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三権分立に次ぐマスメディアの“第四の権力” ― 報道の自由が人権とプライバシー保護を犠牲に― 前編

第四の権力と呼ばれるマスメディアの社会的役割

マスメディアは、行政、立法、司法の三権と同様に、政治や社会に大きな影響を与えると考えられているため、しばしば「第四の権力」と呼ばれることがある。世論を形成し、政府高官や政治家の意思決定に影響を与える重要な役割を担っており、行政機関の権力に対する重要なチェック役となっている。さらに、腐敗や不正を暴き、権力者の責任を追及する番犬としての役割も担っている。
 
マスメディアの力は、取り上げられる特定の話題や問題、報道機関によって異なることもあることは注目に値する。さらに、SNSや市民ジャーナリズムの台頭もマスメディアの状況を変え、人々がニュースを消費し共有する方法を変えつつある。このような動向も、マスメディアの力を変化させるといえる。

Photo by Jonah Elkowitz on Unsplash

「第四の権力」としてのマスメディアの役割は、見方によっては良いこととも悪いことともいえる。多様な視点を提供し、不正を暴き、権力者の責任を追及することで、民主主義、透明性、説明責任を促進するポジティブな力の一方で、容疑者などの口を封じ、誤報を流したり、偏見を助長したり、有害な形で世論に影響を与えるなど、負の力にもなり得る。そのような影響は、正確な情報を得る権利、表現の自由、平等かつ公平に扱われる権利の侵害をも引き起こす。
 
さらに、少数の企業や個人に報道の所有権が集中することで、意見の多様性が制限されることもある。マスメディアが監視役として機能することは好ましいが、世間を騒がせるようなネタをあえて持ち込み、国民の感情を扇動するセンセーショナリズムや、個人プライバシーの侵害、ジャーナリズムの基準の低下につながる可能性もある。

日本におけるマスメディアの影響力

マスメディアは、社会の現実を共有することで、公共の意見形成に重要な役割を果たしている。テレビ放送は政治知識の共有に大きく貢献し、一般市民の政治知識との相関性が高いことが示されている。日本では、民放テレビが無料で視聴できるため、それほど社会情勢に関心のない国民にも情報が届きやすいことで、マスメディアが世論形成に良くも悪くも、強い影響力を与えるといえる。

日本のマスメディアが強い影響力を発揮できる理由として、テレビ放送などで情報が届きやすい以外には、マスメディアへの所有権の集中や、厳しい規制がないことが挙げられる。放送法によって「マスメディア集中排除原則」という規制がある。内閣府の参考資料によるマスメディア集中排除原則の説明は以下の通りだ。

“「基幹放送をすることができる機会をできるだけ多くの者に対し確保することにより、基幹放送による表現の自由ができるだけ多くの者によって享有されるようにする」(放送法第91条第2項第1号)ため、放送の多元性・多様性・地域性の確保を目指すもの。” 

この規制は、新聞・ラジオ・テレビの3事業支配を原則禁止するものであり、例えばインターネット上のニュースやSNSなどのコミュニケーションツールなどのデジタルメディアを含む複数のメディアを使用する「クロスメディア所有のあり方」に関しての規制ではない。

クロスメディア自体、その強い影響力から、ビジネスにおいてもあらゆる業界のマーケティング戦略として使われるものである。このことは、テレビ局を含めた報道各社が、オンラインニュースにとどまらず、FacebookやYouTube、Twitterなどで情報をむやみやたらに拡散していることでわかる。
 
要は、現代社会で最も影響力のある「デジタルメディアでのクロスメディア」を取り締まる規制が明確にないことが、元から強いマスメディアの影響力をいっそう増大させているというわけだ。

マスメディアが第四の権力をむき出しにした実例

ケーススタディとして、実際にマスメディアが第四の権力をむき出しにした実例を挙げる。

Image by Brian Merrill from Pixabay

1つは、住宅街で騒音問題を引き起こした主婦の事件。大音量の音楽などが2年以上続き、いわゆる、「ご近所さん問題」で片付くような件ではなく、近所に住む別の主婦が民事訴訟を起こした。当時、マスメディアの前に騒音を出しながら現れる姿を、マスメディアがここぞとばかりに報道。後にドラマや映画にもなり、事件発生から20年近く経った現在もマスメディアが追っているが、視聴者の大多数は、マスメディアの行為を強く非難している。
 
もう1つは、某有名俳優の性加害事件とその後についてである。事件当時の写真と共にインターネット上で瞬く間に拡散され、その俳優に全く関心のなかった人までも知ることとなった。しかし、その事件は、世間を騒がせた2022年から3年前に起きており、当人と被害女性、関係者の間で謝罪、示談で済んだという。話をどこからか(捜査機関からの情報リークなど)嗅ぎつけ、スクープしたのはマスメディアであることは間違いない。その後、俳優としての活躍も降板が続き、本人は反省しつつ、表舞台には立たないが、復帰に向けている現在を追いかけているのもこれまた、その俳優の人生を潰し、更生の機会も奪ったマスメディアである。
 
その他にも、挙げるにはきりがないほど、マスメディアによる、逮捕権を持たない者に対する人権蹂躙は起きている。例えば、軽微な法令違反の疑いであっても、実名、実年齢、職種や地域などを顔を隠すこともないままに報道されている。

世論形成におけるマスメディアの影響

容疑者、被害者、被害者の家族、生存者の実名を、無修正の動画や写真と共に公表することは、プライバシーと人権の重大な侵害になる。そうすることで、経済的損失、精神的苦痛を与え、評判を傷つけ、個人の生存を危険にさらすことになる。

特に、世間に顔の知れた有名人の事件は反響が大きいため、恰好なネタにされやすい。このようなマスメディアの報道は、真実を伝えるのではなく、単なる世間への見せしめとなっている。国民を扇動させ、さらなるスクープを狙うことが目的となり、ネタにされる当人や家族たちの人権が不当に侵害される。
 
また、比較的、軽微な犯罪では、裁判官が容疑者を早期釈放することが多い。警察はなりふり構わず実名発表するため、マスメディアも情報を入手しやすく、警察も率先して撮影に協力するため、手っ取り早く報道できるニュースとして軽々しく扱うことになる。その一方で、重大な犯罪であっても一切報道されないことも多々あることは、あまり知られていない。

Photo by Micha Brändli on Unsplash

本来、刑事事件による量刑は、犯行の状態、動機や計画性の有無、結果の重大性や犯人の態度などを総合的に判断して、決められるものである。しかし、刑罰の前に、報道各社が判断して公開処刑を行っているのだから、三権に対して第四の権力が見せつけられると考えるのは当然だ。

このように、マスメディアは、事件や事故の詳細を知りたい人のみならず、その外側に存在する興味がない人へも、強い影響力を及ぼす。各報道機関はもちろん、その影響力を理解している。しかし、このマスメディアがもたらす実害に、多くの利用者がSNSで拡散するなどして、知らぬうちに加担してしまっていることも、また、事実である。

後編へ続く――

こちらの記事は、記事内の参照リンク以外に、下記のリンク元を参考にしております。

社団法人日本新聞協会メディア開発委員「クロスメディア所有のあり方に関する意見 」
内閣府「マスメディア集中排除原則に係る現状と課題」

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