人当たり元本1000 万とその利息等

・預金保険料の算出方法と料率
…預金保険料は一般預金・決済用預金と別に全事業年度の預金残高に預金保険料率を乗じて算出
→対象金融機関は毎事業年度開始後 3 か月以内に預金保険機構に納付
→預金保険料率の変更は預金保険機構の委員会で決定のうえ金融庁長官・財務大臣の認可を得る

・保険金支払方式
…保険金を預金者に支払う方法、ペイオフ

・資金援助方式
…救済金融機関に資金援助を行う方法
→救済金融機関が合併等により破綻金融機関の保険金を引き継ぐ場合、
預金保険機構が救済金融機関に対して資金援助を行うことで保険金を支払う
→資金援助に必要な費用・保険金支払を行うときに必要な費用を考慮


3-30. 預金保険制度とモラルハザード
…預金保険料率が一定の場合、
預金者は預金保険で保護されるため銀行経営の健全性に関心を持たない
株主は残余利益を受け取る一方で有限責任制の下で収支額以上の損失を追わない
銀行は株主の期待利益を最大化するためリスクの高い事業に融資を集中する
→回収不能時の損失はすべて預金保険が代わりに負担
→銀行による過度のリスクテイクを防ぐ措置が必要


3-31. 最後の貸し手機能
…資金不足の金融機関に他に資金供給を行う者がいなければ中央銀行が貸付を行う

・預金保険があっても金融機関の破綻で一時的な払い戻しの停止が人々の間で予想されると、パニックとなり銀行取付が起きる可能性がある
→中央銀行の最後の貸し手機能により他の金融機関に救済されるまでの間も通常業務は継続可能
→パニックの連鎖は生じない

・特融
…突発事故・内閣の要請がある場合は担保を取らないで貸付けを行うことがある、通常は国債などを担保として行われる
→4つの原則に基づいて特融を行うか判断する
⑴システミックリスクが顕現化する恐れがあること
⑵日本銀行の資金供給が必要不可欠であること
⑶モラルハザードを防止するために関係者の責任の明確化が図られること
⑷日本銀行自身の財務の健全性が維持できること
→破綻した金融機関に行われる
→破綻寸前の金融機関はどうすればいいのか?


3-32. 補完貸付制度
…破綻寸前の金融機関が自らの判断で日本銀行から資金調達できる制度

→貸付期間は 1 営業日、貸付金額は担保価額以下で貸付先が希望する金額
→このような流動性ファシリティーは以前から存在していたものの、
市場から資金調達できないというスティグマ(不名誉の印)として利用を避けられる傾向にあった


決済機能

…預金によって代金を振り替えてあらゆる決済をできるようにする

3-33. 決済
…支払いを済ませて取引を終了させること


3-34. システミックリスク
…ある金融機関で決済できなくなったときに、
別の金融機関・マーケットなど金融システム全体で決済できなくなってしまうリスク


3-35. 伝染効果
…多くの銀行が決済システムを形成して取引コストを削減するとインフラの役割を果たすため、1つの銀行の破綻が他の銀行に影響を与える
→銀行の破綻は借り手企業に対する外部不経済を伴うが、
市場の失敗は国・不健全な借り手企業によって起こる
→銀行規制の対象は金融仲介機能ではなく決済機能であるといえる


3-36. 代表仮説
…政府が小口預金者の代表となって金融機関をモニタリングすることで効率的な経営を実現できる
→銀行と預金者との間に情報の非対称性が存在するためモラルハザードにより経営が非効率になる
→それを防ぐためにモニタリングが必要となるがコストを負担するのは大口預金者だけであり、小口預金者はフリーライダーで誰もモニタリングしようとしなくなる
→銀行規制の目的として小口預金者の保護が正当化された


おわりに

ここまでご覧いただき、ありがとうございます。
修正すべき点やご意見などあればXでお声をいただければと思います。
修正の際は、番号を指定して、フォーマットをなんとなく合わせていただけると助かります。

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