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スーパーボウル2021にみるこれからのエンタメが打破すべき『当たり前』

コロナ渦において、「炎上しない」エンターテインメントはあるのか、メディアが注意すべきこととはー。

未だコロナ収束の目処が立たないアメリカで、一時は中止も噂された毎年恒例の国民的祭典には、スタジアムを埋め尽くす数万人の観客の姿があった。ワクチンを接種した医療従事者7500人の招待を含む25,000人の観客に加え、大きなスタジアムを埋め尽くしていたのは、30,000人の○○だった。

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(PHOTO BY EVA MARIE UZCATEGUI TRINKL/ANADOLU AGENCY VIA GETTY IMAGES)

スーパーボウルとは?

スーパーボウルはNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)の優勝決定戦。アメリカンフットボールの最上位の大会であり、知らぬものはいないアメリカ最大のスポーツイベントである。全米の注目が集まるTV中継番組は、毎年視聴率40%超えだという。日本でもスポーツ好きな方はもちろん、試合の中盤ブレイクの間に行われるエンターテイメント、通称『ハーフタイムショー』は毎年欠かさずチェックするという方も多いだろう。最も有名なハーフタイムショーといえば、やはり1993年のマイケル・ジャクソン (Michael Jackson)。スタジアムの巨大スクリーンの上から登場したかと思えば、中央のステージに瞬間移動。およそ2分間にわたって直立不動、微動だにしないというオープニングの圧巻のパフォーマンスは、今でもエンターテインメントの世界で伝説として語り継がれている。

最近では、2017年に300台のドローンを用いたレディ・ガガ (Lady Gaga)のハーフタイムショーをYouTubeなどでご覧になった方もいるだろう。LGBTQ+へのサポートや同年にアメリカ大統領になったドナルド・トランプ(Donald Trump)と彼の政権に対する批判を込めた強烈なメッセージ性ある彼女らしいパフォーマンスが話題となった。この時、ラスベガスのカジノホテルで勤務していた私も、友人らと職場にあるスポーツベットのバーで周囲のお客さんたち共にとても盛り上がったのが記憶に新しい。

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(実際の写真)


満席のスタジアム。その理由は...

今週日曜日に開催された第55回スーパーボウル (Super Bowl LV)の様子をSNS等でみて、パンパンに埋め尽くされたスタジアムの観客席をみて驚かれた方も多かったことだろう。しかし、よく見てみるとそこにあったのは数万枚もの等身大パネルで、実際の観客はさほど目立っていなかった。

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(AP PHOTO/CHARLIE RIEDEL)

ミズーリ州カンザスシティに本拠地をおくカンザスシティ・チーフス (Kansas City Chiefs)とフロリダ州タンパに本拠地をおくタンパベイ・バッカニアーズ (Tampa Bay Buccaneers)とが全米チャンピオンを争う決勝戦は、レイモンド・ジェームス・スタジアム (Raymond James Stadium)にて、54年の歴史の中で最も少ない観客動員数で行われた。

NFLは観客上限を当初22,000人までと発表していたが、全米で昨年コロナの最前線で戦った医療従事者7500人を招待し、上限を25,000人まで引き上げた。

加えて約3000人の選手やスタッフ、チーム関係者が参加したとNFLは発表している。

しかしながら、スタジアムはファンがまさにそこで応援しているかのように見せかけた約3万枚の人型パネルの設置によって満席のように見えていたのだ。このボードは1人当たり$100で購入することができ、DJキャレド (DJ Khaled)やレディガガ (Lady Gaga)らなど著名人の顔もみられた。

NFL広報代表のブライアン・マッカーシー (Brian McCarthy)のツイートによると、「実際にスタジアムで観戦するファンやワクチンを接種した医療従事者らのソーシャルディスタンスを保つ役割をカットアウト(人型パネル)は担っている」とのこと。

加えて視覚的効果も期待できるとして、「私が午前8時に会場に到着した時、スタジアムが満席に見えたんだ」とマッカーシーは言う。


ネット上での反応

しかし大会本部側が、新しいスポーツ観戦方法の成功に喜びの声をあげる中、その満席のスタジアムに対して疑念を抱く人々もいた。

「コロナウイルスが変異していく様を高画質8Kで観てる。」
ー アンナ・ドレーゼン (作家/コメディアン)

特に1年以上家族とも会えない状態が続き、今もなおロックダウン状態の続くエリアに住む人々にとっては、その大半がパネルとはいえ数万人のお客さんがスタジアムで観戦していたことに苛立ちを隠せないのも当然だろう。

「周りの人と自分自身がウイルスに"感染"しないように、自宅で隔離生活を10ヶ月送っている僕と同じくらい、生で"観戦"している人達もスーパーボウルを楽しんでいることを願うよ。」
ー ライアン・スタイルズ (コメディアン)

スタジアムがあるフロリダ州ヒルズボロ郡 (Hillsborough County)によると、統計では1日の感染者数は直近の2週間で612人から423人へと減少傾向にあるという。

「NFL公式: 『スーパーボウルの観客は22,000人が上限で安全な間隔を保たれています。』
実際のスタジアム: 画像」
ー ロジャー・シャーマン (記者)

一方でフロリダ州は米国内で3番目に感染者数が多い州とされている。

「こんなたくさんの観客がいるんじゃ、今年のスーパーボウルの真の勝者はコロナだな。」
ー アーメド・アリ (健康医学者)

スタジアムの最大収容人数は65,000人で30,000人分の人体ボードが設置されたとしても、会場は満員にはならない。会場を埋める過半数以上が実際に観戦していた熱狂的なファン達であったことに違いはない。

「オーマイガー!2時間SNSから離れている隙に絶好の機会を逃した。スーパーボウルのスタンドが"プラスチック"の人で埋まってるのをみて皆と一緒に絶叫したかったわあああ!」
ー カーリー・ワイゼル (リポーター/テーマパーク調査員)

このような海外でのイベントで起きたことは、決して遠い国の話ではなく、非常に近しい状況にあることは間違いないので、人々の反応や対応策を参考にして日本国内の文化芸術・スポーツ観戦の復興に活かしていく上で非常に重要な例になったことであろう。


ハーフタイム・ショー流コロナ対策

さて、コロナ禍でのスポーツ観戦という観点から少し話は進み、ハーフタイムショーにおける感染拡大防止と共存する大規模パフォーマンスの可能性をみていこう。

全米、いや全世界が注目するショーのステージに今年立ったのは『ザ・ウィークエンド (The Weeknd)』。本名エイベル・テスファイ (Abel Tesfaye)、カナダ・スカーバロー出身、30歳のR&Bシンガー兼音楽プロデューサーである。彼の名前を聞いたことがないという方でも、今回のハーフタイムショーのパフォーマンスを見れば、「この曲もあの曲もThe Weekndなのか!」と聞き覚えのあるメロディーの連続にきっと驚くことだろう。

日本でもアメリカでも特に厳重に規制がしかれるエンターテインメントの世界。そんな例年には無かった異様な緊張感と共に高まる全世界の注目が頂点に達した時、The Weekndのソウルフルなパフォーマンスが幕を開ける。そこには、観る者全てを驚愕させる『新たなエンターテインメント』とまさしくアフターコロナにふさわしいショー制作の指針があった。

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