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子育て・保育 保育士の処遇改善を!【塩川鉄也の国会質問ピックアップ】

保育士の処遇改善を!

保育士の低賃金、長時間労働、重い業務負担は深刻です。
こうした下で、保育士不足も悪化し続けています。
それなのに、政府は、保育士の労働実態について調査も行っていません。
賃金は、いつまでに、いくら改善するのか。
保育士の処遇改善を求める質疑をまとめました。

まず、保育士不足がいかに深刻か、有効求人倍率で確認します。

◆年々悪化する保育士不足

2019年3月22日衆院内閣委員会より抜粋>
【塩川議員】

保育士不足の現状についてどのように受けとめておられるのか。保育士不足の現状認識について大臣にお尋ねをいたします。

【宮腰光寛少子化対策担当大臣】
全国的に保育士の有効求人倍率が高い水準で推移していると承知をいたしております。
直近の平成31年1月には、保育士の有効求人倍率が、全国で3.64倍東京都に限って申し上げれば6.71倍という状況にあります。

【塩川議員】
平成27年1月時点での有効求人倍率が2.18だったものが、今回3.64と、非常に大きくふえているということです。
一方で、求職者数を見ますと、2013年1月に1万205件だったのが、2018年1月では9007件と、0.88倍ということで、求職者数はこの間で減少している。

求人数は増えているのに、求職者数は減っている。こうした保育士不足の原因はどこにあるのでしょうか。

【塩川議員】
このような人手不足の要因は何なのか、この点はどのように分析しておられますか。

内閣府は
・賃金が希望と合わない
・就業時間が希望と合わない
・休暇が少ない、取りにくい
・健康や体力面で不安がある
などが背景にあるのではないかと答えました。

業務負担が多い中で、長時間労働業務が強いられる。それなのに低賃金。
では、保育士の賃金は、全産業の平均と比べてどのくらい低いのでしょうか。厚労省が実施している賃金構造基本統計調査を見てみるとー

◆全産業平均と比べて月10万円以上低い賃金

【塩川議員】
まず、賃金についてですけれども、保育士の賃金は全産業平均とどれだけのギャップがあるんでしょうか。

【小野田内閣府子ども・子育て本部統括官】
賃金構造基本統計調査によりますと、全産業と保育士の差は、基本給等の決まって支給する給与月額で2017年は10.4万円となってございます。

【塩川議員】
全産業平均と10万円の差がある保育士の賃金について、政府の施策として、どの程度の賃金水準にしていくつもりなんでしょうか。

【小野田内閣府子ども・子育て本部統括官】
全産業の賃金も見据えながら処遇改善を図っていくことが重要だと認識してございます。

【塩川議員】
では、いつまでに全産業平均にたどり着くような改善を行うのか。目標はあるんですか。

【小野田内閣府子ども・子育て本部統括官】
処遇改善につきまして、その目標や具体的な達成時期というのは定めておりませんけれども、他産業の労働者の賃金の状況も見ながら、また、安定的な財源も確保しながら進める必要があると考えております。

【塩川議員】
保育士の平均賃金を全職種と比較した年次の推移のグラフを見ると、平成22年で全職種と保育士の差が141.8万円なんですけれども、平成29年だと149万円というので、平成22年と29年の比較ではまだ差が開いている。もちろん、30、31と来ていますから、その数字の比較をするとまた違うのかもしれませんが、決して詰まっているという状況じゃない。現状の政府の処遇改善策が、保育士の低賃金を大幅に改善するものとはなっていないということです。

◆保育士の長時間・過密労働の実態

【塩川議員】
次に、業務負担の問題なんですけれども、保育士の時間外労働の実態というのは把握しておられるでしょうか。

【本多厚生労働省大臣官房審議官】
全産業を対象とした政府統計などはございますけれども、特に保育士に特化した調査というのはやっておりません。

【塩川議員】
今の保育士の働いておられる実態を正確に把握することでこそ適切な施策になるんじゃないのか。そういった実態調査がされていないというのは極めて残念であります。
そこで、私、御紹介をしたいのが、研究者の方などが昨年六月に取りまとめられた、愛知県における保育労働実態調査の内容であります。

[あいち保育労働実態調査プロジェクト]
調査期間:2017年11月~18年1月
対象:愛知県内の保育業務に従事者全体三万人の愛知県内の保育業務の従事者のうち、4331人から回答。

勤務時間前に時間外労働を行った:74.5%
業務内容:保育の準備、たまっている事務、保育室等の環境整備、掃除など

昼の休憩中に時間外労働を行った:79.6%
業務内容:お便り帳の記入、保育の記録、保育準備、片づけなど。

勤務時間後に時間外労働を行った:87.7%
業務内容:会議や打合せ、行事の準備、翌日以降の保育準備、保護者対応、保育室等の環境整備など。

持ち帰りで業務を行った:75.6%
業務内容:週や月単位の計画づくり、クラス便りや園便りを書くこと、翌日以降の保育準備など。

残業申請する習慣が職場にそもそもない:41.5%
業務上、必要な残業でも、申請できる業務とできない業務が決まっている:33.7%

【塩川議員】
労働時間管理がきちんと行われていないという実態が広範にあるということが浮き彫りになったということであります。
賃金について、不満や、やや不満と答えた人が63.2%だった。その理由として、仕事に見合った賃金でないということを挙げる人が72.7%、他産業、他職種に比べて低いを挙げる人が37.3%でしたが、残業代などが支払われていないというのを挙げる人も34.4%いて、超勤手当未払いが賃金に対する不満の主要な原因の一つとなっていることもわかったということなんです。
こういうリアルな実態を把握してこそ適切な対策が行えるんじゃないのかということを申し上げたいわけであります。こういった実態調査、これまでやっていないというんだったら、これからしっかりやったらどうですか。

【本多厚生労働省大臣官房審議官】
引き続き、指導監督の徹底を自治体に要請してまいりたいと思いますし、また、実態把握の方法についても、適切な方法で把握できるように考えてまいりたいと思います。

【塩川議員】
全体が見えるような、そういう調査をぜひやっていただきたい。愛知県の実態調査でも、保育士誰もが保育職場にやりがいを感じておられる。
しかし、仕事をやめたいという人も5.7%いて、続けるかどうか迷っているという人も24.9%で、3割の方が就業の継続が不透明だということになっているわけです。
大臣にお尋ねしますが、長時間過密労働や未払い賃金が就労継続の障害となって、保育士をやめる大きな要因となっているのではないのか、この点についての大臣の御認識を伺いたいと思います。

【宮腰大臣】
委員御指摘のとおり、保育士の方々の業務負担の軽減は大変重要な課題であると認識しております。高い使命感と希望を持って保育士という職についた方々に長く勤めていただけるよう、厚生労働省としっかり連携して取り組んでまいりたいと考えております。

【塩川議員】
政府がこの間行ってきたことは何なのか。現状の保育士配置を引き下げることで保育定員増に対処しようとしてきたんじゃないのか。
人員配置基準や面積基準について独自の上乗せ基準を実施する自治体に見直しを求める、そういう通知も出したり、政府の会議でもそういう議論を出してきている。そもそも国の基準が低いから、自治体が独自の上乗せ措置をやっているんです。それを下げてこういう待機児童解消に充てるというやり方そのものが間違っている。
保育士の処遇改善を本当に抜本的に行って、誇りに見合うような労働条件を確保する、これこそやるべきじゃないでしょうか。大臣、いかがですか。

【宮腰大臣】
あらゆる施策を総動員しながら、保育士さんの処遇の改善を通じて人材の確保等に努めていきたいなというふうに考えております。

保育士の処遇改善を!
公定価格によって生じる地域間格差の見直しを

◆東京と埼玉を例に

2015年からスタートした子ども・子育て支援新制度では、保育を受ける子ども一人当たりの月額経費を公定価格と呼んでいます。
この公定価格は、国家公務員の地域手当に準じた地域区分が設定されています。
しかし、この地域区分が実態に合っていないため、地域間格差が生じています。

20190327保育公定価格地図

こうした事態に埼玉県からは「近隣自治体と公定価格の乖離が著しい自治体においては特に、保育士の確保が更に困難となるおそれがある」との意見書が出されています。

2019年3月27日衆院内閣委員会質疑より抜粋>

【塩川議員】
公定価格の地域区分の問題について質問をいたします。
大臣にお尋ねいたしますが、近隣自治体と公定価格の乖離が著しい自治体においては保育士の確保が困難となる、こういう事態がある、そういう認識はお持ちでしょうか。

【宮腰少子化対策担当大臣】
地域区分について、自治体の皆様にさまざまな御意見があることも承知しております。先日、埼玉県の熊谷市長さんとも直接お会いをいたしまして、地域区分に関する御要望を伺ったところであります。何らかの基準が必要であるということで、一番公平なのは、公務員の地域区分というのを基準にしているものというふうに考えております。

【塩川議員】
資料をお配りしました。これは人事院の提出資料と内閣府の提出資料をもとに作成しました。
人事院にお尋ねしますが、先ほど熊谷市長のお話もありましたけれども、熊谷市というのは黄色で3%なんですよね、支給割合。その周りの深谷市とか行田市とか鴻巣市とか滑川町とかは6%、東松山市は12%なんです。このように熊谷は低い。これはどういう理由なのか。何で生活実感とかけ離れるような違いが出るんでしょうか。そのベースとなるような調査はどんなふうに行っているんですか。

【土田厚生労働省大臣官房政策立案総括審議官】
国家公務員の地域手当の支給割合は、厚生労働省の賃金構造基本統計調査を用いて算出いたしました賃金指数に基づいて、市町村ごとに支給割合を決定しているものでございます。
御指摘の市町村の地域ごとに差異が生じている理由ということでございますけれども、一般論としてお答えいたしますと、この統計調査におきまして、労働者の賃金を把握するためには、労働者を雇用している事業所を抽出いたしまして調査対象としているところでございまして、そういった性格上、当該地域に所在する調査対象となった事業所の賃金の高低差などが地域ごとの差異に反映されることになるのではないかというふうに想定されるところでございます。

【塩川議員】
事業所を抽出する、その事業所の賃金の高低差を反映すると。つまり、大手の大規模事業所があると高くなるわけです。それがない、あるいは卸とか小売中心のような産業構成のところは相対的に低く出る。
だから、熊谷市などはそういった傾向になって、一方で、狭山市はホンダの埼玉工場がありますので、これは五千人規模の事業所ですから、だから全体が高くなるんですよ。まさに、産業構成、産業構造を反映しているんです。
内閣府に伺うんですが、こういう地域の産業構造に伴う賃金の違いは保育士の賃金水準と関係ないんじゃないですか。

【小野田内閣府子ども・子育て本部統括官】
委員御指摘の地域区分につきましては、国として統一的かつ客観的なルールのもとで設定することが求められること等を踏まえまして、保育士につきましては国家公務員の地域区分等に準拠して設定しているものでございます。

【塩川議員】
地域手当に基づく保育士の地域区分はどのくらいの賃金差を生むのかを確認したい。
東京二十三区などを例に挙げられる20%地域(上記の地図では赤色の地域)の賃金は幾らで、川口市や戸田市などを例に挙げる6%地域(青色の地域)の賃金は幾らとなっているでしょうか。

【小野田内閣府子ども・子育て本部統括官】
平成29年度の幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査によりますと、私立認可保育所における常勤保育士の賞与込みの月収は、百分の二十地域で30万284円百分の六地域で26万6663円となってございます。

【塩川議員】
ですから、6%地域の川口市や戸田市に相当するようなところは26万6000円なんですよ。それが、荒川を渡って二十三区に入ると30万円になるんです。荒川を渡るだけで、3万3000円以上違うんです。川口駅で乗ったら隣はもう赤羽駅ですから。改めて大臣に伺いますけれども、こういった公定価格の地域間格差というのは、これは抜本的に是正が必要なんじゃないかと考えますが、いかがでしょうか。

【宮腰大臣】
大変難しい話であります。
地域ごとの民間給与の水準というのが、大企業が、大きな工場があればぱっと上がって、そうではなくて、中小企業や卸、小売主体だというところが余り上がらないという実態もあると思います。
ましてや、隣の町とランクが違うというのがやはりなかなか納得いかない部分もあると思いますが、基本はやはり、国家公務員の地域手当の区分に準拠という仕組みは、これはなかなか無視ができないのではないか。なかなか難しい問題でありますが、今後、この公定価格の検討に当たって、これは重要な問題でありますから、検討課題の一つとして、しっかり検討してまいりたいと思っております。

【塩川議員】
国の政策による保育士賃金の地域格差は見直すべきであります。
全体とすれば、そもそも待機児童解消のためには、保育士確保に大きな資源を投入する、抜本的に全体を底上げするということで、保育士確保を図る必要がある、労働条件の改善を図る必要があるということを申し上げておくものです。

まとめ

政府も、保育士の賃金改善に取り組んではいますが、全産業平均との月10万円の差はいまだ縮まっていません。
コロナ禍でも、保育を継続するために保育士の方たちの努力が続けられています。公定価格を見直し、全産業平均並みにするなど、高い専門性に見合った処遇を確保してこそ、子どもの健やかな発達と、働く保護者を支える保育制度が実現できるのではないでしょうか。
野党は共同で保育士の賃金を月額5万円上げる法案を提出しています。保育士の低すぎる配置基準の見直しと合わせて、安心して働き続けられる環境の整備を目指していきます。

公定価格の地域格差の質問では、与党議員からも「そうだ」との合いの手が入っていました。(めったにないことですが…)
宮腰大臣も答えていますが、大企業や大きな事業所があるところは高く、そうでないところは低くなるというやり方で公定価格に差をつける。
その結果、隣り合った自治体で、保育士の給与に数万円もの差が生まれている。それはおかしいでしょうと。これは広く共感できる内容ではないでしょうか。
宮腰大臣も「検討課題の一つとして、しっかり検討してまいりたいと思っております」と答弁しています。引き続き注視していきたいと思います。<スタッフ>

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