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5G突入でエンタメ界はどう変わる?

「5G」という言葉をよく耳にするようになったが、新時代の通信システムはエンタメ界にどんな影響を及ぼすのか。世界では、そして日本ではどんな動きが始まっているのか。エンタメ人なら乗り遅れたくないこのテーマについて、IT評論家の尾原和啓氏に包括的に聞いた。

──速度が理論値で100倍に!「超高速度」時代に突入

まずご存じの通り5Gの「G」はGeneration=世代を表しています。
第1世代は1980年頃。アナログ方式で携帯電話のサービスがスタートしました。次に90年初頭に第2世代というデジタル方式の登場でメールなど文章が送れるように。2000年頃からの第3世代では写真が送れるようになり、次の第4世代からは動画が。5G=第5世代では速度が理論値で100倍になります。これは2時間の映画が3秒でダウンロードされる「超高速度」です。

もう一つの進化は「多数同時接続」。現在は1平方キロメートルあたり9万台ですが5G以降は100万台の接続が可能です。これまでの接続端末は人が持つデバイスだけだったのが、すべての機械に通信が入ることが可能になります。いわゆる「IoT」化です。人が介することで最適化できなかったものでも、物同士が通信すれば無駄がなくなります

たとえば中国では交差点の信号で実験が行われており、縦と横の交通量の変化で赤信号と青信号の点灯の長さを調節し、渋滞量の30%が削減されています。究極、車同士が位置情報などを互いに通信できるようになれば、相手に合わせて事前にスピードを調整する "神の"すれ違いが可能になり、信号すら不要になるでしょう。電力も家電すべてとつながれば発電所の電力発電調整に指示できる。機械がそれぞれ独自に配慮して、ユーザーにとっても地球にとっても優しい世界が実現できるようになります。

さらに「低遅延」の効果も大きい。5Gになると1ミリ秒、すなわち1000分の1秒しかズレが起こりません。これで何ができるかといえば、遅延が致命的なものもリモートが可能に。たとえば手術。360度カメラやVR技術と合わさると各地に手術ロボットさえあれば、医師は暮らしやすい場所にいながら世界各地の困っている患者さんを手術することができる。また建築現場でも「ここで削るのを止める」という"匠の技"を定点から各地に提供することが可能になるのです。機械と機械が通信でつながることは事業領域として大きく、2025年までに約1300兆円のビジネスが生まれるといわれています。

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──AIと5Gが互いに特長を高め合って制作をサポート

去年の『紅白歌合戦』(NHK総合)では、PerfumeがCGの舞台でパフォーマンスを披露して話題になりましたが、5G突入の直前でAI(人工知能)技術が発達したことで、あのように3つ、4つのカメラで捉えるのみで360度どこからでも見ているかのような映像を作ることができるようになりました。AIがカメラ間を補完してくれるわけです。5Gだとさらに高速で遅延なくつなげるので、Perfumeの踊った舞台を再現して、ユーザーが自ら踊って配信することも可能になるでしょう。


これを応用すればサッカーの試合でも一人の選手にフィーチャーし、オフザボールの動きをずっと追いかけることも可能。また、新しい通信技術では遠隔地で行われているスポーツが、目の前で観戦している“以上”の「超臨場感」で体感できる未来も実現間近です。それはAIが瞬間的に立体データにしてモデリングしてくれるから可能になるのです。AIと5Gの技術は相互的に特長を高め合います。コスト的にも一般企業が気軽に活用できるようになるには3〜4年は必要でしょうが、東京五輪で実験ができるレベルまで技術は進んでいます。

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──ユーザーの"体験"が価値を生む時代がやってくる

5GとAIの掛け算は、エンタメ界に様々な可能性を生み出します
たとえば360度カメラが置いてある喫茶店にいる人たちの会話を瞬時にテキスト化し、さらには一番いい表情をした部分を自動で抜き取り、それをモニターで見た人が切り出してシェアすることも論理的に可能。これは『テラスハウス』の世界観を誰もが作れるようになる未来が来ることを示唆します。

ここで大切なことは、すべては「ダウンロード」ではなく「アップロード」されることで革命が起こること。5Gが進むとユーザーが発信する幅が広がるため、自作版『テラスハウス』を含め、ユーザーが自身の“体験”を幅広くアップロードできるようになることでビジネスが生まれるのです。5Gでユーザーの“体験”が価値を生む時代になるということは、エンタメビジネス的に把握しておかなければなりません。

巨大なサーバーとユーザーが超高速で遅延なくつながることで、今までは考えられなかった自動通訳も5年をメドにできるようになるでしょう。日本のドラマや映画も勝手に自動翻訳されるため、言語という壁がエンタメから取り払われる可能性は高くなっていきます

しかしそのためにはテクノロジーを活用できることが必要です。VRのヘッドマウントディスプレイは現在4万円ぐらいで購入できますが、出た当時は30万円でした。エンタメの世界の方なら、その30万円のときに経験を先回りしておくことが大事。誰もが使えるようになってビジネスが生まれる前に経験し、事業設計に取り組んでおくことが必要になってくると思います。

■PROFILE■
IT評論家
尾原 和啓(おばら かずひろ)

1970年生まれ。フューチャリスト、藤原投資顧問 書生。マッキンゼー・アンド・カンパニーでキャリアをスタートし、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレートディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、Google、楽天(執行役員)の事業企画、投資、新規事業に従事。現職はシンガポールやバリ島をベースに人・事業を紡ぐカタリスト。著書『アフターデジタル』(日経BP)は前経済産業大臣・世耕弘成氏より推挙され、『モチベーション革命』(幻冬舎Newspicks books)は 2018年Amazon Kindleで最もダウンロードされた本に。『ITビジネスの原理』(NHK出版)はKindle年間ランキングで2014年、2015年連続Top10のロングセラー。オンラインサロンも好評で、月2回講義を開催中!


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<発行日:2019/09/24>
*本記事は、FIREBUGが発行するメールメディア「JEN」で配信された記事を転載したものです。

Writer:衣輪晋一


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