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“色恋捜査”や”でっち上げ” 冤罪事件につなげる法執行機関による違法捜査の実態 後編

日本における違法捜査の3つの原因

なぜ、違法捜査が起こるのだろうか。その理由は、以下の3つに大別される。

事情聴取の際、法的代理人の不在や黙秘権の行使不可
事情聴取と聞くと、逮捕された被疑者に向かって捜査官が一方的に質問を投げかけたり、怒鳴るようなイメージが多いかもしれない。実際に、そのような圧迫的な事情聴取が起きているのは間違いない。

被疑者が「黙秘する」と言えば、勾留延長になったり、密室で捜査官によって脅されても、それを証明するものがなく、取り調べや裁判の様子は世間に公開されることがないからである。

詳しくは後述するが、米国のミランダ権のように、拘留中の被疑者を保護することを目的とした権利を行使するための制度が、司法制度全体で確立していないことが問題である。

法執行機関への検察審査会の役割
検察審査会とは、刑事捜査・訴追の公正性・透明性を確保するために設置された法的機関である。日本の法制度の一部として創設され、警察から検察に報告された事件を起訴しないとする検察の決定を審査することがその目的だ。

検察審査会は11人の市民で構成され、検察から提出された証拠を検討し、裁判にかけるべきかどうかを判断する。事件の捜査が十分でないと判断した場合、追加捜査や証拠の提出を要求する権限を検察審査会が持つ。

検察審査会の決定には法的拘束力がある。検察審査会が裁判にかけるべきと判断した場合、検察庁は被疑者を起訴することが義務づけられ、検察審査会が「不起訴」とした場合、検察庁は被告人を起訴することができない。

このように、検察審査会は、検察の権力濫用や無実の人を不当に有罪にすることを防ぐ重要なセーフガードと考えられている。

しかし、検察審査会は検察を過度に優遇している、複雑な事件を徹底的に捜査するためのリソースや専門知識が不足している、といった批判もあり、法執行機関への有効な圧力となっているかは疑問である。

冤罪を生む文化的・社会的要因
日本は、他国と比べて自身の持つ権利に疎いと言える。多くの人権侵害が日本でも実際に起こっていても、自身の権利が侵害されていることに気づかず、そして、自分は他者の人権を侵害していないと考えている人が恐ろしいほどにいる。

• マスメディアリテラシーの低さ
テレビやSNSなどで流れるものを信じる。他者の実名や顔、個人情報を拡散するなど
• 集団心理に任せた無責任な行動
現実社会でもSNSでも無責任、かつ、正直な発言(痩せたね、太ったねなど)
• 生活自体が人権侵害の場
職場や学校での必要以上の統制や、個人が尊重されない社会所属

その無意識の感覚こそが、人権侵害をしており、例えば、被疑者に有利な証拠は隠匿するなど、警察や検察にとって違法捜査がしやすい社会を作り出しているといっても過言ではない。

制度の抜本な改革を

日本では、事情聴取の際に弁護士を同席させることは認められていない。黙秘権は存在するが、実際の現場ではほとんどの場合で認められない。被疑者とは言えども、行使できる権利を持たせない以上、違法捜査はなくならない。

被疑者の権利の保護
行使できる権利というのは、ミランダ権がわかりやすい例である。海外のドラマや映画のシーンで、「弁護士を呼んでくれ」「私は黙秘権を行使し、弁護士なしではこれ以上質問に答えるつもりはない」などと発言したり、弁護士が事情聴取に同席して、「何も言わなくていい」などと弁護士が被疑者へ助言しているのを観たことはないだろうか。

これは、ミランダ権という保護すべき権利があるからである。

ミランダ権とは、拘束され、法執行官の事情聴取を受けている個人に与えられる一連の憲法上の権利を指す。その権利を保護するための警告としてミランダ警告があり、警察などは身柄拘束による事情聴取をする前には必ず、被疑者に伝えなくてはならない。

ミランダ警告には、通常、以下の4つの警告や助言が含まれる。

  1. あなたには、黙秘する権利がある。

  2. あなたの供述はすべて、法廷で不利な証拠として使用される可能性がある。(被疑者自身が権利を放棄した場合)

  3. あなたには、弁護士を依頼する権利がある。

  4. あなたが弁護士を雇う余裕がない場合は、公選弁護士がつけられる。 

ミランダ警告を被疑者に伝えない場合
もし、被疑者がミランダ警告を与えられていない場合、その供述は、法廷での証拠から除外することができるということである。

逆に、個人が自発的に自分の権利を放棄し、法執行役員と話すことを選択した場合、法執行役員が作るすべての調書は、法廷で被疑者に不利に使用される可能性がある。きわめて公平な権利だ。

日本の黙秘権はそのような行使力がない。そのため、事情聴取の際には軽く扱われるどころか、まるで死人に口なし、被疑者に人権なしというような状態が、戦後の三四半世紀を経た今でも続いている。

黙秘権に強い行使力を持たせるためには、将来の判決を左右する導線を作り、法制度で明確化すべきである。

司法制度の本質的な見直し

日本には立法権、行政権、司法権の三権分立があり、裁判員制度や検察審査会もある。しかし、日本の刑事司法制度において、これらの牽制が有効に機能しているかどうか、懸念が指摘されている。

三権分立
司法が、行政権を持つ内閣と密接に結びつきすぎており、検察が裁判の結果に大きな影響力を持っていると考えられている。

このため、それぞれの作業自体は分担されていても、司法手続きの独立性が失われる。立件から判決までが一連の流れでコントロールされてしまい、意思決定プロセスの透明性が損なわれる。

それは、権力の濫用となり、三権分立の本来の目的を果たせていないことになる。三権を遵法すべく、それぞれの機関での独立性の強化が必須だ。

裁判員制度
日本の裁判員制度は、2009年に施行され、まだ15年と新しい。同様のシステムを1000年ほど前から保障しているアメリカやイギリスの陪審員制度と比較すると、制度として整備されていないことに関しては不思議ではない。

しかし、歴史が短く、国民に未だ制度が浸透していない今だからこそ、改善は進みやすいと言える。

例えば、アメリカのように、多くの国民が(アメリカ国籍でない移民も同様)、陪審員としての召喚状を受け取り、一度でも実際に陪審員として務めた人が多くなると、新しい基準が社会全体として受け入れられにくい。

また、裁判員制度で懸念されている「法に関しての知識や興味の低さ」や、「裁判員個人の先入観や偏見による判断」を改善するためには、国民への定期的な学習機会を設ける、マスメディアで正確な情報を伝えることなど、包括的な対策が必要である。

検察審査会
検察審査会は、事件を裁判に進めるべきかどうかについて、判断するために必要なすべての関連情報にアクセスできず、検察から提供される情報に依存している。事件調査や証拠収集の権限の見直しが必要である。

また、検察審査会の審議は一般に公開されていないため、その決定を精査することが困難である場合がある。

検察審査会の意思決定プロセスの透明性を高め、一般市民が検察審査会の手続きにアクセスできるようにすることが求められる。

くじ引きで決定する選考方法にも問題があり、必ずしも国民を代表する委員が選ばれるとは限らないため、こちらも再考すべきだ。

さらに、検察審査会は、比較的短期間に、裁判に移行すべきかどうかの判断をする必要があり、複雑な案件を審査する時間が制限される場合がある。

そして、検察審査会の決定には法的拘束力があっても、その勧告に検察官が必ずしも従うとは限らない。検察が検察審査会の不起訴勧告を無視するケースもあるため、総じて検察自体を改めることに焦点を置かねばならない。

継続的な訓練と教育
法執行機関のための継続的な訓練と教育が、警察官が技能と知識を確実に身につけるために不可欠である。警察官は、地域社会に奉仕するために、効果的、倫理的、かつ専門的である必要がある。

訓練や教育といってもさまざまだが、警察の違法捜査を防ぐためには、まず、警察官としてのプロ意識と倫理観の向上が第一と言える。警察官としての立場や職務を本質的に理解し、一般市民と良好な交流を持つことで、警察の不正行為の減少を導く。

また、警察官が批判的思考能力を身につけ、捜査ミスや不祥事のリスクを減らし、より効果的で公正、透明な刑事司法制度へとつながる。

ただし、どのような訓練や教育であっても、警察学校での数時間やイベント的に単発で終わらせては全く意味がない。定期的、継続的に行うことが重要である。

さいごに

警察の違法な捜査には、自白や証拠を得るために過剰な力や強制、その他の非倫理的な戦術を用いることが含まれることがある。

これが不当な告発や有罪判決につながり、精神的苦痛、名誉やキャリアへのダメージ、自由の喪失など、その人の人生に大きな影響を与える不当判決を生む。

また、マスメディアの報道は世論に影響を与え、司法制度に有罪判決を確保するよう圧力をかけるため、誤った告発や有罪判決につながる可能性がある。

日本における違法な捜査は、刑事司法制度における説明責任と監督の欠如、有罪判決を確保するための圧力、捜査官の不十分な訓練が原因である可能性がある。

冤罪を防ぎ、刑事司法制度を改善するために、これまでのような一貫性のない改善策は見直すべきだ。過去の実際の事件をケーススタディとして、包括的に法に遵守する形で制度を機能させなくてはならない。

被疑者の権利を保護することと、警察の不正行為に継続的に対処できる体制を整備することが最優先である。


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