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見た夢4

 起きてすぐにメモしていた夢を、ある程度正しい日本語に直した日記です。



水流

 恋人の家の洗面台で手を洗っていると、徐々に自分の顔が気になってきて、見あげようと思うが顔が重くて上がらない。どうしても、鏡を見ることができない。蛇口から出てくる水が、何にもぶつからずに排水口に流れ落ちていくところから、目が離せない。

 ○

屈曲

 手に持っているスマートフォンが、曲がっているような気がして、よく見ると、たしかに少し曲がっている。じっと見ていると、今も尚ゆっくりとゆっくりと曲がっているのが分かる。
 数分経って、もう90度くらいに曲がってしまったところで、見ていられなくなって自分でとどめを刺してバキッと半分に折ったら、それはもともと二つ折りの携帯であったことが分かり、断面もコーティングされていた。それならいいやと思って、それを使い続けることにした。

 ○

飛行

 間に合わないと思った私は、眼球を操作して、景色を一回地図として捉えた。すべてが一度平面化して、次に奥行きが生まれて、次に高さが生まれた。そして視点は上に上がり、Googleマップを見ているような感覚で、目の前の景色を上から見つめた。行きたい場所に狙いを定めて、タイミングを見計らって、地面を軽く蹴ると、私の体は宙に浮いた。同じ要領で空を蹴ると、その力で空中を飛べた。そのときはそれで間に合うことが出来た。
 行きたいと思うところに、行きたいという心を持っていけば、好きなところに飛んでいけた。でも、そのころの自分は、それが生得の、普通の力だと思っていた。力、とも認識していなかった。だから、有意義に使うということもほとんどなく、だいたいは気に入っている森の、自分が密かに作った小屋まで飛んでいって、そこで仮眠していた。
 空を飛んでいるとき、空で他の人と出会ったことが無い。もしかしたら他の人は空を飛べないのかもしれない。空が広すぎるからかもしれない。皆が飛び始めたら、空が窮屈になって、私は飛ぶことをやめるだろうと思った。

 ○

鈴と光の夜

 遥か昔から期待していた美しい飛行機が、とうとう空を飛ぼうとしている。夜、ひとりで畑を耕していると、木陰から幼い子どもが駆け寄ってきて、服の後ろを掴んでくる。この子どもは言葉を話せないが、言葉以上に大事なものを持っていて、それによって私と会話することが出来る。
 その子どもが、必死に、もうすぐあの飛行機が飛ぶよ、と伝えてくる。でも、私は振り向こうとしない。分かっている。飛ぶのは分かっているが、何故だか心から見たくない。見てしまったら終わりな気がした。
 子どもは私を振り向かせるのを諦めて、近くの石の上に座った。ちょうど子どもが座れるくらいの小さくて平べったい石だった。
 それから数秒ののち、直ぐに飛行機が発射した。それは音で分かった。世界中に聞こえるくらいの大きな音で、子どもは両手で耳を塞いでいる。目だけできらきらした遠くの飛行機を追っている。
 絶対に見ない、と思いながら鍬を土に思い切り入れたとき、頭上で聞きなれない鈴のような音がして無意識に見上げてしまった。

 すると、私の目に、無数の光の線が、飛行機を中心に放射線状に広がる光景が映った。鈴の音は飛行機に付けられたと噂されていた特殊装置による音だった。飛行機雲の代わりに、光の線を、あらゆる方向へ垂れるように流しながら、上空を飛んでいる。光で夜全体が少し明るんで見えた。その光は花火大会の最後の花火のように、枝垂れて、街の中まで降り注いでいった。くらげみたいだなと思ったら、それに共感した子どもが、空を見上げながら深く頷いていた。子どもの両手はもう耳から離れていた。私たちは眩しい光と鈴の音をただ夢中で心で追っていた。

 ○

砂嵐

 みんなが授業を必死に聞いている間、自分はペンも持たずに窓の外を見ていた。晴れている。授業なんてまともに聞いているだけ無駄だ……と思う。すると、教室の窓が一枚、カタカタと揺れた。なんか変だなと思っていたら、もっとカタカタしてくる。自分だけが気づいているみたいで、周りの人は授業を聞いたり聞かなかったりしている。自分が変になったんじゃないかとも思い始める。近くの席にいた友だちに、ちょっとまずいかもと伝える。「何が?笑」と笑われる。
 そのとき、パラパラと砂が机の上で動いた。
 それは、降ってきたものだと、ひと目でわかった。(見上げると、天井に天窓がある。教室に天井に天窓があることを私は既に知っていたみたいだった。)(晴天時は天窓は開ける決まりになっていて、その日も晴れていたから、天窓は開いていた。)砂が舞っている……と思うと、横の窓の揺れは強まり、段々それが強くなって、突風が吹き付け、風で浮き上がった石によって窓が割れ、猛烈な風と砂が教室に入ってくる。天窓は開いているので、風はそこに向かって抜けていき、教室内に上昇気流のようなものが発生。教室を囲む全体が、茶色で見えなくなるくらいの砂嵐になる。
 ガラスの飛散に当たらないように、かつ嵐に吹き飛ばされないようにするには、みんなで固まるしかないと思って、自分の机の上に立ち、大声で、「先生授業はやめて固まりましょう!」と叫ぶ。こんなに叫んだことがないと言うくらい叫んだ。でもその間にも喉に砂が入ってその一声で喉が涸れてしまう。先生も頷き、みんなで教室の後方におしくらまんじゅうする。自然の脅威にはどうしたってかなわないことを分かっていながら。

 ○

殴打

 目覚めると、バスは目的のバス停をとうに通り過ぎていた。急いでボタンを押して降りると、電話もまともに繋がらないような山の中腹部だった。誰もいなくて、悲しくて、泣きそうになったところで、向こうに光の点が見えて、それが揺れながらこちらに近づいているのがわかった。だんだんとそれは大きくなってきて、懐中電灯の光っぽいことが分かる。が、その人は、''近寄って来ている''というようなスピードではなく、全力をつかったダッシュで、こちらに走ってきている。私は直感で、この人は助けを求めるべき相手では無いと思った。そして同時に、この人は私がここにいることを知っている、私を目掛けて走っていると思った。私の30m先位の距離になっても、その人はダッシュを弱めなかった。それどころか、最後の力を振り絞るように、速度を上げた。そして私が「あの……」と言おうと口を開いたのと同時に、その人物は懐中電灯と反対の手に持っていたハンマーで、私を全力で殴った。私の意識が完全に潰えるまで、何十回も殴った。それは弱まることがなく、むしろ最後の力を振り絞るように、一回一回強まっていった。
 意識が覚めると、私は教室の端にいた。ふつうの平日のふつうの授業が行われていた。あれは夢だったのか……? と思いながら、自分のノートに目を移すと、大量の文字がそこに書かれてあった。ただそれは、意味が読み取れるようなものではなかった。少なくとも日本語ではなく、英語でもフランス語でもなかった。見たことの無い記号で、(でもそれは確実に、文法機能を伴っているような羅列、記号の交代が行われていた)これを私が書いたのか……? と思っていると、教室の後ろのドアが勢いよく開く。それを開けた人物の顔を見て、先生は「今日の授業は一旦終わり!○○さん以外の生徒は教室から出てください」と言う。○○さんは私のことで、私以外のみんなは、やったーとか遊びに行こうぜとか言いながら、教室の外に出る。そして先生は「ではお願いします、」と言い残して教室を出ていく。
 私は振り向いて、ドアを開けた人物と相対した。その人は懐中電灯を持っていた。あ、と思って、走ってくる、と思ったら、予想に反してゆっくりと歩いてきた。そしてもう片方の手に持っていたハンマーで、私のことを思い切り殴ってきた。前の反省を活かしたように、何発も殴らなくて済むように、一発に全力を込めたような、殴打だった。
 次に目が覚めると私は電話ボックスの中にいた。既に右手で受話器を耳に当てていて、左手には掴みきれないほどの10円玉が入っている。そして私は、頻りに後ろを気にしていて、じっと遠くを見ると、また、あの光が揺れながら大きくなっている。間に合え、と思っているが、受話器の向こう側は、保留音の「エリーゼのために」が流れている。私は震える左手で10円玉を詰め込む。相手が出て、「ただいま代わりました」と耳に聞こえた瞬間、走ってきた人物は電話ボックスのガラスごと殴ってきた。殴られながら、この電話の向こう側の相手にこれが聞こえていればいいなと思った。

 ○

代償

 恋愛系デスゲームが始まる。一人一つずつ能力が与えられ、自分は「夢を見ることができる」だった。その特権を使って、何も起きなかった一日目の夜、このゲームの最後のシーンを先に夢で見てしまう。そこに自分はいなかった。

 ○

暗号

 暗号が空中に表れる。どれだけ歩いてもそれは自分に付きまとう。どうやらそれが世界を一変させる重大なものであるらしいことは分かっていたが、そんなことよりも視界にずっと暗号が映っていることが嫌だった。だから、思い立って仕事を辞めて、部屋で暗号の解読に努めた。
 何年か経ってようやく暗号が解けた。その瞬間、視界から暗号が消えた。ただ、この暗号は、解けたから世界が即座に変わるというものではなく、自分だけが知っているこの答えを、ある人に伝えることによって、世界が変わる仕組みだった。ある人、が誰なのか、どこにいるのかは、暗号の中にすべて書かれていたので私は知っている。
 が、自分の目的は視界から暗号を消すことだったから、それ以上のことは全く必要がなかった。だからその日も、その足で、マクドナルドに行って、てりやきバーガーを頼んだ。

 ○

信心

(夢は三分割され、高校生の男の子の視界と、同じ高校の女の子の視界と、カウンセラーである自分の視界とが同時に進んでいる。)
 男子生徒は、他に類を見ない天才児で、それは外から見ると分からなかったが、それはその生徒が他者から見える自分を操作しているからだった。それくらいには天才だった。
 その男子生徒が、ふと、酔っ払ったときにひらめくアイデアのように、女子生徒をひとり、自分の思いのままに洗脳したいと思った。
 
 女子生徒は、自分のことを何も分かっていない性格だった。その代わり、他人のことはなんでも分かるくらい、心が目に見えてわかる人だった。

 ある日その男子が、その女子に話しかけに行ったとき、その女子は、相手が自分を洗脳するために話しかけてきたことくらいは、既に読めていた。が、大切にすべき自分自身というものを全く持っていなかったため、何も警戒することなく、相手の弄する話術に乗っかった。

 そこで、その男子生徒が使用した心理学のテキストの作者が、カウンセラーとしてこの学校に来ていた私だった。男子生徒は、そのテキストを思い切り悪用して、その女子の性格を、根本的に変形させてしまった。

 ある日、雨の日の16:00、数学教師が私の元に走ってきて、(そのときの数学教師の顔はものすごく怒っていた)「屋上まで、至急行って下さいますか」鍵を渡してきた。何故?と思いながら頷いて、走って屋上へ向かう。
(ここで、三分割された視点が、ひとつの、カウンセラーの私に集約される。)

 屋上に繋がるドアまで来ると、ドアのそばに、その女子生徒がうずくまっているのが見えた。全身が雨に濡れていて、私が来たのを見た瞬間、目付きを一気に変えた。殺されるかと思ったほどの目だった。
「何であんなこと言ったんですか」
 とその子が言う。何のこと? と、できるだけこちらの焦りに気づかれないように言った。
 すると、後ろ手に持っていた、びしょ濡れの本──私が数年前に出した本──の、〈人の心が壊れるとき〉という章を開いて見せてきた。そのページには、赤ペンで、空白という空白にメモ書きがされてあった。(行間にまでそれは及んでいた)
「どういうこと?」
「分からないなら聞けば? あいつに」
 とドアの方を指さした。私は鍵を持っていたが、鍵を使わなくてもドアは開いていた。私は女子生徒の目を無視するように、ドアを開けた。

 そこには、男子生徒がひとり、私の方を向いて立っていた(グラウンドに背を向けていた)。
 雨は降り続いているのに、彼の服は全く濡れていなかった。
「お前が、言う通りになったんだ」
 と言って、彼は、私を通り越して彼女の方を指さした。
「凄く役に立ったよ、あの本……」
 と言って、彼は、私とは逆方向に後ろ歩きをした。私とずっと目を合わせながら、彼は下がっていって、手すりに腰がぶつかって、そのまま後ろに落ちた。数秒後に破裂音がした。
 振り返って彼女の方を見ると、さっきとは目付きががらっと変わって、それはものすごく輝きを持ったものになっていた。まるで、ハートマークみたいな目だった。その目と、自分の目を合わせながら、私は1階の方で聞こえてくる悲鳴について考えていた。


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