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人生とは?生きるとは?旅の先にあるものを考える【藤原無雨『水と礫』】

藤原無雨さんの作品『水と礫』(河出書房新社)を読みました。

和柄の七宝模様のような、不思議な表紙に魅かれて手に取ったことがきっかけ。

でも、いざ読みはじめようとするとこの模様が雨の波紋にも見え、最後まで読んだ時にはまた別のものに見え……。

シンプルなようでいて、深い意味を持ったデザインです。

表紙でこれだけ語れるのすごい。


さて、次に感想を書いていきたいわけなんですが……。

ネタバレしたくない、と思うと、ほとんど何も書くことができません。

本に登場する場面のどこを切り取っても、ネタバレになってしまいそうだからです。

物語のピースはすべて、結末に集約されるようにできていると思うのだけれど……。これは「普通」の物語ではない。

どんなに遠回しな言葉を使って書いても、ネタバレになってしまいそうだし、
この「はああ~!」とため息をつくしかないような感情、渦巻く思いは、ぜひ読んで、自分で体感して欲しいから。

逆に、感想や考察を付け足すことが無粋で、ただ「読んでくれ」と本を差し出すのが、一番感想を伝えられる手段な気がする。

……と、いうわけで、この記事の中ではストーリーの場所設定について、私が感じたことをひとつ書いて、あとは「読んでくれ」と言うにとどめておくことにします。

背表紙のあらすじで分かることですが、物語に登場する大きな舞台は2か所。

東京と砂漠です。

え、日本に砂漠? 鳥取? それとも、海外へ行くのかな。

主人公の「クザーノ」って名前も中東の人みたいだし。

と思っていた私は、読み進めて見事に裏切られることになりました。

これは核心に触れないことですが、クザーノは砂漠と東京を往復するために、飛行機を使いません。

つまり、国境を超えないということ。

クザーノの地元は日本のようなのです。

けれど、東京以外の具体的な地名が出ることはなく、「町」と書かれればそれはいつまでも「町」のまま。

砂漠の中に町があり、クザーノは鳥取砂丘よりも広大そうな砂漠の中へ旅立ちます。

こんな設定アリなんだ、とびっくりさせられました。

私は、もし「東京」という実在の地名を出したら、そこは地球であり、日本ということになるから、土地の様子や地名に沿って世界を組み立てなければいけない、と思いこんでいたのです。

それを、この本が見事に破ってくれました。

砂漠がどこにあるのか。クザーノの地元は何県の何市なのか。

そんなことはどうでもいいのです。

日本に広大すぎる砂漠があっても良いし、そこに流れる外国情緒あふれる空気感が存在しても良い。

そのおおらかさ、柔軟性が、物語の良さと言えるものかもしれません。

物語としての感動と共に、大変勉強させていただきました。

さて、これで私から書けることはもう何もありません。

これ以上掘り下げようとすると、どうしてもネタバレになってしまいます。

そしてこの本に対するネタバレは、本を読んだ時の「ええーっ!」という驚きと感情の動き、深い思索を邪魔してしまうと感じます。

読んだ人と語り合いたい。

気になる人は今すぐどうぞ。


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