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データドリブン経営の鍵を探る:国内成功企業のデータ文化構築事例

データは、現代ビジネスの新たな生命線です。しかし、生の状態のデータは原油をそのまま掘り起こしただけのようなものであり、そのままでは利用できません。それを価値ある形に精製し、適切に活用できる仕組みを整備する必要があります。

データドリブンな経営を実現するためには、データを解析し、意味深い情報に変換し、それを元に適切な決定を下せる体制を構築することが重要です。その際、「データ文化」が重要なキーワードになります。

データドリブン経営の鍵は「データ文化」

データ文化とは、データに基づいた意思決定を重視し、それを実践する組織文化のことを指します。この文化が浸透すると、組織全体でデータから得られる情報を共有し、統一された理解のもと、共通の目標に向けて行動することが可能になります。

しかし、データ文化を創り出すことは容易ではありません。これは大きなプロジェクトであり、その実現過程は「原油の精製」と同様、複雑で難しいものになるでしょう。

このように困難かつ重要な課題に挑戦するにあたっては、具体的な成功事例を知っておくことが非常に有益です。そこで今回は、データドリブン経営を実現している国内企業がどのようにデータ文化を培ってきたのか、3つの事例を紹介します。

ワークマン:トップ層が率先してデータ化推進。エクセル推奨で分析のハードルも下げる

ワークマンは、作業服やアウトドア用品の販売を手がける企業です。コロナ禍でも売上を落とすことなく急成長を続けるワークマンのデータドリブン経営は書籍にもなっており、有名な事例としてご存じの方も多いかもしれませんね。

実はワークマンは、2012年当時は「データ活用がほぼゼロ」で、「店舗にある商品の在庫数すら十分に把握できていないのが当たり前」という会社だったそうです。

そんな状態から現在のようなデータ文化を根付かせたのは、会社のトップ層でした。当時新しく常務取締役に就任した土屋氏が「データ経営」を方針として打ち立て、率先して在庫や取引を電子データ化し、データベースへと集約しました。

このように会社のトップが自らデータを重視する姿勢を見せた上で、全社員がデータスキルを獲得できるような教育を実施しています。まず導入したのは高度なデータ分析ツールではなく、表計算ソフトのExcel。VLOOKUPやSUMIFなど基本的な関数を中心に、ふだん店舗運営で使うような題材で研修を実施し、「データ分析」への心理的障壁を取り除きます。入社2年目の社員は研修の総まとめとして、実際の店舗の売上をデータで検証する業務を任されます。

またワークマンでは、会議の場でデータにもとづかない提案は「たとえ社長の提案であっても」通らないのだとか。このように徹底した仕組みづくりでデータ文化を浸透させたワークマン。いまや「社員全員Excel経営」を超えて、Pythonなどを活用した「社員全員データサイエンス経営」へと進化中のようです。

(出典)
酒井大輔『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』
ワークマンを支える「Excel経営」とは?土屋専務に聞く|クラウド・データセンター | NTTコミュニケーションズ
ワークマン「Excel経営」が超進化!次のデータ分析ツールに選んだのは? | 酒井真弓のDX最前線 | ダイヤモンド・オンライン

モノタロウ:膨大な社内データをオープンに。誰もがトライできる組織風土を活かす

モノタロウは、法人向けの間接資材(製品の原材料以外のすべて)を中心に扱うECサイト運営会社です。同社の扱う商品数は約1,900万点、ユーザー数は約700万以上にのぼり、もちろん社内には膨大なデータが蓄積されていきます。

同社には、データにもとづいて仮説を立て、どんどんトライしていける組織風土があるといいます。そして特筆すべきは、エンジニア以外の社員も日々の業務でデータを活用するのが普通であるという文化です。

そんなモノタロウのデータ文化を支えているのは、「社内のデータに誰でもいつでもアクセス可能」な環境です。商品情報、在庫情報のみならず、人事、会計、マーケティングなど社内のあらゆる領域のデータがGoogleのBigQuery(クラウド型データベース)に集約されています。これにより、どの部門でもデータにもとづいて業務を進めていくことが可能になっています。

もちろん、この環境は一朝一夕に構築されたものではありません。2010年頃までは社内の基幹システムから抽出したデータをExcelにまとめているような状態でしたが、まずはマーケティング部門が中心となって販促基盤とデータウェアハウスを構築、その後マーケティング部門にいたデータ分析人材が別部門に異動し、全社レベルでのデータ基盤構築を進めてきました。

勉強会、説明会の開催やSlackでのヘルプデスクチャネル開設などサポート体制も強化し、2021年時点では月に350人以上がデータ基盤を利用、270万以上のクエリが実行されていたとのこと。その後、SQLなどのスキルを問わずより多くの社員がデータを活用できる体制を目指し、Lookerを利用した全社統一データマートの構築など、さらなるデータマネジメントが進んでいます。

(出典)
技術力を強みに10年連続20%の成長。エンジニア・データサイエンティストがモノタロウを選ぶべき理由
コールセンターの担当者もSQLを叩く。モノタロウのデータドリブンな文化に惚れた
MonotaRO のデータ活用と基盤の過去、現在、未来
JDMC LT#1 - なぜモノタロウでデータマネジメントが必要になったのか

大阪ガス:失敗から学び見つけた理想のスタンス。現場で本当に役立つデータ分析を追求

大阪ガスは、ガス・エネルギー供給を中心に、多岐にわたる分野で事業を展開する企業です。幅広い事業分野でデータドリブンの意思決定を実践している同社ですが、現在のように現場で役立つデータ分析プロジェクトを遂行できるようになるまでには、いくつもの失敗があったといいます。

たとえば、ビジネス実装時に費用対効果が出せずに頓挫したり、ビジネスサイドで腹落ちする説明ができなかったために分析結果が使われなくなったり、意思決定者がいないまま話を進めた結果プロジェクトが遅延したり。失敗のたびにプロジェクトの実行プロセスを見直し、少しずつ成功率を高めてきたそうです。

同社の扱う業務には、熟練の担当者の経験と勘に頼った「職人技」的な業務もあり、数学的なアプローチだけではモデル化が難しいものもあります。逆に、一見簡単に分析できそうな案件であっても、現場の意思決定プロセスを詳しく理解して成果物を出さなければ、ビジネスに何の価値ももたらせないケースもあります。

そこで大阪ガスの分析チームが重視するのは、現場への理解です。目指しているのは分析の要求を鵜呑みにする単なる「分析屋」ではなく、現場の課題を理解して解決法を提案する「能動的なコンサルタント」の姿。「データ分析は、その成果がビジネスの現場で役立ってはじめて価値を生む」というスタンスをとり、何度も現場に通ってヒアリングやディスカッションを重ねるそうです。

同社では今、データに強い人材を増やすため、社員教育にも力を入れています。データ分析プロジェクトで共に成功体験を得たビジネスサイドの社員に、データリテラシー研修を実施しているとのこと。今後、組織全体でさらなるデータ活用が進んでいきそうです。

(出典)
河本 薫『最強のデータ分析組織 なぜ大阪ガスは成功したのか』
大阪ガスはいかにしてデータドリヴンな組織を作り上げたのか?データ活用成功の3ステップ | trocco®(トロッコ)
挑み続けて30年 ――DXの力で限界を超えるLNG(液化天然ガス)サプライチェーンの最適化を目指して… データ分析専門チーム・ビジネスアナリシスセンターの挑戦|Daigas STUDIO

まとめ

本記事では、データドリブン経営を実践しているワークマン、モノタロウ、大阪ガスの3社を例に、データ文化醸成の成功事例をご紹介しました。これらの企業は、データにもとづく意思決定を重視し、社内でデータを活用できる環境を整備しています。また、失敗を恐れず、その都度改善と教訓を得て、データドリブンな組織へと自社を進化させてきました。

こうした組織づくりは、データを活用して新たな価値を創出し、競争力を高めるために欠かせないものです。データ文化の醸成プロセスに「唯一の正解」はありませんが、成功事例から重要なポイントを見出すことは可能です。各企業の事例の中から、自社の組織づくりに活かせそうなヒントが見つかったら、ぜひ実践を検討してください。

もし、自社の状況にマッチしたデータ文化の醸成およびデータ活用に関する具体的な戦略が必要であれば、お気軽に弊社までお問い合わせください。弊社の専門家チームが、最適な解決策を提案し、データドリブン経営の推進をサポートいたします。

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