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何処かの短編

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とある何処かの、ちょっとおかしなちょっとした話
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2021年12月の記事一覧

缶詰

何処かのワンルーム 男が一人、炬燵でだらだらしている 今日はまた一段と寒い ピンポーン と、玄関のチャイムが鳴る 振り向く男、心当たりはない 男はちょっとだけ警戒しながら玄関へ向かいドアを開ける 「はい」 「あ、すみませんあの、向うの端に住んでる者なんですけど」 「はい」 「これあの、缶詰、実家から送って来たんですけどもしよかったら」 「あー、ありがとうございます」 「あの、まだ全然家にあるんで」 「あ」 「すいません急に」 「あーいえ、ありがとうございます」 ドアを閉

エスカレーター

何処かの駅 仕事帰りの男が一人、電車から降りてエスカレーターに乗り込む 立ち止まってポケットからスマホを取り出す男 ゆっくりと上がっていく 「すみません」 と、後ろから声を掛けられて振り返る男 ワンピースの女が此方を見ている 「はい」 「これって上まで行きますか?」 「はい?」 「上まで行きたいんですけど」 「行くと思いますよ」 「ありがとうございます」 男は質問の意図が掴めないまま質問に答えて向き直る ゆっくりと上がって行くエスカレーター 再びスマホに意識を戻す