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AU#33: サッカー選手における前十字靭帯再建術後に残存するリアクティブ・ストレングスの低下

序文
リアクティブ・ストレングスとは、ストレッチ・ショートニングサイクルにおけるエキセントリック収縮からコンセントリック収縮に素早く移行する能力と定義されています1。前十字靭帯再建術(ACLR)後、長期に渡ってリアクティブ・ストレングスの低下が残存することがあります。残存したリアクティブ・ストレングスの低下は、急激な減速・再加速を伴う方向転換に支障をきたす可能性が考えられます。そのため、ジャンプテストでスポーツ復帰(Return to Sport)に対する準備度(Readiness)を客観的に評価する必要があると考えられます。例として片脚垂直跳びの跳躍高や片脚水平ホップの距離により左右差を測定する方法があります。しかし、水平ホップは主に股関節と足関節による力発揮で跳躍することから、膝関節機能の低下を特定することが困難です2。さらにこれらの変数(跳躍高・ホップ距離)だけでは、ジャンプ中の代償戦略を特定することも困難です。そこで、垂直方向のリバウンドジャンプによりリアクティブ・ストレングス・インデックス a(Reactive Strength Index: RSI)を測ることが提案されます。ACLR後の選手が患肢にてリバウンドジャンプを行う際、低下したストレッチ・ショートニング・サイクル機能を補うために接地時間を延長し、跳躍するための力を生み出すよう代償することがあります。この代償戦略は、RSIを測定することで特定することが可能です3。10秒ホップテストbは、跳躍高だけでなくRSIも測定できるため、ACLR後のプライオメトリック能力の低下を特定する精度が高いと期待されます。今回紹介する研究は、ACLR後のリハビリテーション後期に分類されるサッカー選手とマッチさせた対照群の間で、10秒ホップテストにおける跳躍高とRSIを比較しました。この研究から得られる知見が選手をより安全に競技復帰するための参考になれば幸いです。

論文概要

背景・目的

ACLR後、プライオメトリック能力の低下がよく見られる。垂直方向のリバウンドタスクによって、膝関節機能を対象にした評価ができるかもしれない。本研究の目的は、ACLR後の機能評価として10秒ホップテストの有用性を検証すること、また10秒ホップテストの跳躍高とRSIに関連する予測因子を検証しパフォーマンス構成要素を確立することであった。

方法
ACLR歴のあるサッカー選手73人およびマッチさせた対照者(年齢、性別、競技レベル等)195人を対象とし、10秒ホップテストbの跳躍高とRSIaと左右差を測定し、比較検討した。さらにシングルレッグ・ドロップジャンプc、等速性膝関節伸展筋力d、国際膝記録委員会e(International Knee Documentation Committee: IKDC)自己評価スコアを含めた10秒ホップテストに関連すると考えられるパフォーマンス予測因子を検査した。

結果
10秒ホップテストにおける跳躍高とRSIの非対称性はACLR群でのみ確認され、非対称性スコアは対照群と比較してACLR群で増加した(P< 0.001)。シングルレッグ・ドロップジャンプのRSIと膝関節伸展トルク(300°/s)は、10秒ホップテストの跳躍高 (R2 =20.1%) とRSIの有意な予測因子だった(R2 = 47.1%)。



まとめ
ACLR後に見られた垂直方向のプライオメトリック能力の低下は、膝関節伸展筋力とリアクティブ・ストレングスの低下が残存していたことが原因であると考えられます。 ACLR後の競技復帰テストにおいて、膝関節伸展筋力テストを使用することは一般的ですが、それに加えて10秒ホップやドロップジャンプのようなリバウンドジャンプテストを用いてRSIを測定することも必要かもしれません。スポーツ現場では、My Jump 2 (Carlos Balsalobre-Fernadez)のような安価なスマートフォンアプリケーションを使用することでRSIの測定が可能です4。リアクティブ・ストレングスを回復するためにはプライオメトリックトレーニングが効果的です。ACLR後のプライオメトリックトレーニングプログラムに関してはMatthew Buckthorpeの文献を参照して下さい4。

補足説明

  1. リアクティブ・ストレングス・インデックス(Reactive Strength Index: RSI): ドロップジャンプや連続したリバウンドジャンプテストで測定。跳躍高(メートル)を接地時間(秒)で割って得られる値。

  2. 10秒ホップテスト: 10秒間の連続した片脚飛び。手を腰に当てた姿勢からクォータースクワットの深さに沈み込み即座に垂直方向に跳躍する。Microgate社のOptojumpを使用し平均跳躍高とRSIを計測。

  3. シングルレッグ・ドロップジャンプ: 手を腰に当てた姿勢で台高15㎝から片脚で跳び降り、片脚着地後、即座に垂直方向に跳躍する。Vald Performance社のForce Deckを使用しRSI(跳躍高/接地時間) を計測。

  4. 等速性膝関節伸展筋力: Biodexを使用し等速性膝関節求心性伸展運動を角速度60°/秒および300°/秒で行い最大トルクを計測。

  5. IKDC Questionnaire: IKDC質問票を使用し、主観的な現在の症状レベル、特定の活動を行う能力、機能レベルを測定。

References

  1. Rebelo A, Pereira JR, Martinho DV, Duarte JP, Coelho-E-Silva MJ, Valente-Dos-Santos J. How to Improve the Reactive Strength Index among Male Athletes? A Systematic Review with Meta-Analysis. Healthcare (Basel). 2022 Mar 22;10(4):593. doi: 10.3390/healthcare10040593. PMID: 35455771; PMCID: PMC9031107.

  2. Kotsifaki A, Korakakis V, Graham-Smith P, Sideris V, Whiteley R. Vertical and Horizontal Hop Performance: Contributions of the Hip, Knee, and Ankle. Sports Health. 2021 Mar;13(2):128-135. doi: 10.1177/1941738120976363. Epub 2021 Feb 9. PMID: 33560920; PMCID: PMC8167345.

  3. Flanagan, Eamonn P PhD, CSCS1; Comyns, Thomas M PhD2. The Use of Contact Time and the Reactive Strength Index to Optimize Fast Stretch-Shortening Cycle Training. Strength and Conditioning Journal 30(5):p 32-38, October 2008. | DOI: 10.1519/SSC.0b013e318187e25b

  4. Haynes T, Bishop C, Antrobus M, Brazier J. The validity and reliability of the My Jump 2 app for measuring the reactive strength index and drop jump performance. J Sports Med Phys Fitness. 2019 Feb;59(2):253-258. doi: 10.23736/S0022-4707.18.08195-1. Epub 2018 Mar 27. PMID: 29589412.

  5. Buckthorpe M, Della Villa F. Recommendations for Plyometric Training after ACL Reconstruction - A Clinical Commentary. Int J Sports Phys Ther. 2021 Jun 1;16(3):879-895. doi: 10.26603/001c.23549. PMID: 34123540; PMCID: PMC8169025.

  6. Read PJ, Davies WT, Bishop C, McAuliffe S, Wilson MG, Turner AN. Residual Deficits in Reactive Strength After Anterior Cruciate Ligament Reconstruction in Soccer Players. J Athl Train. 2023 May 1;58(5):423-429. doi: 10.4085/0169-20. PMID: 37523420.

文責:杉本健剛
編集者:井出智広、姜洋美、岸本康平、柴田大輔、水本健太(五十音順)


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