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学童保育、指導員の配置基準「参酌化」問題 指導員の処遇改善こそ【国会質問のピックアップ】

新型コロナウイルスの流行の波が繰り返し起きる下で、放課後児童クラブ(以下、学童保育)は、働く保護者をはじめ、保育を必要とする家庭とその子どもたちにとって、なくてはない社会基盤であることが広く認知されました。
現場では、指導員の方たちが、感染リスクと向かいながら、子どもたちに「日常の安心な時間」を届ける努力を続けています。
一方で、施設環境が不十分で密が避けられない、指導員の処遇が低すぎるなど、あまりに貧弱な制度の課題も浮き彫りになっています。

学童保育の社会的役割にふさわしい施設整備や職員の処遇改善が進まない最大の要因は、国が、公的制度として必要な最低基準すら設けないなど、国としての責任を放棄してきたことにあります。

全国学童保育連絡協議会による調査では、指導員の方の年収は、週20時間以上勤務する方に限定しても、150万円未満が約半数年収200万円未満が約6割と、多数がワーキングプア以下の劣悪な処遇であることが明らかになっています。(学童保育の詳細な実態調査(2018年5月1日))

学童保育指導員の処遇改善を!

一人一人の子どもの日常の安全を確保し、健やかな発達を支援する学童保育の指導員。厚労省はその専門性についてどう認識しているのか。確認します。

◆高い専門性が求められる指導員

2018年4月4日衆院内閣委員会質疑より抜粋>
【塩川議員】
学童保育の指導員の仕事というのは、子供を預かる教員や保育士と同様に、専門性を持った仕事であります。学童保育の職員は、そういった特別な専門性が求められているのではありませんか。

【成田厚生労働省大臣官房審議官】
放課後児童クラブ運営指針におきまして、放課後児童支援員は、豊かな人間性と倫理観を備え、常に自己研さんに励みながら必要な知識と技能を持って育成支援に当たる役割を担うとともに、関係機関と連携して子供にとって適切な養育環境が得られるよう支援する役割を担うと整理しているように、放課後児童支援員には放課後児童クラブを運営する上で必要となる専門性が必要であると認識しております。

【塩川議員】
答弁にありましたように、学童保育、やはり専門性が必要です。それにふさわしい処遇改善こそ求められているときです。

では、厚労省はどのような処遇改善策を実施しているのでしょうか。

厚労省は、以下の二つの支援策を実施しています。
「放課後児童支援員等処遇改善事業」と「放課後児童支援員キャリアアップ処遇改善事業」です。

「放課後児童支援員等処遇改善事業」は、午後6時30分以降も開所していることなどを条件に、指導員の賃金改善のための補助を出すもの。

「放課後児童支援員キャリアアップ処遇改善事業」は、一定の勤続年数を超えて働く指導員が、一定の研修を受けた場合に、月額約1~3万円の処遇改善を図るものです。

こうした制度はあるものの、その実施率は…。

◆国の支援策はあるものの、実施率は2割以下

【塩川議員】
学童保育について、特にその指導員の処遇改善の問題について質問をいたします。
私は埼玉の所沢が地元ですけれども、地元の学童保育の指導員の方が東京の方に行ってしまわれたということなんかも含めて、非常に確保をするのに苦労されているという話というのはたくさん耳にするわけであります。
学童保育について、多くの関係者の方々は、保育所並みの支援体制、これを実現をしてほしいということで繰り返し要望もされています。
厚労省の施策について幾つかお尋ねをいたします。放課後児童支援員等処遇改善事業の実施状況というのはどうなっているんでしょうか。

【成田厚生労働省大臣官房審議官】
平成29年度におきましては、297市区町村で実施しているところでございます。放課後児童クラブ実施自治体数が1619でございますので、18.3%となります。

【塩川議員】
まだ二割に及ばないという状況であります。
利用が進まないのはどういうことなのか、何かつかんでおられますか。

【成田厚生労働省大臣官房審議官】
平日18時半以降に開所しているクラブが全体の55%にとどまっていること、自治体内の他の職員との均衡を考えると児童クラブの職員のみを処遇改善することが難しいこと、自治体での予算措置が難しいことが考えられるところでございます。

【塩川議員】
この点をやはりどうするのかというのが問われてまいります。
もう一つお聞きしたい事業が放課後児童支援員キャリアアップ処遇改善事業ですけれども、実施状況はどうなっているでしょうか。

【成田厚生労働省大臣官房審議官】
平成29年度におきましては、213市区町村で実施しているところでございます。(実施率は)13.2%になります。

【塩川議員】
まだまだその数字が少ないというのは、どういう理由なんでしょうか。

【成田厚生労働省大臣官房審議官】
放課後児童支援員等処遇改善等事業と同様でございますけれども、自治体内での他の職員との均衡を考えると児童クラブの職員のみを処遇改善することが難しいこと、自治体内での予算措置が難しいこと等が考えられるところでございます。

【塩川議員】
埼玉の学童保育連絡協議会が行った自治体アンケート調査では、財政上の理由のほか、公立公営の学童保育の場合に、非常勤であるがためにそもそも昇給制度がないものだから、キャリアアップを使う余地がないという状況もあるんですよね。他の職員との均衡といっても、やはり非常勤の形態とかというのがネックになっているというのが前提だと思います。
答弁にありましたように、学童保育、やはり専門性が必要です。それにふさわしい処遇改善こそ求められているときで、大臣の立場から、市町村にぜひ、どういう働きかけができるのか考えていただいて、やっていただきたい。

【松山政司少子化担当大臣】
放課後児童クラブの質の向上を図る観点から、放課後児童支援員の処遇の改善は大変重要であると考えております。
今後とも、厚生労働省と連携しながら、あらゆる機会を捉えて市町村への働きをしっかり行ってまいりたいと思います。

【塩川議員】
市町村への補助率の引上げなど財政上の支援をとる、そういうことも含めて検討する必要があるのではないのかと率直に思いますが、いかがですか。

【小野田内閣府子ども・子育て本部統括官】
補助率のかさ上げというのがすぐにというわけにはなかなかいかない、いろいろな課題もありますけれども、いずれにしましても…。

【塩川議員】
大臣として、前に進めるということであれば、財政上の措置についてもぜひ具体的に検討いただきたいと思いますが、いかがですか。

【松山大臣】
御指摘のとおり、大変重要な課題だと思っておりますので、しっかり受けとめて、今後の検討課題とさせていただきます。

【塩川議員】
人手不足が本当に深刻なんですよ。それを本当に改善するとしたら処遇改善しかないわけで、専門性の発揮をする、それにふさわしいような労働条件を確保していく、そのためにも、市町村の背中を押すという点での財政措置についてもしっかりと対応していただくということを強く求めておくものであります。

学童保育の職員配置基準の「参酌化」

子どもたちの安全と質の高い学童保育を保障するため、指導員の配置は欠かせすことができないものです。
保護者と関係者の長年の運動によって、ようやく、2015年度から学童保育の設備運営基準が施行され、職員の複数配置と有資格者の配置が「従うべき基準」とされました。
しかし、政府与党は、わずか4年で「従うべき基準」を「参酌基準」に改悪してしまいます。
それも、学童保育制度を所管する厚労省で議論するのではなく、地方分権改革の中で、人手不足を理由とする一部の自治体からの意見を口実にして議論を進めたのです。
以下の質問は、2018年当時、政府が職員の配置基準の「参酌化」を検討する方針を示したときのものです。

2018年4月4日衆院内閣委員会質疑より抜粋>
【塩川議員】

学童保育において今重大な問題となっているのが、地方分権の改革の流れの中で、人員配置基準などについて見直しの話が出ているということであります。
閣議決定された文章の中にも、学童保育の指導員の配置基準について、現行は従うべき基準であるものを、参酌基準へと緩和することについて検討するとあります。
率直に言って、何でこんなことを今行うのか、おかしいじゃないかと思うわけであります。
厚労省としては、これはどのように受けとめておられますか。

【成田厚生労働省大臣官房審議官】
厚生労働省といたしましては、現在行っております放課後児童対策に関する専門委員会での放課後児童クラブの量の拡充、質の確保、役割とメニューの充実など、今後の対策についての御議論も踏まえ、引き続き、地方分権の議論の場での検討に適切に対応してまいりたいと考えております。

【塩川議員】
厚労省としては、この放課後児童支援員の職員数に関する従うべき基準は、子供の安全性の確保にとって不可欠な要件だと受けとめているのか、受けとめていないのか。

【成田厚生労働省大臣官房審議官】
閣議決定を受けまして、引き続き、地方分権の議論の場で検討されるということになっておりますので、厚生労働省といたしましても適切に対応してまいりたいと考えております。

【塩川議員】
子供の安全性の確保のため不可欠だという立場であることには変わりがないんですよね。もちろん、地方分権で議論はするんだけれども、厚労省の立場はそうだということでいいですか。

【成田政府参考人】
子供の安全性等、一定の質の担保を行うことは必要であると考えております。

前半の質問でも確認したことですが、厚労省としては、学童保育指導員には高い専門性が求められると考えているわけです。
学童保育の質を確保するために、職員をしっかり配置することが必要であるから「従うべき基準」とした。そして、不十分ではあるけれどもその推進のための支援策も行ってきた。保護者や関係者が運動で前進させ、積み上げてきた経過があって、厚労省もそこは認めている。
しかし、地方分権改革の中で、「参酌化」の方向が示されてしまったと。

【塩川議員】
厚労省でも、専門委員会でそういう議論をしているわけですよ。ですから、まさにそういった専門性を必要とする学童保育の指導員のあり方について、より専門性を発揮するような仕事としてどうしていくのかという議論を厚労省内で議論しているときに、地方分権などといって横から話を持ってくるというのは全く認められないという話であります。
本当に、保育の現場もそうですけれども、学童保育の現場でも、今詰め込みも重大になっているようなときに、その詰め込みの解消のための施設建設と、処遇改善につながる取組こそ求められているのに、職員の配置基準について、従うべき基準を参酌基準へと緩和するというのは断じて認められるものではありません。
松山大臣にお尋ねしますけれども、地方分権改革の中で、職員の配置基準について、従うべき基準を参酌基準へと緩和をする、こういうことについて検討するとなっているわけですけれども、大臣もお認めになっている、専門性に見合った処遇改善の取組に逆行するものと言わざるを得ないのが地方分権での議論ではありませんか。

【松山大臣少子化担当大臣】
厚労省が答弁したとおりに、この質の確保を図ることは極めて重要でありますので、私としてもしっかり取り組んでまいりたいと思います。

【塩川議員】
地方分権改革の議論が私はおかしいと思っているのは、国が地方を縛る、この国の地方への縛りを取り払うのが地方分権改革だというんですよ。
もちろん、そういう面もないとは言えない。しかし、この保育士の配置基準のような安全の問題、ふさわしい保育の内容を確保する、そういう基準を従うべき基準としているのは、何も国が地方を従えさせるためにやっているんじゃないんですよ。国が地方を縛っているんじゃないんです。これは、国民、住民、保護者が、まさに自分の子供たちのためにその安全をしっかりと守る、そのために従うべき基準としているわけで、国民、住民、保護者が国と地方自治体、行政を縛っているというのがこの基準なんですよ。
それを取り払うというのはとんでもない。国民の安全を損なうものを、そういう基準を取り払うというのは、地方分権改革の名のもとにやっていること自身が間違っているんですよ。こういう議論をしっかりしなくちゃいけない。
専門職にふさわしい処遇改善に取り組んでこそ、人手不足の解消につながりますし、学童保育の改善につながるということを改めて強調して、質問を終わります。

◆職員の配置基準の「参酌化」の影響

「従うべき基準」とされた職員の複数配置と有資格者の配置を「参酌基準」に改悪する地方分権一括法が2019年、与党の賛成多数で可決、成立しました。2020年4月からの施行によって、どのような影響が出ているのか、確認しました。

2021年4月9日衆院内閣委員会質疑のまとめ>
【塩川議員】

2019年と2020年において、まず放課後児童クラブの支援の単位数の全数が幾つか。そのうち放課後児童支援員数がゼロ名というクラブというのはあるのか。分かりますか。

【大坪厚生労働省大臣官房審議官】
令和元年クラブの数で2万5881か所、単位数で3万3090でございました。(放課後児童支援員数がゼロ名のクラブは)施行前はゼロか所ということになります。
令和2年7月現在クラブの数が2万6625か所、単位数で3万4577単位ということでございます。
放課後支援員の数が規模別にゼロであるところは、市町村の条例基準に基づく放課後児童支援員がゼロとなっている支援の単位数が711か所で全体の2%というふうに承知をしております。

【塩川議員】
全国で3万以上のクラブの単位がある中で、参酌基準の前の令和元年度においては、放課後児童支援員数がゼロというクラブの単位というのはゼロなんですよ。それが令和二年になると711ということになってきます。
実施規模で見ても、もちろん小さいところでもゼロというところはあるんですが、71人以上という大規模のクラブにおいても、放課後児童支援員数がゼロ名というところが33もあるんですよね。これは、子供の安全性確保に支障が生じるような事態が生まれているんじゃないでしょうか。

【大坪厚生労働省大臣官房審議官】
御指摘のとおり、令和2年4月1日から参酌基準ということにしておりますので、その段階で、これまでゼロであったところから、幾つかのところがそういった事案が生じているということは承知をしております。
地方が条例により定めているものではございますので、各自治体において、自治体の十分な責任と判断により、地域の実情に応じて適切な対応を取っていただくことが一義的には筋論でございますが、今回の調査結果を踏まえまして、事業をいかなる体制で運営する場合でも、やはり子供の安全の確保、こういったところに支障がないのかどうか、最大限留意するということが必要であるというふうに考えております。

【塩川議員】
実態は、71人以上のクラブでもゼロというところが33もあるんですよ。要は、児童が少ないところだけではなく、大規模クラブにおいてもこういうゼロという事態が生まれているんですよね。
参酌基準化によって、子供たちの安全を整える環境であるこの支援員の配置そのものが大きく後退している、この事態が、まさに危惧が指摘されていたことがそのまま現実のものとなっているということで、看過できない事態だ。こういう事態を改めるという立場で厚労省は対応すべきじゃありませんか。

【大坪厚生労働省大臣官房審議官】
安全性の確保、質の担保がなされているかどうかということを、市町村とも共に連携して、確認をしてまいりたいというふうに考えております。

【塩川議員】
実際に支援員の配置がかえって後退するという事態というのを放置することはできません。
今、坂本大臣は地方分権一括法の担当ですね。第九次の地方分権一括法で行われたのがこの参酌基準化なんですよ。こういう状況でいいのかというのが問われているんじゃないでしょうか。
この参酌基準化によって、緊急時の対応に困難が生じたり一人一人に丁寧な対応が困難となる、そういった支援員の配置が大きく後退をするという事態が全国で生まれている。このこと自身が大きな問題となっている。子供たちの様子を本当に理解することを困難にするような参酌基準化がもたらした支援員の配置の後退、これをつくった参酌基準はやめるべきじゃありませんか。
従うべき基準にしっかり戻していく、国として、こういった学童クラブにおける安全を確保するような対策をしっかり行う、参酌基準はやめるべきだということを大臣から是非取り組んでいただきたい。いかがですか

【坂本哲志少子化対策・地方創生担当大臣】
厚労省にいろいろ話を聞いてみたいというふうに思います。

まとめ

学童保育は、コロナの緊急事態宣言が出される中でも、政府の「原則開所」の方針のもと、子どもたちの「生活の場」を提供するために、感染リスクと向き合いながらの努力が続けられています。
指導員の方たちは、働く保護者の就労を支え、子どもの安全と発達を守る、社会に不可欠な役割を担っているエッセンシャルワーカーです。
それなのに、その指導員の方たちの多くが、年収200万円にも満たない処遇というのは、あまりに低い。

全国どこでも安心・安全な学童保育を。保護者や関係者の方たちの長年の運動によって、ようやく2015年から職員の配置基準が「従うべき基準」となりました。それに合わせるように厚労省も処遇改善の支援策をスタートさせました。

しかし、その「従うべき基準」を、保育の専門家がまったくいない地方分権改革の場で議論して「参酌基準」に改悪してしまう。これでは一人も指導員がいない学童保育が生まれかねないと、保護者と関係者が声をあげたのに、それを無視して押し通す。
そして、懸念の通り、2020年4月に施行されて以降、指導員が一人もいない施設が生じています。71人以上の大きな施設でも指導員ゼロが33もある。

政府与党は、子ども庁を作ると言っていますが、本当に子どもたちのことが大切ならこんな改悪はするなという気持ちです。

野党は、学童保育の指導員の給与を、月額5万円上げる法案を共同提出しています。
職員の複数体制、有資格者の配置を「従うべき基準」に戻し、指導員としての専門性に見合う処遇を保障できる制度の実現を。
<スタッフ>

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