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深海の魚も一度は熱帯魚の世界に憧れるなぁという話

 たまたまTVでみたNHKドキュメント72時間という番組で、新宿歌舞伎町にある24時間営業の碁会所の話をやっていた。プロアマ年齢国籍問わず囲碁の好きな人達が集まり、昼夜を問わず碁を打つ音が鳴り響いているんだと。しかも軽食メニューも居酒屋並みに豊富で皆ラーメンとか食べながら打ったりしている。満喫のような時間制料金のシステムらしくここを寝床にしている客もいて、お店の人が盆にのった朝食を提供している光景もみられる。

再放送だったので撮影当時は感染症の脅威もなかったのでお店はものすごく密だった。間取りは1LDKっぽくて、店自体が結構狭い。コンクリートの床に所狭しと碁盤とパイプ椅子が並べられ、部屋の隅にパソコンが一台(ネット対戦用)部屋の奥に小さな座敷がある(休憩スペースかな)部屋の中に小さなキッチンとカウンターがありそこから直接料理を提供している。

煙草の煙が充満し、碁を打つ音と人の話し声で常に賑わっている。私はああいった狭いアットホームな空間は苦手だ。常連が多い店は何となく独特の空気ができていてそれに馴染むにも苦労するし、他人以上友達未満みたいな関係の人ともどう喋っていいか分からない。一人で気楽に居座れるほどの余裕も持ち合わせていない。それならカフェの方がいい。ゆったりした空間で自分の世界に没頭できるし、コーヒーや美味しいケーキも楽しめる。夜はそこそこの時間に帰ってさっさと寝たほうが美容と健康に良い。

 

 それでもその碁会所には不思議な魅力があった。テレビなんてほとんど観ない私が気づいたら正座して最後まで観ていたほどだ。あの番組収録の後、碁会所は別の場所に移転し店は当時よりも広く、清潔感にあふれる場所になっていた。感染症対策がとられ、明るい陽射しが差し込む店内でのインタビュー映像を観ながら、私はなぜか旧館の方が頭から離れなかった。私がいつも行く小綺麗なカフェとは比べ物にならないくらい濃密な空間だということが画面越しから伝わってきた。人の数だけ物語があるというように、年季が入った床や壁、碁盤、全てに色濃く様々な物語がしみこんでいるように感じた。私はきっとあの古めかしい建物と人の活気のギャップにある種の趣き感じたんだと思う。新しくて綺麗な店内で大体はタブレットや最新テクノロジーでことたりる方がずっと魅力的だと思っていた自分には、そのような趣きを感じることがとても新鮮だったのでnoteに書き残すことにした。

 

 きっと私はあんな趣きのある場所には今後も行かず、ずっと広くて綺麗なカフェに一人で行き続けるだろうなと思う。魅力的なことと自分がその空間に居心地の良さを感じることは別だ。確かに数年前まではああいった世界に少し憧れがあって積極的に行こうとしていた時期もあったけれど、27にもなると自分が本当はどちら側の人間なのかが分かってしまった。画面越しにたまたま自分の住んでいる世界とは別の世界の映像を垣間見ただけで、やっぱり私の安息の場は自分の世界に籠れる場所なのだった。

 

 

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