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ショート・ショート(小説)「MOON」

二人にとって、浴槽は小さすぎたね。ブランコに乗るみたく、妙なバランスで少年少女はセックスをした。まるで人間じゃないみたい。今だけは、人魚伝説の人魚になったみたい。そう、そうじゃないなら、立派な花瓶の花。サンフラワーたち。魔法使いたちは、死んだ。105号室のおじさんも死んだ。太陽だけが、良い顔して笑顔。そんな世界で生きたいと思うかい?ジェニファー。分からない君の気持ちは。覚えたてのセックスは、全然良くないのは知ってるけど、君の顔が見ていたい。そういう事なんだ。そして、この行為が終わったら、なんでもない顔して喫茶店にだって、行ってくれ。切ない顔が月としてそこにあるように。


詩人の僕は君との行為を詩にして、1ドルで売るよ。たった1ドルでも、札を積んで安いステーキを買う。それほど、美味い肉はこの世で無い。それは今から分かるんだ。僕の腰が駄目になる前に、この密やかなモーテルを後にして。君は喫茶店へ。僕はちょっと洞窟にでも行くさ。お金は払わなくてもいい。どんな顔も見たくない。

バーのディロンに目をつけられて、服に裂け目が入った。どうしたって、見たくない。
街の犬も、空も、鶏も。少年も少女も老人もみんな辛い目をして、こっちを見た。今はステーキの夢を見る。ただ、それだけでいい。砂漠の荒野を抜けた先、綺麗な洞窟が見えるはず。月色の水が溜まる場所で僕は詩を書こう。淀みの中でも、君を待ってる。名前のない君を。何も手つかずの君を。

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