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無農薬のお米が教えてくれた。幸せは身体にすっとなじむもの。

「草取りなんてほんっとに大変」

「肥料を入れてないからたくさん取れないし」

「しかも水路や害獣対策も一人じゃ到底できないから村のみんなでやるしかないのよ」

「大変ですね〜」
そうしてみんな彼女が書いたお客さんへの手紙に目をやる

『広い空の下でどっぷり汗を掻くのも気持ち良いし、』

『でも収穫が少ない分、その確かな米粒をよそった茶碗に「ありがたいな〜」と心底しみじみするものです。』

『この、アナログな共同作業が心地よいのです。』

本当だろうか・・・・
彼女の力のこもった「大変なのよ」が印象的すぎて
一瞬、田舎暮らしのよさを書いた本人の文章を疑ってしまった。
そんな大変な肉体労働の日々では、自然の心地よさを感じる余裕もないのではないか。

ALBUSの編集教室で出会った彼女は、宮崎で家族と一緒に無農薬栽培のお米を作って生活している。
そんな彼女は、ひとしきり日々の手入れの大変さを語る。
決して小説やドラマの中のような優雅な田舎生活ではない。

都会でオーガニック健康志向な食事をしている女性の皆さん、
そういった食事は化粧も崩れるほど汗だくな現場から生まれているのです。

それほどに苦労して作ったお米はいったいどんな味するんだろう・・・
講座の最終日、彼女はみんなにお米を持ってきくれた。
お米はあっという間に売れてしまい、私を含め買いそびれた人には後日送ってくれるとのことで、住所だけ伝えてお別れした。

ところが、編集講座が終了して1ヶ月ほど経ってもあのお米が届かない。
「そうだよね。
取れる量も少ないって言ってたし、買うとも言ってなかったし、まあ来るはずはないか。」

さらに2ヶ月後、私は引越しの準備と土日返上で仕事をしたせいか風邪をひいてしまった。
体がだるく、すぐにでも横になりたいと急いで帰ったある日、
ポストの中にゆうパック便が届いていた。
開けるとビニールの中に2合ほどお米が入っている。

『その後元気にお過ごしですか?やっとこさ新米が食べられる様になったのでお便りさせて頂きましたよ。』

覚えていてくれたんだ!
そっか、新米を送ろうとしてくれたのね。
これが彼女とご家族が作った無農薬米「田守さん」!

すぐに食べるのも迷ったが、お米にも鮮度があるだろうと思い、
さっそく炊飯。

食べてみると、結構あっさりとしている。

母親が最近、グリーンコープの無添加牛乳をよく頼んでいて飲ませてもらったことがある。
牛乳なんだけど普段の味より脂肪分も少なく、インパクトも特にない。
でもすっと身体になじむ感じ。

高級米だから、もっと濃厚で米の香りも強いのかと思っていたら
とてもシンプル。
特に「わあ!」と、高級ステーキを食べたような感じでもない。

ほんとうにそのまんまお米。

だがしかし、

私の箸は次から次へとお茶碗のお米を口に運び、
いつの間にか、いただいた田守さん2合を全て平らげていた。

おいしい。
ずっと食べていられる。

風邪で弱った身体にすっとなじむ味。
彼女が届けてくれたお米が元気をくれた。
なんだか田守さんの栄養が、私の体の中で風邪を撃退してくれているような気分になった。

米作りを大変と語るその言葉も、やりがいを書いた手紙も、
どちらも彼女の本音なのだろう。

そうしてできたお米は、本当に気づかないうちにさらっと食べきってしまった。

ジャズもそう、良い演奏ほど違和感がなさすぎて
難しいフレーズや、大事な箇所も当たり前のように聴き流してしまうことがよくある。
良いものほど違和感がないから、あっという間に消費してしまう。
そして毎日消費していると、どんなに価値があるものか忘れてしまうんだ。

「失って初めて気づいた」

恋愛ソングでよくある歌詞。
やっぱり幸せって、そういう感じのものなのだろう。
ステーキじゃないんだ、無農薬のお米みたいなものなんだ。

ほんとうにささやかで、
かすかなもので、
とっても大切なもの。

私が目指すアドリブはきっとそんな感じ。
それを実現するには、彼女のお米作りくらいの努力が必要なんだろう。

フェイスブックを見ると、
子供達と自然の中でいきいきと活動している彼女の姿があった。
彼女らしい元気な笑顔で、写真に写っている。


その後、ぐっすり睡眠をとり私の風邪は快方に向かった。
まあ、風邪薬も飲んだので
ちょっとお米に対する表現は大げさかもしれないけど。

おいしい食材と睡眠。
風邪を治すにはこれが一番と実感。

この上なく贅沢な風邪滋養を経験できた。
あー幸せ。

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