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「椎名麟三集」の読書感想文

「筑摩現代文学体系66 椎名麟三集」(筑摩書房)を読みました。
収録された作品に共通しているのは死から遠ざかること。特に印象的のは苦悩しながら青年が生きる意味を見つける「永遠なる序章」が好きです。彼は生きる意味を見つけてから、周囲にそれを拡めようとします。それでも異なる肉体と人格を持った他人が相手です、どこかに上手く噛み合わない部分を残している。そこに魅力を感じます。しかし、この作品は「虚無の海に浮かぶ必然系」のように哲学的で難解な部分を含みます。内容をしっかりと理解できている自信はありません。それでもこの作品を読みながら原民喜の初期の作品が好きな理由を見つけました。
原民喜は幼い頃に家族の死に直面しています。同年代の子供よりは死について意識していたと思います。そして、死から遠ざかり、生きるために創作活動をしていた。そこに魅力をを感じます。
そして、誰にも知られずに線路の上で静かな最期を迎えた晩年の作品を読みながら、彼がその選択をした理由について、どうしても判らない部分があります。それについても収録された「猫背の散歩」が手掛かりになります。
「死の動機をつくるものと、実際彼を殺させるものとの間には、無限のへだたりがあるということだ」
原民喜がどんなに作品の中に最期を示唆する理由を描いても、充分な説明にはなりえません。どうしても静かな最期の理由は手の届かないところにあります。
椎名麟三は作家仲間から「太宰治の次に自殺するのはあいつだろう」と噂されながら、親友の梅崎春生の葬儀委員長を当時は若手だった遠藤周作らと協力しながら務めるました。それだけに説得力があります。
佐古純一郎の解説「人と文学」は「椎名麟三氏の作品を正しく理解することは必ずしもやさしいことではないようである。」と結ばれています。
その通りだと思います。それを理解しようとする過程で自由に作品を解釈する楽しみを実感できる作品集です。

#椎名麟三
#読書感想文
#原民喜





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