日本戯れ話「竹太郎」

むかーしむかし、あるところに、お爺さんとお婆さんが住んでいました。
お爺さんは山へ山賊をしばきに、お婆さんは海釣りに出掛けました。

お爺さんが山賊共をしばき倒した後の帰り道、竹を切っている一人の青年に出会いました。
爺「おぉ、浦島か?」
浦「あ、どーも!お久しぶりです。」
爺「竹取かえ?精が出るのぉ。こんな遠くまで取りにきとるのかえ?」
浦「いやぁ、実は今度、子供が…」浦島は照れ笑いしながら言いました。
爺「おや!めでたいのぉ!」
浦「いやぁ、ははは…なんで、しっかり稼がないといけないんですよ。」
爺「そうかそうか〜。ここらへんの竹は立派じゃからのう。」
浦「そうなんですよ。あ、そうだ、実は先ほど、面白いものを見つけたんですよ。」そう言って、浦島は背負っていた籠から、光り輝く竹を取り出しました。
爺「おや、何と綺麗な竹じゃろか。」
浦「さっき偶然こいつを見つけましてね。もしかしたら高値で売れるんじゃ無いかって…」
爺「きっとこいつは高値がつくぞい。きっと奥さんも楽になるじゃろうて。」
浦「ははは、だといいですね。」
爺「では達者でな。」
浦「はい。」
お爺さんと浦島は別れました。

一方、釣りに行ったお婆さんが釣り仲間と一緒にカワハギを釣っていると、海にいくつもの桃が浮かんでいるのが見えました。
婆「あれま!なんじゃろかこれは。」
お婆さんとその友達は、その海を漂っていた桃を回収しました。
婆「なんで海に桃が?」
婆友「なんででしょうねぇ。旦那さんに持って帰ったらどうですか?桃が大層好物じゃありませんこと?」
婆「いや、しかし、海で拾ったもの食べるかね…いや、あの人なら食べそうじゃ笑」
お婆さんは、たくさんの桃を家に持って帰りました。

その日の夕暮れ時
爺「なんじゃ?この桃は。」
婆「海で拾ってきたんですよ。」
爺「海に桃なんかがあるかいな。」そう言いながらも、お爺さんは桃を食べ始めました。
婆「全く、いつまで経っても桃が好きなんですから。」
爺「果物にいつまでもへったくれもありゃせんわい。」
婆「ところでお爺さん。」
爺「ん?」
婆「最近、赤鬼さんとこの部下が問題になっているみたいですよ。」
爺「ほほう。」
婆「町の人達はえらく困っているとかって。」
爺「そりゃいかんなぁ。よし、いっちょ言ってくるか。」
婆「え?どこに?」
爺「赤鬼のとこじゃよ。」
婆「まぁ、鬼ヶ島に行くんですか?」
爺「うむ、明日、早朝にでも出発しようかいの。」そう言って、お爺さんは床につきました。

次の日、早朝
爺「さて、ちと鬼ヶ島に行ってくるわ。」
婆「行ってらっしゃい。お気をつけて。」
お爺さんは海へと出向きました。
浜辺では、亀が子供達にいじめられていました。
爺「こらこら君達、亀の死骸で遊んではいかん。」
亀「いや、まだ死んでないです。」亀は人語を喋りました。
子供たち「化け物亀だぁ〜。」
子供達は逃げていってしまいました。
爺「何と面妖な亀か。」
亀「助けていただきありがとうございました。」
爺「今のうちに早く海に帰りなさい。」
亀「その前に何か、お礼をさせて下さい。」
爺「いや、いらん。」
亀「まぁ、そう言わないでくださいよ。そうだ、竜宮城へ連れていって差し上げましょう。」
爺「いや、いらん。」
亀「え?…いらないんですか?とても楽しいところですよ。」
爺「そんなもんはいらん。」
亀「そ、そうですか…」
爺「いや、待てよ、そいじゃあ鬼ヶ島に連れて行ってくれんかの。」
亀「えっ、鬼ヶ島ですか?そんなとこ行ってどうするんですか?」
爺「ちょっとな。」
亀「そうですか…分かりました、では私の背中に乗って下さい。」
お爺さんは亀の背中に乗って、鬼ヶ島に向かいました。
亀「しっかり捕まってて下さいね。」
爺「うむ。」
亀「我々亀はですね。どんなに悪天候でも、乗っけてる人を安全に運ぶことが出来るんですよ。今日は晴れてますけどね。」
爺「うむうむ。ぐぅ…」
お爺さんは亀の背中で寝ていました。
亀「危ないですから起きて下さい!?」
爺「おぉ、すまんすまん。つまらん話を聞くと眠くなってしまうのぉ。」
亀「……。」
そんなこんなで鬼ヶ島へと辿り着きました。
亀「着きましたよ。」
爺「うむ、ご苦労じゃった。ではの。」
亀「はい。また海を渡りたい時はいつでも呼んでください。もちろん、竜宮城に行きたい時も!」
亀は海に帰って行きました。
爺「さて。」お爺さんは赤鬼のいるお城の入り口までやってきました。
お城の門の前では受付の鬼がいました。
爺「すまんが赤鬼はいるかいの?」
受付「赤鬼ですか?アポイントメントはお取りでしょうか?」
爺「アポロ13号計画?なんやよう分からんが、とりあえず桃太郎が来たとだけ伝えてくれんかいの。」
受付「も!、桃太郎様でいらっしゃいますか?少々お待ちください。」
受付「赤鬼様」
赤「ん?」
受付「桃太郎様がお越しです。」
赤「え!桃太郎が?!本物なのか?」
受付「今門の前にいらっしゃいます。」
赤「そ、そうか、とりあえず通すんだ。」
受付「承知しました。」
お爺さんは、赤鬼のいる部屋まで案内されました。
爺「いやいや、久しぶりじゃの。」
赤「えぇ、事前に言ってもらえればもてなしの一つでも出来ましたのに。」
爺「いやいや大した用事じゃないんじゃ。おたくのとこのー、ほら、なんて言ったかな、町にいる二人組の。」
赤「紫鬼と橙鬼でしょうか?」
爺「あぁ、そうそう、なんか最近よくない噂を聞いておるのでな。実際どうなんじゃろうか?たまには様子でも見に行っておるんかえ?」
赤「……明日にでも、青鬼に様子を見に行かせます。」
爺「そうかそうか、そりゃ安心じゃわい。では、よろしく頼んます。」
赤「はい。」
爺「あ、そうじゃ。」
赤「?」
爺「悪いが帰りの船を出してくれんかいの。」
赤「えぇ、いいですよ。(どうやって来たんだ?)」
お爺さんは、鬼ヶ島を後にしました。

次の日、町にある橙鬼と紫鬼の根城
紫「おい、橙。」
橙「なんだ紫。」
紫「青鬼さんが今こっちに向かってきているらしい。」
橙「何!?どうして?!」驚きのあまり、コップをひっくり返す橙鬼。
紫「とにかく、お出迎えする準備をしよう。」
橙「準備?準備ったって何を?あ、そうだ、ネクタイ、ネクタイはどこだ?俺のネクタイ。」
橙「お前はネクタイなんかしたことないだろうが。」
そうこうしているうちに、青鬼が到着しました。
青「おぅ、お前ら。元気にしてたか?」
紫・橙「はい!」スーツを着て、背筋をピンと伸ばしながら答える二人。
青「ところでお前ら…」
紫・橙(ゴクリ…)
青「なんだか最近、随分と景気がいいみたいだな。」
紫「いえ、そんなことは…」
青「昨日、桃太郎さんが来たよ。親父のところに。」
紫・橙「!!?」
青「そこでお前らの話をしたそうだ。」
二人の顔は青ざめている。
青「で、お前ら、実際どうなんだ?何もやってないのか?どうなんだ?」
橙「す、すみませ…」
紫「いえ、私たちは何もしておりません。」
橙「!?」
青「……そうか…分かった。」
橙鬼のスーツは、汗でグショグショになっていた。
青「まぁ、正直言うと、俺も桃太郎さんはあまり好きじゃないんだ。もう時代遅れの人だろう。今回の件も、きっと何かの見間違いさ。それかもしくは、誰かにそそのかされたか…」
紫「私も、そう思います。きっと何かの勘違いだと思います。話せば分かっていただけると思います。」
青「よし、親父には俺から報告しとく。ただし、しばらく目立つ行動は慎めよ?」
紫・橙「ははっ!」
青鬼は鬼ヶ島へと帰って行きました。

青鬼が帰ってきた後の鬼ヶ島
青「…と、いうわけで、桃太郎さんが言っているような事実はありませんでした。」
赤「…………。」
青「親父?」
赤「分かった。明日、桃太郎のとこまで行って、説明してくる。」
青「親父が直接行くんですかい?また私が明日行ってきますよ。」
赤「いや、俺が直接行ってくる。お前はゆっくり休んでおけ。」
青「…そうですか、分かりました。」青鬼は、頭を下げて部屋を出て行った。

紫鬼と橙鬼の根城
紫「橙の。」
橙「なんだ?」
紫「明日、親父が直接、桃太郎のとこに行くらしい。」
橙「え?なんでまた。」
紫「きっと、俺たちの件だろう。ちょっと、マズいかもな。」
橙「どうすんだよ。」
紫「親父は確か骨董品集めるのが趣味なんだ。」
橙「うんうん。」
紫「いま町でな、光り輝く竹っちゅうのが売られてるんだよ。」
橙「光る竹?そいつはすげぇな。」
紫「すげぇ値が張るらしいが、こいつを買って親父にプレゼントすれば、いくらかは俺たちの心証もよくなるだろう。」
橙「そいつは名案だな!よし、早速買いに行こう。」

次の日、お爺さん宅。
爺「今日は天気が悪いのぉ。」
この日は朝から雨模様でした。
婆「これじゃあ海釣りに行けませんねぇ…そうだ、今日は賭博場に行ってこようかしら。」
爺「あまりのめり込むんじゃないぞ。」
婆「はいはい、分かってますよ。」
お婆さんは朝早くから賭博場にいってしまいました。
そしてお昼過ぎ、お爺さん宅に赤鬼がやって来ました。
爺「なんじゃ、事前に連絡してくれればよかったのに。」
赤「………」赤鬼は何か言いたそうでしたが黙っていました。
赤「桃太郎さん。」
爺「うむ。」
赤「先日の件なのですが。」
爺「うむ。」
赤「様子を見に行ってみたのですが……恐らく、桃太郎さんの勘違いかと思われます。」
爺「ほほぉ、なんと。」
赤「一応、厳重には注意しましたが…」
爺「そうかそうか、では町の人たちが嘘をついておるということじゃな?」
赤「…いえ、そういうわけでは…しかし、多少、気にし過ぎているのかもしれません。」
爺「そうかそうか、分かった。もうよい。」
赤「…では、失礼致します。」

その頃の紫鬼、橙鬼
紫「今日は天気が悪いな。おい、竹を濡らさないようにしろよ?」
橙「分かってるよ。しかし、こんな天気の日でも親父は来るかね?」
紫「どうだろうなぁ。とりあえず港に行ってみよう。」
二人は赤鬼の船を探しました。
橙「あ、あれは親父の船だ。」
紫「よし、この光る竹を持って、船で待っていよう。」

次の日、快晴。
ビラ配り「号外〜号外だよ〜!」
町ではビラを配っている人がいました。
猿「なんだなんだ、騒がしいな。なんか事件でも起きたのか?」
雉「知らないんですか?お猿さん。昨日、鬼ヶ島の赤鬼さんが事件に巻き込まれて死んでしまったんですよ。」
猿「え!?大ニュースじゃん!」
犬「だから号外撒いてるんだろ。」
猿「ちょっと一枚貰ってくるわ。」
猿はビラを一枚手に入れました。
猿「どれどれ…」

【怪奇!赤鬼、謎の死を遂げる!】
 昨日未明、赤鬼を乗せた船が鬼ヶ島へ戻る途中に沈没しました。沈没の原因は不明。
 船の乗員は全て死亡しており、死体には全て刃物で切られた後があったといいます………

猿「刃物で切られてるってよ!誰がやったんだろ。」
雉「赤鬼をやれるなんて、相当な腕前ですよ?」
猿「桃さんかな?」
雉「赤鬼に勝てるといったら桃さんくらいだけど…でも、あの人も結構な歳だからね。紫鬼も橙鬼もまとめて倒すのは無理じゃないかしら?」
犬「そうだよな、それに、昨日の海は結構荒れてたからなぁ、切り捨てたとて、逃げ場がねぇよ。もしかしたら、やったのは竜宮城のやつらじゃないか?」
猿「竜宮城のやつが赤鬼をやれるって?むりむり、あんな軟弱なやつらじゃ。」
犬「かといって桃さんだって無理だろう。」
猿「いやいや、お前はあの人の強さを分かってないぜぇ。」

お爺さん宅。
婆「お爺さん?」
爺「なんじゃ。」
婆「なんですの?その赤ん坊は。」
爺「拾ったんじゃ。」
婆「『拾ったんじゃ。』じゃありませんよ。何してるんですか一体。」
爺「竹の中から出てきたんじゃ。珍しいじゃろう。」
婆「珍しいって、あなただって桃から出てきたんじゃありませんか。」
爺「そういえばそうじゃった。わっはっは。よし、この子は竹から生まれたから、竹太郎にしよう。」
婆「お爺さん、その子は女の子ですよ。」
爺「え?あ、ほんとじゃ。」

終わり。

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