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二つの「決める」 管理職に必要な「決断」 ~日経産業新聞 HRマネジメントを考える (2019.07)

日経産業新聞水曜日のリレー連載「HRマネジメントを考える」です。転職直後の7月に書いたものです。花田先生の教えをいただいて、いたるところで使わせていただいている「決める」についてです。新卒の会社説明会でもよく話しましたが、就活生にはかなり響くものがあるようです。生まれてはじめて本気で決断しなきゃならないことに対峙するのが就活かもしれませんから。

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日経産業新聞 HRマネジメントを考える (2019.07)*************************************
二つの「決める」 管理職に必要な「決断」
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私たちは日々のビジネス生活、そしてプライベートにおいても「決める」という行為を続けています。私たちが生きていくということは連続的に「決める」という行為をし続けることかもしれません。世の中には2つのまったく異なる決める方法があります。片方は「判断」、そしてもう1つは「決断」です。
判断は合理的な意思決定方法です。おおよそ正解が決まっている問いに対して、すばやく正確に結論を導き出す行為です。試験でマークシートの四択問題を解くのはまさに判断の連続です。
判断は決めるために必要な材料を十分に集めて、その材料から結論を見出せるだけの知識と論理的思考力があれば正答にたどり着けます。優秀な学生が基本知識を暗記すれば試験で高い点数をとれるわけです。
身近で実に適切な判断をしている例に、地図アプリや時刻表アプリがあります。すべての地図情報や時刻表情報をデータとして蓄えているため、瞬時に行きたいところまでの最適方法を私たちに教えてくれます。
その結果、私たちは地図や時刻表を見る能力をスマホに委ねつつあります。判断においてはコンピューターやAI(人工知能)にその機能を順次譲らざるを得ないのかもしれません。
これに対して、決断は答えが決まっていないことに対して、自らの頭で考え抜いて答えを出す決め方です。決断が求められる課題には唯一絶対の正解がありません。
自分のこれまでの経験や周囲のアドバイス、決断後の反応の推測と対応案の検討、最後には自らの直観まで含めて可能な限り多種多様な要素を総合して、最後は自分で決めるのが決断です。合理的に思考していくだけでは立ち行かないのが決断です。
担当者クラスで「あいつはできるね」「あいつは仕事が早いね」といわれる人は高い判断力が備わっている人です。継続的に良い判断ができれば、担当者としての業績は上がります。そんな優れた人はいずれマネージャーになっていきます。
マネージャーになっても優れた判断は重要です。しかし、より求められるのは決断タイプの決め方です。今のビジネス界にはもはや正解など無いのです。
ただ、現在のマネージャー世代はこのような決断に慣れていません。正解に速くたどりつける人こそが優秀だという教育を受けてきたからです。ずっと徹底的に判断力を磨くトレーニングをしてきたわけです。
かくして重要事項を決められず、マネージャーとしての機能不全が起こります。こういった人がさらに経営者にまでなると組織は悲劇に見舞われます。
ただ、決められないマネージャーにも情状酌量の余地はあります。多くの日本企業で決裁権限が曖昧になっていることです。規程上は自らが決められるのに、上司をそんたくして根回しが求められたり、社内スタンプラリー的な稟議が必要だったりと、現実には自分の決められる範囲が不明確になっています。
権限があまり委譲されておらず、上位者に権限が集中し、管理職といえども実質的に何も決められないという嘆きも聞きます。
一方で決定権が自分にあるのに、習慣的に上司にお伺いを立てる管理職もいます。権限移譲ならぬ権限献上です。自らの権限を献上してしまいたくなるくらい、決断は重く難しいということかもしれません。

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