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城山真一著 『看守の流儀』 について

一言でいえば読み応えがあり。
謎解きあり、人間ドラマあり、それが秀逸なのが「ガラ受け」だろう。

 第四話は「ガラ受け」という題。


「ガラ受け」とは、身柄を引き受ける家族や親族がいれば受刑者の仮出所が認められる制度の、【身柄引き受け人】という制度の名の略称を指す。
 私は保護司を務めて久しい。刑に復した人の家族の思いを聞き取りしたり、現在の生活環境を調査し報告する事で、服役している受刑者が刑務所から出所出来るかを判断する調査をすべく、保護司が行う調査を【環境調整】といい、その身柄引き受け人の略称が「ガラ受け」という。
 その「ガラ受け」の身柄引き受け人が居なければ、受刑者は仮出所に至らないケースもあり、服役している受刑者にとっては、家族がどんな想いで犯罪者の家族として生活してきたかが分かる、ひとつのバロメーターともなる。

 主役は一話に出てきた刑務官の西門で、彼は自らの監視不足で、担当の受刑者・蛭川が自死してしまったことを悔やんでいて、眠れない日々を送っている。そのため、彼は、現在の受け持ちの貝原という服役者が、膵臓癌で余命3ヶ月と宣告されるの知るや、刑の執行停止の制度を活用し、ガラ受けさせることで、自らの担当者を死なせたという罪からの贖罪とすることを決意し、刑の執行停止に動く話である。
 服役している受刑者の貝原の罪は、不倫現場を目撃され、脅しを掛けてきた男を突き飛ばした結果、相手が車に轢かれた事故で死んでしまったという罪で過失致死にあたる。貝原は真面目で優秀な研究者という一面もある職人気質の町工場の元社長だった。
 「ガラ受け」に奔走する刑務官の西門だが、過去に数例しか無い【刑の執行停止】という制度を受けてもらうべく、家族に会いに行くのだが、頑なに殻に閉じこもる元妻の表情は固い。その後、刑の執行停止の話は頓挫し、悶々として過ごす刑務官の心情をつぶさに描く書き方で、刑務官の不安や、やり切れない想いを描く話として仕立てられている。
 取り付く島の無い受刑者の元妻と娘とが持つ、家族の抱える秘密とは何なのかを、少しずつ少しづつ、貝原の心情とともに、一緒に解きほぐすという二つの側面を持つ筋立てとなっており、読者を引き込むように、事件と、残された家族の心情とが絡む仕掛けが実に憎くたらしい。
 複雑な人間関係は分かりやすく、物語に引き込まれてしまった私は、カフェという事を忘れ不覚にも読了前に涙したほど。
 上司の火石は鋭い観察眼や大胆な行動をとって西門をサポートしてくれ、医務室の医官の木林や美里も実に良い仕事をする。

 肝心の秘密は、貝原の服役の罪のきっかけとなった不倫事件の真相にあり、実は彼が会っていた若い女性は不◯相手では◯く、貝原の義父の◯●◯だったのだ。
 彼は妻と娘の身持ちを考え、それを墓場まで持っていこうとするが、火石の考えも付かぬ一案は功を奏すのか、秘密は家族の知る事になるのか、家族と和解する事が叶うか否か。最後まで文章から目が離せない小説だ。

一読に値する小説と確信する次第。

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