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エセエッセイ|祖母と冷やし中華

今日、母方の祖母が我が家を訪ねてきた。本当は昨日来る予定だったのだ。倒れていたら困るので母が電話すると、クンシランの株分けをしていたらすっかり忘れてしまったらしい。明日から両親は泊まりの予定があり、我が家に来るのはまた日を改めてという話になった。

しかし、祖母は今日やってきた。私は父と昼食に冷やし中華を食べようとしていて、鳴ったインターホンの画面に映った祖母にびっくりした。鍵をあけて招き入れる。元々2人分だった冷やし中華は父が私と祖母で食べなと言ってくれたので、父には申し訳ないが私は先に食べ始めた。祖母は私が食べるところをじっと見ると、「もしかして、緑のは、きゅうりだろっか」と言った。もしかしなくともきゅうりである。冷やし中華の具材は薄焼き卵、ハム、みょうが、そしてきゅうりだ。よく冷えてうまい。

祖母はきゅうりが食べられない。瓜科のものはとにかくダメで、取り除いたとしても僅かに残る風味すら感じとり受け付けないらしい。祖母のきゅうり嫌いは家族の中では周知の事実で、もちろん私も父も知っていた。突然の来訪、食べる直前、一食分足りない、しかも父はそのあとすぐ外出予定。すっかり失念していた。

すでに麺の上に着地してしまったきゅうり。祖母は出来上がった冷やし中華を食べることができない。父が代わりに食べ、祖母には焼きそばを。申し訳ないと言いつつ美味しそうに平らげていた。

母はパートに行っていて、今日だけ少し長めの勤務時間だった。昨日はパート休みで祖母が訪ねてくるのを待っていた。だが祖母はクンシランの世話で予定を失念していた為、来るはずの客人はこず、来るとも来ないともつかない心持ちで1日を過ごしたことで、せっかくの休みが無駄になったなと言った。

母がパートから帰る前に祖母が来ているとLINEしておく。昨日祖母に生存確認を兼ねたお伺いの電話をかけたとき、明日は忙しいから勘弁してと言っていたので、疲れて帰ってきた後に想定外の人物がいると、本来の来てくれて嬉しい気持ち<え、なんで、今日くるの?昨日の電話でまた日を改めてという話になったよね?別にいつ来てもいいけど今日は違わん?となる。

玄関付近の植木の様子を祖母と見ていた時、母が帰ってきた。買ってきたものを出しつつ私と目が合う。への字口になっている。時間は午後2時を回っており、母はお茶漬けを食べる。祖母といえどお客である。絶妙に落ち着かない空気感で私は2つ3つ対応を間違えた。こういう状況だったら自分の役回り的にこのように振る舞うべし、という動きから外れてしまうとなんともいえない気持ちになる。

空腹だった胃袋が満たされると私たちはいつもの調子で喋り始める。ちょっとだけざらつく空気は晴れていき、取り留めのない話は続いた。祖母は夕飯を一緒に食べ、私の運転で帰宅した。

祖母は元々ちゃきちゃきした性格で好奇心旺盛な元気な人だ。でもやっぱり高齢なこともあり、噛み合わないこともある。それでも一緒に過ごすのは楽しいし、腹を抱えて笑い転げるような話や初めて聞く衝撃のエピソードまで出てきて、良い日だったと締めくくることのできる日だった。

想定外の来訪で最初は面食らうけど、家族だし、特別丁寧なおもてなしが必要というわけでもない。
いつも通りのご飯とおしゃべりをするだけでいいのだ。おばあちゃん。また来てね。

2024/06/06

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