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ドイツ歌曲講習会「ミルテの花」2022春 釣アンナ恵都子先生にインタビュー 「その2」

ドイツ歌曲講習会「ミルテの花」2022春では、ドイツ・ミュンヘン在住のオペラ演出家、釣アンナ恵都子先生を講師に迎え、歌曲集「ミルテの花」のレッスンを行います。

講習会事務局の惡澤が聞き手となり、釣先生にインタビューさせていただきました。

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(惡澤)-次の質問です。オペラというと大きくドイツ(ワーグナーなど)系、イタリア(ヴェルディなど)系に分かれるという認識です。釣先生はイタリアでなくドイツで最初の修行を始めましたが、ドイツ音楽やドイツオペラがお好きだったりするのでしょうか?
(釣)-ドイツの作品もイタリアの作品も、どちらも好きですよ。ただ住むなら、ドイツやオーストリアが好きですね。
(惡澤)-住みやすいからですか?
(釣)-時間なんかも正確だし、きちっとしているところが良いです。日本人的な生真面目さがあります。
ただ、最初にドイツに渡航をしたのは、オペラ演出を教える大学があったのが、ドイツ語圏にあった。それが一番の理由です。
ちなみにオペラの歴史を紐解くと、最初は演奏家(歌手)だけで始まり、座組みが大きくなったところから、みんなをまとめる指揮者が入り、全体を統括する演出家が入りました。日本の歌舞伎や能も演出家がいないですよね?オペラで演出家が必要になったのは、近代からです。イタリアは伝統的な、「ベルカント唱法」という発声法が有名ですが、つまり、オペラの中で声を最重要ポイントに置いています。そのためか、イタリア内には演出家を養成する学校がありません。逆にドイツのオペラは舞台全体を大事にするからか、演出法の研究等が盛んです。

(惡澤)-釣先生はドイツ→オーストリア→フランス→アメリカ合衆国、と世界を回って研鑽を積まれていますが、この経験からご自身の糧になっていることは何でしょう。
(釣)-全体的に柔軟な思考ができるようになったことですね。多方面から考える、視野が広がる。オーストリアの常識がフランスでは通じない、とかね。キャパが広がって、思考回路が柔らかくなり、人間性が深くなります。カルチャーショックを体いっぱい浴びることは、精神や身体的にも負担がかかります。 違う国に移住するたびに負担はかかるので、海外でも日本人コミュニティの中だけにいたいという人もいます。でも私としては、国ごとのカルチャーを浴びることが肥やしになっているんです。大変な分思考の体力がつくというか。
また、アメリカは日本やヨーロッパとちょっと別で・・・ヨーロッパは日本と似ているんですよ。日本だと「その国の人」と「そうじゃない人」ってはっきり分かれていて、長く住んでても変わらないですよね。文化や言葉、血・・日本もヨーロッパも国民や民族性に対してすごくこだわりがあると思います。
でもアメリカは移民の国。純粋なアメリカ人って、誰だと思います?かろうじてネイティブ・アメリカンがそうだとして、私の住んでいたニューヨークでも、元を辿るとフランス系、ドイツ系、アラブ系、アジア系...と移民です。全員がコミュニティを持っていて、全員が大きくくくって「アメリカ」。アメリカとはつまり、「アメリカというものは存在しない」ということだなと。

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(惡澤)-最近ではオンラインのレッスンに力を入れていらっしゃいますね。今回の「ミルテの花」もオンラインのレッスンから始まったものですが、マスタークラスの題材として、「ミルテの花」を取り上げたきっかけを教えてください。
(釣)-もともと私はオンラインで、最大5人の小さなグループレッスンをセミプライベートクラスという名前でやっています。そこでは最初は、オペラの演技を教える前の基礎講座として舞台での立ち方や作法、感情表現なんかに特化するクラスをやっていました。そのうち音楽を使うようになったのですが、でも実際のオペラのアリアをレッスンで取り上げたくても、その中で声種がソプラノやテノール、と色々な人がいるので共通で勉強できる作品を探すのがとても困難。・・・ということで、最初は受講生の母国語で勉強できる日本歌曲、それから比較的簡単なイタリア歌曲ときて、その次にドイツ歌曲へと進んで行きました。そして作品を探すうちに、生徒さんの何人かから「ミルテの花をコンサートで歌うので、教えてください。」とリクエストがあり、それでクラスで取り上げることにしました。やっていたらみんなが本当に楽しそうで、あれよあれよというまに、クラスで全曲通してやることになって。今もそのセミプライベートの方では、続けて勉強しています。
(惡澤)-大人気のクラスですね!
(釣)-「ミルテの花」のレッスンを続けていると、5人のクラス受講生の皆さんが、毎回音楽の新たな発見をして、成長していく姿が本当に楽しそうで。私自身も彼らと一緒に、シューマンの魂に触れる旅を一緒にしている感じで、とにかく楽しくて・・・これは5人だけでこの体験をしているのはもったいない、と思い、どうにかこの楽曲を勉強したいと思っていらっしゃる、たくさんの人にもこのクラスを届けたいと思いました。それで、舞台公演やワークショップの制作をしているJETに相談させていただき、大きい講習会をやろう、という話になりました。そうして、2022年1月にドイツ語発音、楽曲分析、マスタークラスという3本立てのクラスを企画し、オンラインのドイツ歌曲講習会という形で開催させていただきました。
(惡澤)-「ミルテの花」の歌曲集は全部で26曲あります。講習会では「ミルテの花」から数曲選んでマスタークラスをしていますが、セミプラベートクラスでは全曲勉強されているということですね?
(釣)-はい、歌曲集を全曲勉強することで見えてくるものがありますので、これも大切なことだと思っています。
(惡澤)-前回の講習会を終えられて、受講生・聴講生の皆さまのなんとも晴々とした笑顔のほか、釣先生もとても満ち足りたようなご様子が印象的でした。改めて、その時のお気持ちをお聞かせいただけますか?
(釣)-前回の講習会に限らず、いつものレッスンでも同じなんですが、生徒さんがお稽古で成長する姿を見させてもらったとき、至福の喜び、を感じるんです。どんなレベルの生徒でも、その方のレベルで、一つ成長した瞬間に立ち会えたとき、本当に教師冥利に尽きるというか、自分が生きている意味を感じられるというか、幸せの瞬間です。

(惡澤)-4月の講義に対して意気込みをお願いします。
(釣)-今度の講習会に向けて、先日ライプツィヒとツヴィッカウに行ってきました。どちらもシューマンゆかりの地で、そのエスプリを吸収してきました!ドイツ歌曲講習会では、その場所にまつわるクイズも出す予定です。
今はまだ、日本からドイツへの旅行は簡単ではないと思いますので、講習会ではドイツ現地からのホットな話題をたくさんお話しできればと思います。当日は日本では聞けないこと、細かな話をたくさんお伝えします!!現地では街を実際に歩いたり博物館でたくさんの資料を見たりして、「ああ、なるほど・・・」と感じたことがたくさんありました。シューマンの関連の本もたくさん買ってきたので、楽しみにしていただければと思います。日本にいらっしゃる方に、ドイツの風を送ろうと思います!
(惡澤)-ありがとうございます。楽しみにしています!

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*釣アンナ恵都子*


オペラ演出家、元指揮者& フルーティスト。
NHK BSに『夢の音楽堂 小澤征爾が誘うオペラの世界・ウィーン国立歌劇場バックステージツアー』などで度々出演。ドイツの名門、国立音楽大学ハンスアイスラー、及びウイーン国立音楽大学のオペラ演出学科に日本人として初めて入学。これまでウィーン国立歌劇場、ニューヨークメトロポリタン歌劇場、パリ太陽劇団などで研修を重ねる。
幼少の頃ころよりミュージカルやダンス、指揮、楽器演奏や声楽に親しんでいることを生かして、音楽を最大限生かし歌手の声に負担のかからない演技の指導をすることには定評があり、ドイツを中心に歌手のための演技指導にも活発に関わっている。2019年からバイエルン国立歌劇場に籍をおく。現在ミュンヘンを拠点に活躍中。
www.annaetsukotsuri.com

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*惡澤仁美*

舞台制作者。青山学院大学英米文学科卒。2016 年に渡米後、半年間インターンとしてバレエやステージショー、オペラ制作の現場に携わる。帰国後、総合舞台芸術カンパニーにて国際共同制作、TPAM フリンジ参加事業やシアターオリンピックス参加事業等、国境を越えた舞台制作に幅広く携わる。2018 年 12月、Japan Entertainment TOKYO を設立。クラシックからコンテンポラリーまで、音楽、演劇、舞踊、美術などあらゆるジャンルにおいて主催や制作協力を行いながら、舞台による国際共同の在り方について研究している。これまでに 舞台制作として携わった国は、タイ、マレーシア、インドネシア、インド、フランス、 ドイツ、アメリカ合衆国の 7か国。Photo by SHINGO Yoshizawa

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