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AU#37:女性アスリートにおける骨盤底筋トレーニング:ランダム化比較(RCT)パイロット研究1

序文
尿失禁(以下、UI:Urinary Incontinence)は一般的に高齢女性や経産婦の問題と捉えられがちですが、アスリートにもよく見られる疾患です。これは、ジャンプやランディングの際に足裏などに強い衝撃がかかる「ハイインパクトスポーツ」において腹筋が収縮することで腹腔内圧の増加が引き起こされ、その結果骨盤底筋(以下、PFM: Pelvic Floor Muscle)にストレスがかかることによって引き起こされると考えられています。2実際にエリートアスリートを対象にした研究によると、尿失禁の有病率は男性アスリートでは14.7%、女性アスリートでは45.1%であり、女性アスリートの方が尿失禁を患う可能性が高いことが分かっています。3また女性プロアスリートは、運動をしていない女性に比べて、UIのリスクが約2.5 倍高いという報告もあります。4 これらのうち、体操や陸上、バレーボールといったハイインパクトスポーツは、そうでないスポーツよりも UI の発生率が高いことがわかっています (80% 対 5.56%)。5したがって、体力のあるアスリートは、“定期的な運動により PFMが強いためUI の発症を予防できている”という考えには、疑問が投げかけられるべきです。アスリート特有の問題に合わせたトレーニングを考えるよいきっかけになればと思います。

論文概要
背景・目的
女性アスリートは、バレーボール、陸上、体操といった高頻度または高強度のジャンプ等を伴うハイインパクトスポーツで一般的に怪我のリスクがあり、それにより腹圧性尿失禁(以下、SUI: Stress Urinary Incontinence)になりやすい。国際女性泌尿器科学会/国際禁制学会は、SUIを、身体活動、またはくしゃみや咳をしたときの不随意の尿漏れと定義している。最近の研究では、バレーボールなどのハイインパクトスポーツをする若い女性は、SUIを発症するリスクが高いことが報告されている。アスリートにおけるSUIは、腹圧の上昇にさらされる頻度の高さに関係する傾向があり、会陰筋の適切な認識や強化に関係なくハイインパクトな運動中に腹筋群を収縮させることによって引き起こされる。PFMおよびその最大随意収縮は、生涯に渡って排泄コントロールを維持するために重要である。PFMの機能不全は生活の質に影響を及ぼし、不快感、拘束、不安、社会活動への参加低下を引き起こす可能性がある。
排泄コントロールのメカニズムには、PFM、尿道、膀胱、支持靭帯の複雑な調整が必要である。このメカニズムには、横紋筋(随意制御)と平滑筋(不随意)が含まれる。横紋筋は、運動生理学の原則(特異性、過負荷、可逆性)に基づくトレーニングプログラムの要件に適応する。最初の 6~8 週間の筋力増加は、主に神経性(運動単位の活性化と動員の頻度)による。筋肥大も 6~8 週間の間に始まり、何年も続く可能性がある。一般的に筋肥大はすべての筋線維で起こるが、遅筋線維よりも速筋線維においてより起こりやすい。骨盤底筋トレーニング(以下、PFMT: Pelvic Floor Muscle Training)は、筋断面積を増やすことで筋肉の形態を変える。また、追加の運動単位を動員する能力と覚醒頻度を高めることで、神経筋機能も改善する。さらに、筋緊張と結合組織の粘弾性特性も改善する。PFMT は、特異性、強度、休息時間、頻度、量、持続時間の漸進的なトレーニングである。
多くの研究で、PFMT は SUI の効果的な治療法であると結論付けられている。しかし、エリート女性アスリートを対象にしたPFMTの有用性に関するRCT研究はあまりなされていない。この研究の目的は、エリート女子バレーボール選手におけるPFMTの効果と、それがSUIに対する効果的な治療法であるかどうかを調査することであった。

方法
この研究には18 歳から 30 歳までの14 人のエリート女性バレーボールアスリート(未経産)が参加し、SUIの有無に関わらず実験グループとコントロールグループにランダムに割り当てられた。実験グループは、16週間、下記の3つのフェーズで構成されたPMFTを自宅と普段のトレーニングに追加して行った。この間、コントロールグループはいかなる介入も受けなかった。両グループ16週間のトレーニング期間前後において、PFMの最大随意収縮の測定とパッドテスト(尿吸収パッドの重量増加の測定による尿漏れの定量化)が行われた。最大随意収縮は会陰圧測定器で、不随意尿漏れはパッドテストで評価された。トレーニング期間前後において、最大随意収縮とパッドテストの結果に有意なグループ差があるかどうかを評価するために、繰り返しのある二元配置分散分析(時間×グループ)が用いられた。

1.意識/安定化(2週間、自宅にて)
目的:PFM の認識と知覚、その位置、およびこれらの筋肉を適切に収縮させて姿勢と呼吸のダイナミクスを作る能力を習得すること
エクササイズは横臥位から始まり、徐々に立位へと移行
収縮10秒+弛緩10秒(10 回)

2.筋力トレーニング(2週間、自宅にて)
目的:徐々に”力む”力を高め、より多くの運動単位を動員し、 PFM を肥大させることで筋肉を強化すること
エクササイズは横臥位から始まり、徐々に立位へと移行
1・2 セット目:収縮 6 秒+弛緩 3 秒 (5 回)
3 セット目:収縮 5 秒+弛緩 2 秒 (5 回)
4 セット目:収縮 10 秒+弛緩 2 秒 (5 回)
5 セット目:収縮 5 秒+弛緩 2 秒 (5 回)
6 セット目: 収縮 8 秒+弛緩 4 秒 (5 回)
7セット目:収縮 6 秒+弛緩 3 秒 (5 回)
8セット目:収縮 10 秒+弛緩 2 秒 (5 回)

3.パワー(12週間、トレーニング中に)
目的:腹圧が上昇した状況で PFM の反応能力を向上させ、その結果として機械的効率を高めること
[パートI:4週間]アスリートは一般的なエクササイズに基づいて骨盤底筋のパワートレーニングを行う。
[パートII:8週間]毎日の練習にエクササイズを取り入れるために、プレーするスポーツに応じて特定のエクササイズを行った。このフェーズは、アスリートのトレーニングに合わせて調整された。各アスリートは、コーチが要求する各エクササイズに従って、骨盤底への下向きの圧力が増加する直前と最中に、タイミングよく 1/2 秒で素早く強い収縮を行うコツテクニックを実行する必要があった。シリーズの数は、コーチが要求したものによって異なった。

結果 
14人の参加者のうち、13人(実験グループ:7人、コントロールグループ:6人)がすべての実験課程を終了した。
最大随意収縮 [単位:cmH₂O]
実験グループにおいて、トレーニング期間前後で有意に増加した(p<0.001)。
[トレーニング前:60.80 ± 19.72 vs トレーニング後:78.75 ± 18.36 (平均±標準偏差)]トレーニング期間後において、グループ間に有意な差が認められた(p<0.001、実験>コントロール)。
[実験グループ:78.75 ± 18.36 vs コントロールグループ:55.13 ± 30.97]

パッドテスト [単位:g]
実験グループにおいて、トレーニング期間前後で有意に減少した(p=0.025)。
[トレーニング前:2.71 ± 2.14 vs トレーニング後:1.29 ± 1.70]
トレーニング期間後において、グループ間に有意な差が認められた(p=0.039、実験<コントロール)。
[実験グループ:1.29 ± 1.70 vs コントロールグループ:2.00 ± 1.67]


結論 
本研究では、4か月のPFMT後、コントロールグループと比較して実験グループではPFMの最大随意収縮が向上し、尿漏れが減少した。PFMT によるPFM の強化によって、尿失禁の症状を改善できる可能性がある。

まとめ
近年、アスリートのSUIに関する疫学研究は進展していますが、トレーニング方法に関する研究はまだ不足しています。また、SUIはセンシティブな問題であり、アスリートが専門家に相談しにくいこともSUIの治療の障害となっています。命に関わる問題ではありませんが、SUIによる不快感や不安感はパフォーマンスに影響を与える可能性があります。PFMの機能不全のひとつであるSUIは、一見、ATが取り扱う疾患の中ではマイナーなものだと思われがちです。しかし、PFMは、腹横筋6や横隔膜7、内転筋群⁸などと連携しており、 ATが一般的に専門とする‟骨格筋”、それらの機能不全、またそれに伴う疾患等に大きく関連します。 今回のレビューが、アスリートにおけるPFMやSUIについて認識を高め、アスレティックトレーナーとしてどのような介入ができるかを考える一助になればと思います。

Reference
1. Pires TF, Pires PM, Moreira MH, et al. Pelvic Floor Muscle Training in Female Athletes: A Randomized Controlled Pilot Study. Int J Sports Med. 2020;41(4):264-270. doi:10.1055/a-1073-7977
2. Bø K. Urinary Incontinence, Pelvic Floor Dysfunction, Exercise and Sport. Sports Med. 2004;34(7):451-464. doi:10.2165/00007256-200434070-00004
3. Rodríguez-López ES, Calvo-Moreno SO, Basas-García Á, Gutierrez-Ortega F, Guodemar-Pérez J, Acevedo-Gómez MB. Prevalence of urinary incontinence among elite athletes of both sexes. J Sci Med Sport. 2021;24(4):338-344. doi:10.1016/j.jsams.2020.09.017
4. Roza TD, Brandão S, Mascarenhas T, Jorge RN, Duarte JA. Urinary Incontinence and Levels of Regular Physical Exercise in Young Women. Int J Sports Med. 2015;36:776-780. doi:10.1055/s-0034-1398625
5. de Mattos Lourenco TR, Matsuoka PK, Baracat EC, Haddad JM. Urinary incontinence in female athletes: a systematic review. Int Urogynecology J. 2018;29(12):1757-1763. doi:10.1007/s00192-018-3629-z
6. Vesentini G, El Dib R, Righesso LAR, et al. Pelvic floor and abdominal muscle cocontraction in women with and without pelvic floor dysfunction: a systematic review and meta-analysis. Clinics. 2019;74:e1319. doi:10.6061/clinics/2019/e1319
7. Park H, Han D. The effect of the correlation between the contraction of the pelvic floor muscles and diaphragmatic motion during breathing. J Phys Ther Sci. 2015;27(7):2113-2115. doi:10.1589/jpts.27.2113
8. Marques SAA, Silveira SRB da, Pássaro AC, Haddad JM, Baracat EC, Ferreira EAG. Effect of Pelvic Floor and Hip Muscle Strengthening in the Treatment of Stress Urinary Incontinence: A Randomized Clinical Trial. J Manipulative Physiol Ther. 2020;43(3):247-256. doi:10.1016/j.jmpt.2019.01.007

文責:山本あかり
編集者:井出智広、大水皓太 岸本康平、後藤志帆、柴田大輔、杉本健剛、千葉大聖(五十音順)


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