見出し画像

2021/09/27

「生まれるとは命の流れに乗ること、死ぬとは命に追い越されること」

「ひび割れた日常」の一節だ。
生まれてから死ぬまでという命の流れは人間の感情や努力でどうこうできるものではなく、根本的に自然の営みである。
併走することはできても、所有することはできない。
人間はこの世に生まれ落ちたときから、思い通りにならないものとともにある。

私たちは命を所有できない。
命をおしなべて尊いとする考えは今日では当然の道徳とされている。
けれど、命はそもそも自然の営みであり、私たちはそれと並んでいるだけ。
命を軽視するつもりは全くないが、もしもそう考えるなら、本当は全ての命になんら意味はなくて、川のようにただ無為に流れていくだけなのかもしれない。
自分で考えておきながら怖気がした。
私は全ての命は同じだけの価値がある、と思っていたがその「価値」とは何なのだろう。
全ての命に意味がないなら、全ての命は「無価値」なのか?
特に人間は意味がないところでは生きていけないと昨日納得した。
ということは「無意味」な命を抱えて生きている私たちって根本的に......。
本格的に怖くなってきたので、これ以上深入りするのは辞めておこう。
自分や大切な人まで無価値としてしまわないように。


ワクチン接種2回目に行ってきた。
相変わらず大学では、少し背中が丸まった人たちが案内してくれる。
そういう方々こそ「ステイホーム」なのでは?と毎回思う。
受付で接種予定時刻を伝えると、震える声で「そちらの階段から2階へどうぞ」と言われて待合室に通された。
白いカーテンで濾過された、暖かみのない太陽光と、同じく冷たい蛍光灯の光。
そこでたくさんの大学生が下を向いて座っている。

ここへ来るたびに思う。
理系の学部生が集まるキャンパスだが、私はこちらのキャンパスの雰囲気の方が好きだ。
私を取り込もうとするでもなく、排除しようとするでもなく、ただそこに在ることを許される感じ。
お互いが干渉しあわないけれど、でも遠ざけもしない。
私が主に通うキャンパスは文系の学部生が多く集まっている。
けれどあそこの雰囲気は私に合わない。
なんだか男性はオラついていて、私を見かけるなり「朝までお酒飲もうよ!」と言ってくるような感じがして、女性は茶髪をはじめ何から何までキラキラしていて、そのカラコンとレースの下に何があるのかを読み取れない。
男女ともに、まるで心まで化粧をしているようで近づきがたい。

あの凄まじい個性の主張。
私はあそこにいる大学生を見るたびに、同じように個性という化粧をするか、除け者にされるかの2択を迫られているような錯覚に陥る。
そして毎回、あのけばけばしい風景の一部になることを拒んで、時折憐れみの目を向けられながらも遠巻きに眺めていることを選択するのだ。
正直すぎるほどに若さを謳歌することも、身体を輝かせて心まで化粧をすることも私にはできない。
私が敬遠しているだけなのかもしれないけれど、あそこに行くたびに私は、全く知らない国を歩いている感じがする。
別に文系がこうで理系がこうとか、雑な二元論を展開するつもりはないけれど、あそこに通える理系学部生のことを、また少しうらやましく思った。

待っていると、待合室の入り口に係の人が集まってきた。
どうやら時間になっていないのに、受付の人が学生を待合室に通し始めたらしい。
「え~君はまだもう少し外で待っていてもらえますか。」
下にいた人とこちらの人で時計がズレていたのだろうか。
超局地的相対性理論。
彼らは亜光速ですれ違っていた。
程なくしてそのズレが解消されて、追い返された人々が列をなして戻ってきた。
予診票を持っているか1人1人に聞いていくので、回転が悪い。
ラーメン屋さんなら行列ができるのは嬉しいのに。
いや、回転が悪かったらダメか。
みんなが下を向いて一心にスマホをいじっている姿は、黙ってラーメンをすする姿と少し重なった。

私たちも時間になり、別の部屋に通されたのち問診がスタートする。
私に当たった「2番受付」の担当の人はなんだか無気力さがにじんでいて心配になった。
私がアレルギーなどを持っていたら「大丈夫なんですよね?」とか言ってしまいそう。
2, 3部屋くぐるとようやく接種部屋へ。
偶然だが、前回担当した人と全く同じ人に打ってもらった。
「以前変なことはありましたか?」
「本当になにもなかったです。」
「そうですか。何もなければいいんですけど、2回目は重い副反応になる方も多いので、気を付けてくださいね。」
「はい。」
今現在、腕が微かにだるいのと、微熱 (とはいっても37℃は私の中では平熱ギリギリの体温だが。) 以外の症状は特にない。
ご心配ありがとう看護婦さん。
私の身体はなぜかウイルスに強いんです。

15分の待機時間。
私は「ひび割れた日常」を取り出した。
この本ももう終盤。
人間について色んな考えがめぐらされた。
一読しただけでは、その全てを吸収しきれない。
再読不可避かなあ。

私とほぼ同時に接種を終えた人が看護婦を呼んでいた。
「僕アレルギーあるんですけれど、15分でいいんですかね......?」
ああ、問診の人は何をやっているんだ。
あの2番受付の人だったのか。
そして打ってもらう前になぜ確認を取らない。
とにかく彼が無事であればいいのだけど。


2時間ほど経ってもなんの症状も現れないため、母親の買い物に付き合う名目で、今日から全国に展開されている原神のガチャガチャを探した。(無かった。)
車でかなり行ったところに、ちょっとした田舎町があり、そこの野菜はとれたてでスーパーのものより美味しい。
特にブドウは比べるまでもない。
その産地直売所の近くに、雰囲気の良いお店を見つけた。
落ち着いた色の木材、柔らかな照明、ギッシリと詰まった本棚、そして狭い店内......。
さっき私が羨んだ「干渉しないけれど突き放さない空間」をまた1つ、しかもこんな場所で見つけてしまった。
あんなところで読書をしたら、秋の日は釣瓶落としなんて言わなくたって、1日はアッという間だろうな。
母親は立ち寄ったことがないそう。
私が今度行ってみようかな。
行くまでが大変だけど。


それから大型ショッピングモールに立ち寄り、そこで私はズボンを買った。
長ズボンがもうほとんどなく、これで冬は越せないという判断。
少し前に見かけて惹かれていた、ワインレッドのチノパンを買った。
ちょっと大人な雰囲気。
私は大学生でありながら、もう大人の落ち着きに魅了されている。
後から後悔するかもしれないけれど、まあそれはそれでいいか。
パーカーが好きなので、本当は無地のパーカーも欲しかったけれど、前に見かけた2万円のコートのことが忘れられなかったので、今日は我慢した。

帰宅途中ペットショップに寄った。
うるさく鳴くインコを背にウサギを愛でていたら、関係者用のドアが開いていて、少しだけ中を覗き見ることができた。
やめておけばよかった。
すぐそこに大量の虫が入った虫かごがあった。
身の毛がよだつとはこういうことかと思った。
ペットショップの店員さんって大変だなあ。
あれを餌として取り出すことを考えただけで背筋が寒くなる。
「あれを触らなきゃいけないんだ......。」
ぼそっとつぶやくと、近くで聞いていた店員さんがほほ笑んだ。
かわいいウサギやうるさいインコの裏には、計り知れない苦労があるのだろう。


安静にしていると暇なので、履修登録をもう一度確認することに。
なんと統計に関する授業がまだ取れる可能性があるとのこと。
急いでPCを立ち上げたが、大学のサーバーは相変わらず重い。
キャンパスを美化するお金を、少しだけサーバーに回してほしい。
40分くらいかけてようやく登録に移る。
多変量解析の授業と、データマイニングの授業を増やすことができた。
嬉しい誤算。
興味のない楽な授業と、興味のあるキツイ授業なら、後者の方がいい。
元々そこにあった講義は履修取り消しを押した。
新しい服も買って、取りたい講義も取り、興味のない授業は消した。
秋冬学期が俄然楽しみになってくる。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?