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ゆるやかなコミュニティの創出-都市型水族館への挑戦 #01

皆さん、こんにちは!
JCEL株式会社 代表の三坂です。

前回の私の記事では、「記念すべき"悪夢の一日"-遂に迎えた新江ノ島水族館オープンの日」と題して、新江ノ島水族館開業の日を振り返りました。

まだご覧になっていない方は、前回の記事も併せてご覧ください!

開業して生まれた新たな疑問

怒涛の開業を乗り越えた新江ノ島水族館はその後も順調に集客を伸ばしていき、あれほど集客を心配していたにも拘らず私の関心はやがて集客(=売上)ではなく「水族館の本質」へと移行していきました。

「水族館に来る目的な何だろう?」
「何を楽しみに水族館に足を運ぶのだろう?」

そんな基本的な疑問を解決するために来館者へのアンケートなるものを実施するも、
「イルカが可愛いから」
「魚が好きだから」
「癒されるから」
等の想定内の回答しか得られませんでした。

開業から程なく、GW、そして夏休みと水族館の繁忙期が続き館内は更に熱気を帯びていきました。我々は来る日も来る日もごった返す館内のオペレーションに奔走していました。

コミュニケーションが生まれる瞬間

そんな夏休みも終盤を迎えたある日、小学校高学年くらいの女の子とそのお父さんの親子連れが水族館に向かってくるのに目が留まりました。

娘さんがちょっとお年頃ということもあって親子は水族館への道中で一言も会話を交わさないままエントランスへと入っていく(当時、私にも同じくらいの娘が居たので「その感じ」は良くわかった…)。

悪趣味だと思いながらも私は親子の後ろを追いかけて様子を伺っていました。

水族館の館内に入っても一向に会話は無い。
しばらく幾多の水槽を眺めながら進んで行くもまったく無言。

やがて、大水槽の前に到着した親子は暫く並んで眺めていたのだが、1000匹のイワシの群れが大きな魚に追われて一斉に体を翻した姿が照明に照らされ美しく輝いた瞬間、思わず女の子がお父さんに向かって「綺麗!」と声を発しました。

その後は堰を切ったように女の子はお父さんに向かって話し続け、親子は次の水槽へと消えていきました。

水族館が担う、「コミュニティの創出」とは

「大水槽はコミュニケーションを誘発するんだなぁ」

そんな目で館内を眺めてみる。

イルカプールでのショープログラムの最中、イルカのジャンプや愛らしい仕草に見ず知らずのお隣の席の人と思わず会釈したり、皆で拍手や手拍子で会場が一体化したりとある種の「コミュニティ」が発生しているように思えてきました。

共通の体験価値がもたらすコミュニティの創出とでも言うのでしょうか。

しかもそのコミュニティはとてもゆるやかで優しい感覚。

いわゆるコミュニティは「共同体意識を持って共同生活する集団(地域)」を指すので、そこでは「長」が集団を仕切ってルールを形成し順守させるイメージがありますが、水族館で発生しているそれは「長」も「ルール」も無く、共通の価値観がニュートラルに繋がる感じです。

もちろん水族館に来館されている人同士はお互いの名前も素性も知らないわけですが、ここにいる時だけは「水」や「いきもの」達の力を借りて共通の体験価値を享受できる共同体となり得るわけです。

もしかすると水族館の本当の魅力は「水やいきものの力によるゆるやかなコミュニティの創出」なのかもしれないと。

そうなると新しい水族館の姿がはっきりと見えてきました。

「ゆるやかなコミュニティ」を欲しているマーケットに水族館を提供する!
これを私の次のミッションに据えました。


JCEL株式会社 代表取締役 三坂伸也

三坂伸也の略歴

一級建築士

早稲田大学理工学部を卒業。
1985年大成建設(株)入社。
1989年オリックス(株)入社。

オリックス不動産(株)水族館事業部長、オリックス水族館(株)常務執行役員を経て、2014年12月オリックス水族館(株)代表取締役に就任。

京都水族館(京都市下京区)、すみだ水族館(東京都墨田区)の開発・運営責任者として陣頭指揮を執る。

2019年 2月JCEL(株)設立、代表取締役社長に就任
JCEL株式会社
国内で常に新たな水族館の形に挑戦をしてきた三坂伸也が代表を務めるJCEL株式会社。満を持して海外へ進出、「水族館の公園化」