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エメラルドが眠る海

かれこれ、30年近くも前のこと。
なにげなく見ていたテレビ番組…世界まる見えか、ふしぎ発見か、その中でちょっと珍しい海外のツアーが紹介されていた。

カリブ海だろうか、セルリアンブルーの海に潜り、沈没船とともに海底に眠る金銀財宝を探せるというもの。それだけでも冒険心をくすぐられるけれど、なんと、ダイビング中に見つかったお宝はツアー客が自分のものにしても良いという!


ちょっと余談になるけれど、あの頃は「徳川埋蔵金ついに発見か⁉︎」みたいな番組も多かった。

…埋蔵金って誰がもらえるの?
…子孫の徳川さんのものじゃないの?
…発見者はもらえないんじゃない?
…違うよ、見つけた人と徳川さんで分けるんだよ!

子どもながら、そんな論争を繰り広げたりしていた。

実際に何かを発見しても、大人の偉い人たちが持っていってしまい、私たちのものにはならないんだ。それなのに、海賊のお宝ならぬ沈没船の財宝が自分のものになるなんて!

画面には、エメラルドと黄金のエキゾチックな装身具がいくつも映っていた。興奮するダイバーの女性の手のひらに、海底から見つけたばかりのペンダントが乗っている。お宝も、女性の表情も、同じくらい輝いている。
子ども心に わくわく感が止まらない。


うわぁ〜、いいないいな、こういうツアー行きた〜い!と思いながらも、当時はそれきり。私はまだ子どもで海外に簡単に行ける年齢ではなかったし、「ネットで何でもすぐ検索」という時代でもなかった。

その後、あれは何のツアーだったんだろう…と旅行会社のパンフレットを見てみたり『地球の歩き方』を読んでみたりもしたけれど、しばらくは分からずじまい。



そんな長年の疑問は、大人になったある日、あっさり解けてしまった。

それは、ジュエリーの仕事に就いて数年後のこと。業務を回すことにもすっかり慣れ、自分の知識を深めようと、エメラルドの歴史を調べていたときだった。
仕事自体はデザイン・制作だけれど、ジュエリーは財産的価値もある特殊な品物なので、学ばなければならないことが多い。

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16世紀、スペイン人によって発見されたコロンビアのムゾー鉱山は、エメラルドの産地として名高い。新大陸からもたらされる緑の宝に、ヨーロッパの人々はどれだけ熱狂したことだろう。
1622年にフロリダ沖で沈没し、1985年に発見されたスペインのガレオン船「ヌエストラ・セニョーラ・デ・アトーチャ号」には、ムゾー産エメラルドも数多く積み込まれていたという。
実はこの沈没船、エメラルドの歴史を語るうえでは、そこそこ有名なエピソードだったのだ。


1985年に発見…。そう、私がテレビ番組で見たのはそれよりも数年後だった。沈没船が発見され、人々はふたたびエメラルドに熱狂していたんだ!


小さい頃の記憶や疑問が、大人になって解き明かされたとき、さまざまな感情が大きく膨らむ。もうこれは「快感」でしかない!
それはまるで、本当に宝物を発見したかのような…!


自宅で過ごす時間が増えた2020年、沈没船のエメラルドを含むコレクションがオークションにかけられていた。
私の心に小さな火を点けた、あの沈没船のエメラルドだ。

昔とは別の理由で簡単に海外へ行けなくなったり、ここ数年は活動が抑えられてしまったが、ネット上で情報に触れて一気に思い出がよみがえった。モニターの前で楽しみつつ、心は世界を駆け巡っている。


画像引用元
https://guernseys.com/v2/gomar.html

https://www.gia.edu/JP/gia-museum-exhibit-atocha-emerald-cross#

ウィキペディア参照
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ヌエストラ・セニョーラ・デ・アトーチャ


※このnoteは過去にShortNoteにて公開した記事に加筆修正したものです。



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