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新宿の老舗ジャズクラブで働く音楽家が考えるジャズの未来とは。

JAZZ SUMMIT TOKYO オリジナル企画
「サスティナブルジャズ」

第2回目のゲストは、音楽家の本藤美咲さん。即興演奏と作曲・編曲活動を中心に幅広く活躍する一方で、老舗ジャズライブハウスの店員としても働いている彼女。今後、ジャズをより発展させ、人々にとって身近なものにするために、今考えていることを聞いてみた。

ゲスト:本藤美咲(もとふじみさき)
1992年 12月生まれ。音楽家。
即興演奏と作編曲の二極を基盤とし、多分野のアーティストと共演・共同制作を重ねながら日々触手を伸ばしている。
『galajapolymo』主宰。『Tokyo sound-painting』、『SAX CATS』、『Jongdari13』『hikaru yamada and metal casting jazz ensemble』などに所属。
専門誌「Sax World」でのコラム連載、広告映像などメディアへの音楽作品提供、レコーディング参加、ワークショップなどのイベント企画、講師活動などを通じて音楽文化の振興に注力している。
https://www.misaxophone.me/

モデレーター:中山拓海(なかやまたくみ)
2017年12月CD"たくみの悪巧み"でキングインターナショナルよりメジャーデビュー。2015年同世代のミュージシャンと共に「JAZZ SUMMIT TOKYO」を結成後、様々なイベントを企画運営。2021年に株式会社化
し、現在は高品質な動画配信サービスとして『JAZZ SUMMIT TOKYO PREMIUM』を運営している。

JAZZ SUMMIT TOKYO 公式webサイト
https://www.jazzsummit.tokyo/
動画配信サービス『JAZZ SUMMIT TOKYO PREMIUM』
https://www.jazzsummit.tokyo/premium

左 本藤美咲 右 中山拓海

お客様、ミュージシャン、お店。
三者にとって幸せなジャズクラブにするために。

中山 美咲ちゃんはピットイン(新宿の老舗ジャズクラブ)で働かれていて、ミュージシャンとお店側の両方の目線からお話をお伺いできるのではと思います。僕は、JAZZ SUMMIT TOKYOをやる中で、次に誰に出てもらおうか考えますが、そういうブッキングってとても難しいですよね。ブッキングの極意を教えてもらえませんか?

本藤 私もまだまだ新米ですが、やっぱり悩みが多くて。自分が出演するわけではないから、自分で責任を回収できないよね。お客様、ミュージシャン、お店。どれかが我慢するのではなく、みんなが気持ちよく、幸せになるようなブッキングができたらと思うな。

中山 三者が気持ちよくなる為にはどうしたら良いのでしょう?

本藤 そこはずっと悩んでいて。心地良くなる為には、お店のサイズやチャージの価格帯とか、それぞれに「ちょうど良さ」があると思うの。例えば、Blue Noteでやるのと街の小さなライブハウスでやるのとでは違っていて、それぞれのお店の中で心地良さがある。30人入るお店に70人お客さんが入ったらお店は嬉しいけど、お客さんは?ってなるよね。お客さんが単にたくさん来れば良いという訳ではなく、その土地やお店に合っているかが大事なんじゃないかな。

中山 それぞれのお店のブランディングだよね。場の空気と音楽は密接に関わっていて、「こういう音楽だからこういう空間」っていうのはある。お酒の提供や営業時間もそうで、それぞれのアンテナに対してそれぞれの人が集まるよね。

開店から60年以上の歴史を持つジャズクラブ、新宿ピットイン。

ジャズを発展させるために、ジャズのコミュニティをかき回したい。

本藤 逆に、ジャズクラブのコミュニティって既に出来上がっているよね。この先何十年と続けていく、できれば発展させていくということを考えた時に、それぞれ新しい出入りがあれば良いと思うことはあって。「ここにこの人出るんだ!」って初めてのお客さんが来たりとか、かき回したい思いがあるんだよね。(笑) こんな若造で偉そうなことは言えないし、失礼に当たらないか気になるけど、例えば、東京だと東と西でぱっくり分かれていると感じる時もあって。どっちも出る人って少ないよね。

中山 コミュニティも関係あるよね。ジャズ以外のコミュニティを近所で展開されている方が多いから。そういった意味だと、ピットインも配信をやって物理的な距離が無くなったよね。地方の方や海外の方に発信できるようになった。どんどん配信クオリティも上がっていて素晴らしいと思う。僕も勉強させていただきたい。

本藤 そういう技術的なことも横の繋がりだと思うな。

中山 僕も、そういう会をやりたいんだよね。配信をどうすれば良いか悩んでいる方っていると思うから。配信の仕方、カメラ、アングルの変え方、最低限の前置きとか、話していきたいな。

ゲスト参加のジャズサックスカルテットSAX CATSによる映像がYoutubeにて視聴できる。
現代の発信方法を活かし、見て楽しめる音楽となっている

サブスク時代におけるライブミュージックの素晴らしさ。

中山 さて、もう一つ聞いてみたいと思っていたんだけど、美咲ちゃんは最初はクラシックから始めたんだよね。吹奏楽からサックスを始めて、そこからジャズを経て、即興演奏やプロデュースなど幅広くご活躍ですが、今はジャズミュージシャン?

本藤 そうですね、元々ビバップはできる気がしなくて。最近、インプロビゼーション(即興演奏)を中心にやるけど、それってすごくパーソナルな音楽じゃないですか。自分を作るのではなく、ありのままの自分をさらけ出す以外にやりようがない音楽。だからこそ、その人のパーソナリティが出るから、聴くのもやるのも好き。だから、自分の性格にしっくりくる日までビバップは出来ないなと。じゃないと嘘をついているような気がして。いつかタイミングが有ればやりたい、憧れみたいな感じ。

中山 色んな要素をやってるミュージシャンがいるけど、若手でもインプロビゼーションを中心にやっている方も出てきているよね。特に、ピットインは色々な音楽がミックスされてる。

本藤 そういうところが好きで働いているのもあるかもね。むしろ、私がこうなったのはピットインで働いたからかな。ジャズのこと何も知らずにピットインで働き始めて、音楽の聴き方もすごく変わって。今は、サブスクとかで簡単に音楽を聴けるけど、ライブミュージックじゃないと満足できない体になった。

中山 僕も中高の時、学割で近所のライブを見に行っていて、そこで「ライブを聴く」っていう習慣ができて、そこから抜け出せない体になったな。

本藤 この感覚を味わえているのは日本では一部だよね。これもサスティナブルに繋がる話だけど、音源を作って売るのか、ライブをするのかだと、ライブをする方が割に合わない。けど、それが無きゃダメで。今は、音楽を聴きに行くことが特別なことになり過ぎている。もちろん、そういう側面もあって良いけど、もっと日常的にないと。

中山 ホールに行く時は高いお金払って、おしゃれしてって感じだけど、ローカルな所に関してはもっと日常的にあって良いよね。今日はジャズ、明日はあそこのワインバーみたいな。

本藤 そうそう!居酒屋に飲みに行こうという感覚で。フラーっと。若い人から年配の方まで、フツーに同じように音楽の話をして、同じように良いって言う状況がすごく幸せだと思う。

中山 その為に、僕達がどんどんアイデアを出していきたいよね。

インプロビゼーションの魅力とは。

中山 気になるのは、さっき話したインプロビゼーションの世界って、取り止めがないというか、「自分とは何か」みたいな表現だよね。僕たちの耳って、ドレミの西洋音楽に飼い慣らされているから、「次にこうなる」っていう決まりがあるけど、インプロの世界って裏切りみたいなのがあるから、一般化しにくいと思ってて。「ジャズ」っていうハーモニーがあるものが、即興の要素が強くなると、商品として売りにくいんじゃないかな。もっとトラディショナルなスウィングジャズとか、そういうものの方が今でもポピュラリティーを得ていたりするよね。だけど、即興したいし、お客さんもその熱量が好きなところもある。美咲ちゃんが見てる世界はもっとインプロ寄りだと思うけど、どう感じる?

JAZZ SUMMIT TOKYO PREMIUMでも即興演奏(インプロビゼーション)を収録する機会があった。既存の音楽の枠組みを超えたクリエイティブな演奏である

本藤 やっぱり、インプロビゼーションの界隈はものすごくハチャメチャだけど、ある意味アングラで。楽器が出来なくても出来る。その人なりの表現があって、それを極めればいくらでも演奏として成立するというか。そこが良いところだと思う。インプロビゼーションやってる人達も、すごく開けた人が多くて、全ての人に対してウェルカムなんだよね。

中山 コミュニティとして成立しているから人気があるのかな?さっき言ってた、心地良いバランスとしてのコミュニティが成り立っているということ?

本藤 それもあるね。すごくたくさんの人に見られるのが良いかというとそれも違うけど。広がっては欲しい。インプロビゼーションは言ってしまったら、生活そのまま。生きていることそのまま。人間、生きているこの今もインプロビゼーションで喋っている。そういう、人間が当たり前にやっていることを使って交流しているだけで、誰がやったって良い。客席と演奏側の隔たりがゼロに近いのが好きだな。

中山 良いね!今度ぜひ覗きに行かせて下さい。

即興することの不安を取り除くために。

中山 僕も美咲ちゃんも吹奏楽出身だけど、吹奏楽をやっている人達をもっとジャズに巻き込む為にはどうしたら良いと思う?イメージとして、吹奏楽やっている人達って恐らく譜面があると安心する人達だと思うど、今の美咲ちゃんは譜面が無い方が色々できて安心なんだよね。どうやって変わっていったの?

本藤 今「Tokyo sound-painting」っていうバンドをやっているんだけど、「Sound Painting」っていうのは、ハンドサインを用いて音楽を展開していく即興作曲手法なの。思い返すと、大学生の時に現代音楽のゼミがあって、それが最初の即興演奏なんだけど、先生が指示してくれてその指示に従って音を出していったんだよね。

中山 なるほど。日本人って性格的に即興するのが難しいけど、「Sound Painting」みたいに、即興することの不安を取り除くって大事だね。

本藤 まず、何も決まってなくて何でもやって良いと言われると何もできなくなるんだよね。5歳くらいからそうなる。それこそ、「Sound Painting」を学校の授業に取り入れようとしてる方もいるんだけど、どんどんやって欲しいと思う。

中山 吹奏楽やってる人がジャズやる時って、「シング・シング・シング」とか「ルパン三世のテーマ」とかかな。そういうのを演奏してジャズを好きになっても、大学でビックバンド入った時に「ソロやって」って言ったら、「いやいや〜」ってなるんだよね。ジャズという音楽自体を好きになるのは簡単だけど、演奏する側に回るというのは心の壁を崩していかないとね。僕もレッスンしてて「どうやったらソロって取れますか?」って聞かれるんだけど、アカデミックなこと以上に「今どういう音を出したいか」が重要だよね。そういう、吹奏楽の方向けの「Sound Painting」とか、面白そうだよね。

本藤 それは面白いね。

中山 今日は本当に面白い話を聞けたけど、ぜひ、一緒に何かやっていきたいですね。本藤美咲さん、本日はありがとうございました!

文・編集 小林真由美

JAZZ SUMMIT TOKYO 公式webサイト
https://www.jazzsummit.tokyo/

▼サステイナブルジャズの動画はこちらにてご視聴いただけます。
動画配信サービス『JAZZ SUMMIT TOKYO PREMIUM』
https://www.jazzsummit.tokyo/premium

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