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線 - 独り言ノート



▼日本に国境線は無い。強いて言えば、それは海であり宇宙(そら)であり。一方、世界各地では今もなお国境線間の衝突が続く。巨大な壁を築くことで移民を撥無して、国境を争う山脈地帯で軍が衝突し、大量の死亡者を出した。こうした争いがいま、グローバリズムの時代に起きている。そう遠くない、同じ先進国で起きている。しかし日本で生まれ日本で育ってきた人々のなかには、国と国との間にある"線"が彼らにとってどれほど大切な歴史であるか、いまいち想像がわかないという人も少なくない。


▼日本の隣国といえば韓国。中学高校と第二外国語の授業が普及し、韓国語を当たり前に話せる十代も多いということを知ったのは、話題の韓国ドラマ『愛の不時着』を友人から勧められたときである。南の令嬢がパラグライダーの事故で北に不時着する。荒唐無稽な恋愛ものかと思いきや、随所に描かれる北の暮らしぶりから目が離せなくなった。


▼ソウル在住の知人によると、製作陣は多くの脱北者に会い、「北」考証に努めたという。南の化粧品を手に有頂天の女性。停電で止まった列車に群がる物売りの村人。北の当局者はよほど腹にすえかねたのか、「虚偽と捏造に満ちた不純極まりない反北ドラマ」と罵倒した。


▼毎年6月15日は朝鮮史に残る特別な日。20年前、南北首脳が共同宣言を発表し、平和的方法による統一を誓った。2018年の南北首脳会談では夕食会にマジシャンが出演し腕前を披露。両国間の雰囲気を一気に和ませ、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と韓国の文在寅大統領とが新共同宣言に署名する歴史的瞬間の立役者となった。


▼同年、韓国釜山で開催された3年に1度のマジックの祭典、FISMには様々な国と地域からマジシャンが集い、北朝鮮のマジシャンもそこに招待された。他のエンターテインメントでは成し得なかった、異例とも言える世界初の芸術文化を通じた南北交流が、世界外交の注目の的となった。しかしそれ以降、和解は進まず、ついに今月16日、北朝鮮が脱北者団体のビラ散布を激しく非難した後、「南北融和の象徴」である南北共同連絡事務所を爆破。「完全に破壊」した。


▼ドラマでは、ソン・イェジン演じる南の令嬢セリが、北のジョンヒョク中隊長(演: ヒョンビン)との別れを前にこう語りかける。『私はアフリカにも南極にも行けるのにあなたはよりによってここ(北朝鮮)にいる』。近くて遠い二つの国。それは決して朝鮮半島だけの話ではない。各国共和の夢に酔う日はもう来ないのだろうか。


▼地球に国境線は無い。強いて言えば、それは海であり宇宙(そら)であり。線は区切るためのものではなく、点と点とを繋ぐものであって欲しい。


*この記事は2020年6月に公開されたものを、再編集して新たに投稿したものです。

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