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「愛について語るときに我々の語ること」の感想文

レイモンド・カーバー著、村上春樹訳「愛について語るときに我々の語ること」を読みました。
この作品は作者の書いた原作を編集者の裁量でかなりの部分をカットしているので別バージョンが存在します。その中から「ファイアズ(炎)」に収録された作品を原文で読んでみました。
「ミスター・コーヒーとミスター修理屋」は「みんなは何処へ消えた」として収録されています。アルコール依存症の男と彼を取り巻く家族と友人たちの「クレイジー」を丁寧に描いた別バージョンが好きです。
「何もかもが彼にくっついていた」は「隔たり」として「ファイアズ(炎)」に収録されています。家族を象徴する会話や場面がカットされています。主人公は車を発車させて、ホー厶から平野に飛び出してみるべきです。それにより元に戻ったあとの場面が活きている。これもロングバージョンが方が好きです。
「足元に流れる深い川」も別バージョンを含めて読みました。この作品のテーマは主人公とその周囲の登場人物たちを取り巻く溝が事件により明らかになった事だと思います。その中で窒息しそうになりながら懸命に対岸へと渡ろうとする彼女の状況を説明するのに最適なセリフがありました。

"I want to smother" I say.  "I am smothering, can't you see?"

〈「私は溺れたいのよ。」と私は言う。「私は溺れているののよ。分からない?」〉

このセリフと関連する場面がカットされていました。それなりの理由があるのでしょう。残してほしかった、
更に原文を読んで発見したことは不満を表明する時によくあるセリフです、

What a hell of a thing to be thinkng about? 
〈なんでそんな的外れな事を考えてるんだ?〉

原文では"hell"が用いられています。辞書には《1.地獄・・・4.(俗)〜なんて、とんでもない:絶対に〜でない》と掲載されています。日本語では地獄の印象がかなり強いので(俗)の4番のイメージが湧きにくいです。こちらもロング・バージョンが好きです。
カットされていた部分は作品に拡がりと深さを与える重要な役割していたように思います。しかし、カットされています。
「それがミニマルなんだよ!」と云われればそこまでです。作者を発見して、出版までした功労者の判断ですから、口を挟む余地はありません。
「ビギナーズ」としてカットされる前の作品集もあるのでそちらで理由を推し測るのみです。
レイモンド・カーバーに本当に溺れている、そして、溺れていたいと自覚させられる作品でした。
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