それでも捨て切れないもの〜村上春樹『猫を棄てる』を読んで〜
副題にある通り、著者によって自身の父親との思い出が淡々と、
むしろ意識してなのか抑えめの筆致で終始描き出される。
著者と父・村上千秋は最終的には”20年以上顔を合わせず、
ほとんど口もきかず連絡もとらなくなった”といい、
父親との関係には長年しこりのようなものを抱えていたようだが、
彼らの間ではるか昔に交わされた「トラウマの継承」こそが
戦争体験者から未経験者への歴史の伝承、命のバトンであり、
前もっての世代交代の準備であり、
”自分の人生に相手を巻き込む”という家族同士