見出し画像

『冬ソナ』から20年、また今年も冬がきた。

ジュエリーの仕事を始めてまもない頃のこと。
修理の持ち込み品に、他社製品の星デザインのネックレスが数件続き、あれっ?また同じデザインが来たよ?…と少し気になったことがあった。

大流行というほどの数ではなかったが、当時ブレイクした韓流ドラマ『冬のソナタ』の劇中に登場し、そのグッズとして販売されたネックレスだと後から知った。
(ポラリス・ネックレスで検索すると、今でも新品から中古品までたくさん出てくる)


当時、私は『冬ソナ』をきちんと観たことがなかった。
何かの特集などで断片的には目にしていても、通して観たことはなかったのだ。
私の母はリアルタイムで
「もう見て!この美しいヨン様の笑顔…、こんな美しい男の人がこの世にいたなんて♡」
と、どハマリしていたものの、まだ若すぎた私は
「記憶喪失もの?少女漫画じゃあるまいし」
…と、さほど興味が持てなかった。


そんな記憶もすっかり薄れ、韓流ドラマブームも落ち着いたある日、『冬ソナ』の再放送をたまたま目にした。
そういえば、母も母の友人たちも、勤め先の年齢層やや高めのお客さまたちも好きだと言ってたな…。
「私もね、昔、痩せてた頃はチェ・ジウみたいだったのよ〜!」
と、お姉さま方が決まって言ってたな…。

よし、せっかくだから、今更だけれど観てみよう。
ヒロインはポラリスのネックレスを着けてる?

…と思ったら、星じゃない!
よーく見てみると、女の子みたいなシルエットのデザインだ。たしかどこか欧米のブランドにあったような気がする。ポメラートかな、ポアレだったかなぁ…。

チェ・ジウ演じるヒロインは少し昔の…20年くらい前のキャリアウーマンという設定。だから、大きな石がギラギラしていない地金だけのジュエリーを日常的に着けているのは、年代的にもなんだかしっくりする。

あの頃はボリュームのあるゴールドジュエリーが数多く作られていて、イエローやピンクよりも断然ホワイトゴールドの時代だった。

とりあえず、ポラリスのネックレスのエピソードはまだまだ先のようだった。


さて、そんなこんなでざっくりしか観ていないが、『冬ソナ』があれだけ多くの人に受け入れられた理由が、今ならなんとなく理解できる気がした。
私自身が若くなくなってきたから?
いやいや、年齢と経験を重ねたから…かもしれない。


誰にでも、雪の降る日の思い出があるだろう。
大きな出来事じゃなくても、恋愛未満の日常的な出来事で、本当に誰でも経験するような学生時代の小さな小さな思い出が。

雪が降り始めて窓がくもり、指でらくがきをする。ガラス越しに白く様変わりしたグランドを見下ろしたあの日。
雪のために湿度が上がり、好きな人の前で前髪の形が崩れて気になって仕方がなかったあの日。
かじかんだ手指をさすりながら、雪の中、なかなか待ち人が現れなかったあの日。

ドラマに雪のシーンがあると、なんとなく自分の記憶と重ねてしまったりする。


それから、主人公の二人がほどよく理想的で美しい
派手過ぎず、奇抜過ぎず、(茶髪のヨン様はちょっと独特だけれども)観ている側が感情移入したり自分と重ねたりできる程度に素朴だ。
でも、長身でロングコートが似合い、颯爽と仕事をこなしている。白い歯を見せて微笑んだり一筋の涙を流すその容貌は、たしかに美しい。

他のどの登場人物も、ライバル役のキャラクターでさえも、自分より誰かのためを思って涙を流している。
現実世界ではなかなかありえないことで、その優しさや思いやりが美しい。


だから、ストーリーが良くて受けたというわけではなかったのだろう。
自分のささやかな恋の思い出を重ね合わせたり、スマートで美しい姿に自分を思いっきり投影させて、打算や欺瞞に満ちた現実をしばし忘れてドラマの世界に浸る。
そんな楽しみ方だったのではないかと思う。

ファンにしてみたら、ずいぶんと今更な分析なのだろうけれど。

『冬ソナ』の放送はたしか2003〜4年頃だった。
あれから20年近くも経った現在、この世界はあまりにも雑然としてきてしまい、流行り廃れも早く、美しいものもそうでないものも一緒くたの濁流に押し流されてしまいそうになっている。

『冬ソナ』のような世界は過去だけのもので、さりげなく美しい人や美しい物事に出会うのは、これからますます難しくなっていきそうな気がしている。




※このnoteは過去にShortNoteにて公開した記事に加筆修正したものです。

画像引用元 フリー画像サイト
https://www.shutterstock.com/ja/

いただいたサポートは、制作活動費とNoteの記事購入に使わせていただき、クリエイターさんたちに還元させていきたいと思います。よろしくお願いいたします!