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20歳樹木オタクの、ひとり演習林

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執筆者 三浦夕昇 樹木がとにかく好きな20歳。 日本の樹木や、森のことを、写真と共にゆる〜く解説。森の中を散歩するような気持ちで、お気軽にお立ち寄りください。個性豊かな樹木達が、…
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#樹木

”動く樹木”の人生観 〜先駆樹種たちの猛攻〜

小学生のころ、近所にやたらと草ボーボーな公園がありました。そこのブッシュの茂り具合は凄まじく、グラウンドの大半は高さ1mほどのイネ科の雑草に覆われていました。その公園の何がヤバいって、雑草に混じって樹も育っていたところ。グラウンドも、いずれは森に還るんだなあ…と、子供心に植生遷移の偉大さを感じていたのです。 遊び場の草原 僕は野生児だったので、草ボーボーの公園で遊ぶのが好きでした。友達と草原の中をチャリンコで疾走したり、若木を伐って秘密基地を作ったり…。そのライフスタイル

樹木図鑑その⑨ トチノキ〜強面なヤツほど、実は優しいのかもしれない〜

高校1年生のころ、ぼくは樹木を種子から育てること(実生育成)にハマっていました。あれだけの大きさに育つ樹木も、一番最初は小さな種子から始まります。それを土に埋めると、翌年の春に小指よりも短い芽がでてきて、ゆっくりゆっくりと葉の数を増やしていくのです。「ここから、恰幅のある幹が生成され、高さ30m以上の巨大な生命体が出来上がるのか……」そう考えると、なんだかしっくりこない感じもする。 自分よりも遥かに大きく育ち、長く生きる奴らの、人生のスタートに立ち合っている。そのロマンこそ

ハンディを抱えた樹木たちの、華麗なドレスアップ 〜板根が見たい‼︎〜

板のような根と書いて「板根」。 鼻濁音で始まるせいか、この言葉にはどこか仰々しい響きがある。子供の頃、植物図鑑で「バンコン」という用語に初めて出会った時、「なんかよく分かんないけど、スゲ〜」と思った記憶があります。 その図鑑には、マレーシアのラワンの板根の写真が載っていて、それにはもっと驚かされました。なんじゃこりゃあ。 人の背丈より高いところで、幹と根っこが接続して、でっかいスカートが出来上がってる……。言葉の響きに釣り合う、奇しい樹姿。未知なる異形の樹木に、どうしようも

樹木図鑑 その④ カシワ 〜日本の食糧庫を守る、愛想の良い格闘家〜

ここは北海道の日高地方。サラブレッドの一大産地として名高い地域です。周囲の平原に広がっているのは、とうきび畑と牧草地。アメリカ映画のワンシーンに出てきそうな、広々とした景色……。日高特有の冷たい海風が、時折自分とすれ違い、涼気を置いていってくれます。それゆえ、真夏でも気温は20度前後。 遠近感が狂うほどの、広大な牧草の海。その沖合には、長大な”緑色の帯”が横たわっています。こっから見ると島のように見える…。「防風林」です。 日高に吹き付ける冷たい海風は、歩きながら感じる分に

樹木図鑑 その③ クヌギ ~人類の特権をバックアップしてくれる樹~

1960年代に燃料革命が起こるまで、日本では長らく薪が主要エネルギー源として用いられてきました。 火は、ヒトという生物の繁栄の土台です。そして、樹は一番身近で、しかも大量にある有機物。日本人のみならず、人類全体の文明生活は、数千年にわたって樹によって下支えされてきたのです。 植生豊かな日本列島には、数多の樹種が生育していますが、その中でも特に人々の日常生活への貢献度が高かった樹は何か?となると、クヌギが最有力候補になると思います。 クヌギは、一言で言い表すならば「キングオ

清流には、森が溶けている ~四万十川の森紀行~ その②

その①から続く 市ノ又の森 天然のヒノキ林が見られるという市ノ又風景林は、四万十川の支流・葛籠川(つづらがわ)の源頭部に広がっています。原生的な森あるあるですが、まあアクセスは悪い。 葛籠川の延長は約10km。川沿いの狭い林道を走り、森の入り口までアクセスするのですが、川の湾曲をなぞるようにして道がカーブを繰り返すため、次第に方向感覚が鈍ってきます。自分はいま、東西南北どの方面に向かって走っているんだ…。何回カーブを曲がっても、同じような山並みしか現れないので、「現在地

清流には、森が溶けている ~四万十川の森紀行~ その①

中学3年生のとき、「四万十川・あつよしの夏」という小説が大好きでした。高知県西土佐村出身の笹山久三さんが、郵便局に勤める傍ら書いた物語で、名前の通り舞台は四万十川流域。小学校3年生の主人公・篤義(あつよし)が、四万十川の大自然に抱かれながら逞しく成長していく姿を追った大河小説です。 この小説の中には、四万十の人々の生活・風景・自然に関する描写が散りばめられています。それらを読み味わって、四国の大自然の中での暮らしを追体験するのがとてつもなく楽しかったのです。 四万十川と聞

樹木図鑑 その② ヤエヤマヤシ ~誰かにとっての”世界一”は、本当に”世界一”なんだ~

ヤシという植物は、何かと特殊なヤツです。 ヤシ科の植物は、主に熱帯を中心に分布しており、全世界で約1500種存在するとされています(研究者による見解の差あり)。 日本では、比較的寒さに強いワシントンヤシ(北米原産)、カナリーヤシ(カナリア諸島原産)、ビロウ(日本原産)等が関東以西の暖地で街路樹として用いられているため、目にする頻度は結構高い。”ヤシ”という植物の独特なフォルムに、馴染みのある方も多いと思います。 多くのヤシは、かなりの樹高まで育ち(一部の種は30mを超える

四国の端っこ、秘境の森紀行 その②  ~年表の外側で出来上がった人工林~

その①から続く… 怪しげな森 さて、千本山の森に滞在すること数時間。居心地が良すぎて、時間がどんどん過ぎてゆきました。 午前中に入山したはずなのに、気づけばもう夕方。そろそろ車に戻ろう…。そう思って山を降り始めると、周囲の森の雰囲気が一変しました。 なんというか、森が一気に暗くなった。まだ15時台のはずなのに、林内は薄暮時のような薄暗さです。午前中の明るみは嘘のように消え失せ、不気味な空気が漂います。 この不穏な空気を作り出した犯人は、林床に茂る照葉樹たちでしょう。

四国の端っこ、秘境の森紀行 その①  ~深山と深海が出会い、美林を産む〜

森歩きを趣味にしていると、旅行の目的地は自ずと辺鄙な場所になります。歩いていて楽しい、原生的な天然林は、多くの場合人里離れた奥地にしか残っていないからです。 普通の人はまず行かないような、秘境じみた場所に突入することもしばしば。東北や信越の深山で、ブナ天然林を見に行くために激狭林道を延々と運転したり、青森ヒバの森に行くために、未舗装の県道にコンパクトカーでアタックしたり…。旅先で樹木に振り回されると、旅行が冒険に様変わりするのです。ああ悲惨……(笑)。 こんな感じで、森に

樹木図鑑 その① ヤチダモ ~王貞治の戦友の華々しい経歴~

夏の円山原始林(北海道札幌市)を歩いていたときのこと。突然、緑色の小さなプロペラの大群が、くるくる回転しながら空から降りてきて、目の前に着地しました。プロペラの大きさは、指の第一関節ぐらい。ですから、よーく目を凝らさないと、プロペラの動きをはっきりと視認することはできません。 このプロペラはどこから来たんだろう。疑問に思って、森の天井を仰ぎ見ると、そこにはスッと幹を伸ばしたイケメンの大木が。 ああ、犯人はこいつか。 どうやらプロペラの出発点は、今回の主役「ヤチダモ」の枝だっ

トロピカル樹種旅行記~関西で一番、熱帯に近い場所~

「お前が留学に行く前に、みんなで沖縄旅行に行こうぜ」という誘いが高校時代の友達から来たのは、今年3月のこと。めっちゃいいやん。ワクワクした気持ちが昂ってきたぁ! 沖縄は、未知の亜熱帯樹種の宝庫です。街路樹にはトックリヤシやホウオウボク、海沿いにはアダンやマングローブ、サキシマスオウの板根なんかも良いなあ。もちろんその旅行は、植物にさほど興味がない友達と行くので、長い時間を樹木に捧げることはできませんが、それでも寄り道先や、宿の周辺とかでちょこっと樹木観察をすることはできるは

森歩きの楽しみ

こんにちは。今回から日本花卉生産株式会社のnoteアカウントで樹木に関する記事を書かせていただくことになった、三浦 夕昇(みうら ゆうひ)と言います。樹木に10代の大半の時間を吸い取られてしまった19歳です。現在は、ニュージーランドの学校で環境学を学んでいます。よろしくお願いいたします。 初回の記事では、「森歩き」の魅力について、書いていこうと思います。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー