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【コラム】デザイナーが模索するエコシステム 

Text By JEITA デザイン 委員会 

今回は、ソニーグループの吉森が担当いたします。前回、富士通の稲垣さんの記事で『JEITAエコシステム』への取り組みと議論が進んでいることを説明しました。とてもわかりやすい記事なので、ぜひ再読ください。
インハウスデザイナー達で作るエコシステムは、企業の枠を超えられるのか?|JEITAデザイン委員会|note

今回は、その内容を、もう一度、紐解いてみようと思います。いや、実は、筆者も学びながら理解を深めているところなのです。NOTEのいいところは、読者のみなさまに意見をいただき、考えることができるところ。コメント欄に、ご意見をぜひいただければ嬉しく思います。

さて。

われわれデザイナーは日常的にデザイン業務に勤しんでいます。しかし、この『デザイン業務』と呼ばれるものは日々変化していきます。今では、カッコいいイラストを描く、とか、素敵な造形を作る、ということだけではなく(それも重要なのですが、それに加えて)、『ソーシャルイノベーション・デザイン』も、デザイナーの大事な役割とされています。では、この『ソーシャルイノベーション・デザイン』とは何でしょうか? 

『ソーシャルイノベーション・デザイン』とは、90年代から主に欧米を中心に議論されはじめた考え方で、利益追求だけではなく、社会課題の解決も目的としたデザインを指します。つまり、製品単体だけではなく、その製品を含むシステムやサービスのデザインが、倫理的で社会の利益にかなうものになっていなければならないという考え方です。

ちょっと難しいですよね。

でも昨今のデザインのトレンドはこの考え方に基づいているのです。実際に今、現場で働くデザイナーの多くは、自社の製品を作る際に、どうすればこの製品が社会の利益になるようにデザインできるかに、頭を悩ませています。それが、結果的に自社製品の価値をあげることにもなるからです。たとえば、可能な限りエコな素材を使う、とか、目の不自由なかたでもわかるような色を使ったり、表示を大きく見やすくしたり、ハンドルの形を変えて触るだけで機能が伝わるように工夫したり、はわかりやすい例です。

きっとデザイナーは、昔からこのような仕事をしてきたのでしょう。1964年の東京オリンピックの時、日本のデザイナーは「ピクトグラム」を開発し、会場のあちこちに掲示しました。外国から来た日本語が分からないひとでも「形」だけで意味を伝えることができる掲示です。言葉がわからないひとに種目や場所の意味を伝えるにはどうしたらいいか、という課題を、デザインが解決した好例だと思います。

このようにデザイナーは「課題解決」のプロフェッショナルとして日々の業務に勤しんでいます。どのように現代の社会課題に向き合うのか。これは、デザイン業務に携わるわれわれの大きな命題だと考えます。

 では、現代、喫緊の社会課題とはなんでしょうか。

 例えば、子供の教育格差の問題。

とても大きな課題ですが、これは果たして「国の責任だ、行政の責任だ」と叫んでいるだけで解決できるでしょうか? どこか特定の企業の課題でしょうか? そうではないと思います。行政ももちろんこの課題に取り組んでいますし、多くの志ある企業やNPOなども取り組んでいます。それぞれが課題にぶつかりながら、創意と工夫とそれぞれが大きな課題に挑んでいるというのが現状ではないでしょうか。課題解決のために、それぞれの組織の壁を乗り越えて、課題を建設的に解決していく方策はないでしょうか。

現代社会における「社会課題」は、ひとつの製品やサービスで解決できるものでもなく、ひとつの企業や組織が解決できるものでもありません。われわれ社会を構成するさまざまな立場のひとびと(ステークホルダー)が、 
 ①目標や目的を共有し 
 ②長期間をかけて 
 ③みんなで協力して 
 ④具体的に少しずつ 
取り組む必要があります。

企業のように、期ごとに利益という尺度で事業が評価され、株主の指示を仰がなければならない組織だけでは、解決が非常に難しくなってしまいます。また、政治行政セクターも、数年ごとに選挙があって責任者が入れ替わるうえに、会計監査のさまざまな義務もあり、持続性が担保できない場面もあります。

現代の「社会課題」を解決するためには、従来の組織だけでなく、目的に応じて、長期間にわたって、資金、人材、資材の提供を行う「持続的な枠組み」が必要です。そして今、日本をはじめ世界のあちこちで、このような社会課題に向き合うための「持続的な枠組み」≒「エコシステム」が多く立ち上がっています。どの組織も試行錯誤をしながら、その枠組みの最適な姿を模索しているのが現状です。

われわれ「JEITAデザイン委員会」は、国内23社のデザイナーが参加する組織であり、『ソーシャルイノベーション・デザイン』について、実務で日常的に取り組んでいるプロフェッショナルが集まって、さまざまな課題を議論する場でもあります。これだけ多くのデザイナーがいれば、社会課題の解決に、なんらかの貢献ができるのではないか。それがわれわれ22年度JEITAデザイン委員会が「エコシステム」をテーマに掲げ、研究と実践に取り組む理由なのです。

JEITAデザイン委員会では、現在、国内外のさまざまな団体の意見や取り組みを紐解き、また、同時に『ワークショップ』を行って実際に課題解決のトライアルをしています。本稿ではその取り組みの随時報告してまいります。

ぜひ、記事の登録をお願いいたします。

次回以降こんな記事を予定しています

・トップランナーに聞いてみよう:
 先駆的なプロジェクトに取り組むデザイナーに聞いてみた!
・ワークショップをやってみたよ:
 アジェンダの決めかた? 壁にぶつかってる? どんな議論がある?
・欧州に学ぼう:
 デンマークの取り組み。イギリスの例。
 
また、デザイナーの日々の思いをつづるエッセイも、随時上げていこうと思っています。

JEITAデザイン委員会に関する問い合わせ

 一般社団法人 電子情報技術産業協会
 事業戦略本部 市場創生部 志村・飯沼・飯野
 デザイン委員会|JEITA


2022年度JEITAデザイン委員会参加企業は以下の通り(敬称略)

OKIプロサーブ、オムロンヘルスケア、キヤノン、コニカミノルタ、JVCケンウッド・デザイン、シャープ、セイコーエプソン、ソニーグループ、TOTO、東芝、ニコン、NEC、東芝テック、パイオニア、パナソニック、日立製作所、富士通、富士電機、富士フイルム、富士フイルムビジネスイノベーション、三菱電機、リコー、レノボ・ジャパン


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