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クリエイティブな研究者から教わる、新しい未来の可能性とは【『ネオ・ヒューマン』読後感想】

Amazonのおすすめに出てきた本に興味を引かれ、読んでみることにしました。

それがピーター・スコット-モーガン著『ネオ・ヒューマン 究極の自由を得る未来』(原題:Peter 2.0: The Human Cyborg)です。

私を引きつけたのは迫力のある表紙デザインと、目に飛び込んできたあらすじでした。

全身が動かなくなる難病、ALSを患った科学者は、
人類で初めて「AIと融合」し、サイボーグとして生きることを選んだ。
(Amazon商品サイトより引用)

ALSというと、私は「宇宙兄弟」やホーキング博士の印象が強くあります。

とはいえ、身近にALSの人がいるわけではないので、症状をなんとなく知っている、くらいの前知識でした。

ALS当事者の自伝を読むのが初めてなら、その人は研究者であり、「AIと融合」したといいます。

えっ、どういうこと!?

興味をそそられて、発売日に届くよう予約ボタンを押したのでした。

読んでみての感想など
先入観:ビジネス書かと思ってた

表紙のたたずまいやタイトルの雰囲気から、勝手にビジネス書か自己啓発本的な文体を想像していました。

良い意味で、全然違いました。

ひとつ言えるのは、ジャンル分けするならまったく新しいジャンルに入れたい本だということ。

もし私が誰かにこの本を薦めるなら、「めちゃくちゃ面白いSFノンフィクション」とでも言うでしょうか……?

それも、面白いポイントをいくつか取りこぼした表現なのですが。

帯の背表紙部分にもあるフレーズ

ルールなんてぶっ壊せ!

からも伝わる通り、著者のピーターさん、そしてパートナーのフランシスは、常識に真っ向から立ち向かうエネルギーにあふれた人たち。

彼らの体験と、その中で考え、話し合ったことを追っていく読書体験は、どんなビジネス書や自己啓発本よりもクリエイティビティに溢れ、伝染性の勇気をもたらしてくれます。

読んでみて、本当に良かった。

技術が身体の不便を補っていく可能性

ピーターがどのようにALSを捉え、どのようにAIと融合を果たしたのかはぜひ本文を読んでほしいのですが、とても希望を持てたことがひとつ。

身体の不調を機械と技術で補う、という可能性についてです。

例えば、ALSは筋肉が上手く動かなくなって意思表示や生存に関わっていく病ですが、ピーターはこの症状に伴って麻痺する体を技術で補い、感情表現や意思表示の面で困らないようにしていきます。

今まで考えたことがなかったけれど、言われて見れば「確かにそうだ、そういうやり方があった」と思わされるものばかり。

今までいかに「暗黙のルール」の中で物事を捉えていたかを思い知らされました。

AI vs 人間ではない、新しい可能性

最初に「AIと融合」という文言を見た時、私は人間の個性や自我が、すべてAIに取り込まれて霧散するイメージを抱きました。

AIが蓄える膨大な知識の一部となり、個性を失う感じというか。

宇宙の深遠を覗きこんで、SAN値が吹き飛ばされる感じというか。

そこには、無意識のうちに考える「AIvs人間」の構図が展開されていたと思います。

AI技術が進歩していく中で、読解力の乏しい子どもたちがいる……と嘆かれているように。

ところがピーターの考えを読んでいるうちに、必ずしも敵対する必要はないのかもしれない、と考え方が変わっていきました。

ピーターはAIの進歩をまったく違う文脈でとらえていて、今が人類の未来を決める分岐点だと述べています。

進行していく未来を選びとれるとしたら、どんな世界に住みたいか。

改めて考え、生きていく態度を見直す良いきっかけになりました。

個人的な話:音声入力が便利すぎる

これは非常に個人的な話なのですが、ピーターの物語に影響されて、私も音声入力デビューを果たしました。

スマホに音声入力機能が搭載されていることは、知っていました。

Apple Watchに音声入力する人を見たこともあります。

ところが、自分で使ってみたことは、これまでなかったのです。

理由はいろいろあります。

特に必要性を感じてこなかったこと。
打ちたい内容を周りに聞かれてしまう可能性の問題。
端末に向かって独り言を言う気恥ずかしさ。
自分は話すより、書くほうが言葉が出てきやすいという得意不得意の問題。

そんないろいろが重なって、「存在は知っているけど使ったことがない機能」となり果てていたのです。

ところが、ちょうど『ネオ・ヒューマン』を読んでいる時、パソコンのやりすぎで右手がばね指に。

キーボード、マウス操作、スマホを支えておくのに指が痛くなり、それなのに書きたいことはあり……と、非常にフラストレーションの溜まる状態に陥りました。

そんなときに、本の展開が音声入力のくだりに入ったので、「お」と思ったのです。

使い始めてみると……あら便利。

これまで音声入力に対して抱いていた、勝手な高いハードルが、みるみるうちに消えていきました。

それでもやっぱりその場で話し、ブログの文章を構成していくのは苦手なので、私は手で下書きをし、それを音読し、ブログの執筆ページにコピペする……という、アナログとデジタルのハイブリッドみたいな使い方をしています。

実際に手を動かし、文字を書くことで文章が浮かんでくるというのは、人それぞれのスタイルなので、無理に変える必要はないと思っていて。

私の無用な先入観を取り払ってくれた『ネオ・ヒューマン』には、多方面にわたって感謝しています。

体に縛られない未来予想図

ピーターにとっては昔から想像してきたことのようですが、彼が考える未来予想図とプランには、クリエイティビティを刺激するワクワク感があります。

VRの進歩については私は少し違う意見を持ってはいますが、彼の考えやコンセプトは、今はSF映画や小説の中で模索されている断片の集積。

このままいけば、考えとしても技術としても、きっと実現可能になるでしょう。

未来に絶望することもあれば、ポジティブな話題を目にして「まだまだ捨てたもんじゃないな」と思える。

『ネオ・ヒューマン』は、ポジティブでクリエイティブな未来を夢想させてくれる一冊です。


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