音楽配信を知るEMI Recordsトップに聞く|サブスク時代のアーティストプロモーション
ここ数年で音楽との付き合い方が変わってきている。
大きいのは、サブスクリプション=定額制サービスの普及。
黎明期から音楽配信に携わってきたユニバーサル ミュージック・岡田武士氏は音楽業界の現況と今後をどう捉えているのか?
──名門EMI Recordsのマネージングディレクターに34歳の若さで就任。それまでの経歴を教えてください。
大学生の時は「就職せずに生きていけたら」と青臭いことを考えていましたが、そうもいかないので(笑)、好きだった音楽かファッションに携わる仕事がしたいなと就活を始めました。ところが、アパレル系では好きな服を他人に薦めることに、おこがましさのようなものを自分の中に感じてしまったんです。でも、音楽は「この曲すごくいいから、聴いてみて」と、素直にレコメンドできるんですよね。共感を共有できるというか。
そこに気づき、音楽関係の会社を受けて、ユニバーサルミュージックに滑り込みました。
入社して2年目にデジタル配信のセクションに異動し、当時話題になりつつあった「着うた」の配信に携わったのが縁で、GReeeeNの「キセキ」や青山テルマ feat. SoulJaの「そばにいるね」のヒットに立ち会えたのはありがたかったです。
アーティストのプロモーションやレーベルの立ち上げなどにも参加し、いろいろな経験をさせてもらったと思います。
──今や「音楽を聴く」というスタイルはサブスクに大きくシフトしつつありますが、業界内ではどんな変化が起きていますか?
よく「CDが売れなくなった」と言われます。CDやレコードなど一つひとつの数字は昔に比べると小さくなっているように見えるかもしれませんが、音楽産業全体ではここ数年成長が続いています。そういった中でのサブスクの普及は、音楽を聴くという行動における選択肢が増えたという捉え方なので、危機感どころか音楽業界の未来は明るい、と思っていて。
もちろん、CDやアナログ盤も含めて、それぞれをどう楽しんでいただくかをより追求する必要はあるとは考えています。特にサブスクが広まったことで、音楽との出合い方が変わってきているんですね。アーティストが選んだプレイリストに入っていた曲が好きになったり、視聴履歴のアルゴリズムから「おすすめ」されて、気に入ったりするという具合に。
そう考えると、新人アーティストにも多くの人に聴いてもらうチャンスがあり、サービス利用者の方もより多くの新しい音楽と出合うチャンスが生まれているといえます。
音楽会社側とすれば、才能のあるアーティストが生み出した楽曲を世に送り出すという本質を忘れず、素晴らしいアーティストを見つけてもらいやすい工夫が必要で、サブスク時代に見合ったプロモーションをしていくことが大切、と考えています。
──一方、サブスク時代における既存のメディア=テレビやCMとの付き合い方は、どう変化しているのでしょう?
これだけネットが多くの人に利用される今もなお、テレビ…CMやドラマの主題歌に起用されることの影響の大きさは変わりがない、と思っています。
ただ、露出すればいいというわけでもなくて、大事なのは露出するまでのプロセスだとも感じていて。
たとえば、ネット上で「あの曲いいよね」と話題になって、クチコミが広がっていったところで満を持して音楽番組に出演するとします。そうやってテレビやラジオに出たことで起きる反響がSNSなどネットに戻ってきて、さらに広がっていくという構図が面白いですよね。
一方で、音楽そのものの本質は普遍的で、昔と変わっていないんです。突き詰めると、音楽は「この思いを届けたい」というアーティストの情熱や魂(ソウル)があって人の心に響くものであり、その曲を1人でも多くの人に伝えたいと願うスタッフの熱量によって、伝播していくものなので。もちろん、テクニカルな仕掛けといった宣伝方法を考える必要はあるんですけど、まず熱量を注ぐことが大事なのかなと。
──では、今後の音楽はどんな聴かれ方をして、エンタメとはどう関わっていくと見ていますか?
サブスクの普及によって、多くの音楽と出合うチャンスが広がったことから「体験」の可能性が増えて、音楽そのものの価値がより高まったのではないかと思っているんです。
今の10代には、昭和の歌謡曲を聴き込んでいる人たちも少なくないそうなんですが、彼らにとっては出合う曲すべてが新しく聴こえるんですよね。
また、TikTokで繰り返し聴いたり、ゲーム実況動画でYouTuberが歌っていたメロディーの原曲が流行したりする現象も起きていて。
そんなふうに曲に対するリスペクトや熱量が伝わりやすくなったぶん、ユーザーが流行をつくって広めていくことも多くなりました。
それが今の時代らしさかもしれませんね。
また、すごく根本的なことなんですけど、音楽って耳さえ空いていれば楽しめるんですよ。何か作業しながら、家事をしながら聴けるという強みがあるんです。スマートスピーカーの普及も、生活の中にもっと浸透していく兆しといえます。
弊社にも、地方自治体や行政から「音楽を使ってウチの自治体を盛り上げたい!」といったお問い合わせをいただくこともあります。そういったマッチングの妙が音楽の新しい可能性を広げていくと考えると、様々なジャンルのエンタメとの関わり方がすごく重要になっていくようにも思います。
■PROFILE■
EMIRecords マネージングディレクター
岡田 武士(おかだ たけし)
1983年、東京都生まれ。2006年ユニバーサルミュージックに入社。2年目から主にデジタル配信業務を担当、青山テルマやGReeeeNのミリオンダウンロードを実現。その後、アーティストの宣伝担当を経て、2013年に協業レーベルNswaVeを立ち上げ、C&K、ハジ→を手がける。2017年には、新規事業として博報堂と「クラヤミレコード」や地方創生プロジェクト「Music Meets Japan」などを立ち上げる。2018年1月からEMI Recordsマネージングディレクター。
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<発行日:2019/08/08>
*本記事は、FIREBUGが発行するメールメディア「JEN」で配信された記事を転載したものです。
Writer:平田真人
Photographer:橋口慶
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