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短期集中連載 「日本におけるベース・レジストリ戦略とJASTPROコードの未来」第3話(最終回)「シン・JASTPROコード」

【初出:月刊JASTPRO 2022年4月号(第515号)】

これまで、ベース・レジストリとJASTPROコードについてそれぞれ紹介して参りました。短期集中連載の最終回は、JASTPROコードの価値をさらに高め、日本のデジタルトランスフォーメーション(DX)に貢献するためには?というお話です。


本題へ入る前に、連載最終回の今さらで恐縮ながら筆者について少し自己紹介いたします。昨年10月JASTPROに入職、当協会に設置されている国連CEFACT日本委員会事務局の活動に携わりつつ、JASTPROコード事業におけるシステム開発や協会のDXに向けたIT環境整備に従事しております。これまで約20年間、通関、倉庫、配送といった物流業界に長く在籍し、情報技術に関わる職務に携わってきました。「物流×IT」を軸にそれなりの経験を積んできたという自負もありながら、当協会においてはまだまだ新参者。そんな筆者に任された最初の記事がこの連載となります。

ここまでの2回は、主として政府が公開している各種資料、海外含めたウェブサイト、当協会に残された資料、外部団体の印刷物バックナンバー等の書籍や関係者への聞き取りをベースに自身の経験なども交えて書いてきました。しかし、今回は少し毛色が違います。当たり前ではありますが、日本のDX戦略に照らし合わせたJASTPROコードの未来像など、これまで調べてきたどの資料でも扱われていません。そんなまだ見ぬ未来像を描くにあたり、はてどのような情報源に当たってみればよいのか。

しばらく悩んだのち、そもそもこの記事を連載している当協会機関紙の存在を思い出しました。まさに灯台下暗し。通巻で500を超える膨大な記事が毎月蓄積されてきているではないですか。早速、手掛かりを求めて月刊JASTPROバックナンバーの海に漕ぎ出しました。


改めて読み直してみますと、月刊JASTPROには、ありがたくもたくさんの方に寄稿をいただいております。特に同誌第501号(2021年1月発行)においては、株式会社野村総合研究所 主席研究員 藤野 直明様、上級研究職 入野 光広様よりいただいた「わが国の物流DX推進に向けたJASTPROの役割と重要性」という本連載のテーマにふさわしい特別寄稿が掲載されておりました。ここで改めてそのエッセンスに迫ってみます。

本特別寄稿では、これからの日本における物流が目指す姿(=物流DX)を描く「総合物流施策大綱(2021-2025)」策定に向けた有識者検討会による提言に沿った戦略実現の要として、JASTPROに寄せられた期待や果たすべき役割が記されています。「物流標準化の取組の加速」という項における「業種横断の事業所コード、事業所マイナンバーの利用」の章では「配送先はもとより、受発注先、運賃の請求先などの情報が共通マスタ情報として、高いセキュリティ下で、必要に応じあたかも自社のマスタDBのようにアクセスできる仕組みが必要である。(中略)筆者が候補として最も相応しいと考えるものが、日本輸出入者標準コード(以下、JASTPRO コード)である。」として、JASTPROコードが目指すべき未来の一つが示されました。

ご存じの方も多いかと思いますが、物流業界は上流から下流までの間で様々な事業者が分業し、それぞれの間で輸送手段、配送先、受発注先、運賃請求先を始めとした多岐にわたる情報のやり取りを行っています。しかしながら、その手段において電話・FAX、紙の伝票・台帳がまだ多く残っていたり、システム化されていても標準化されていないために広範な接続性が整っていなかったりします。そのため、各事業者は複数のシステムへの参加を強いられ、それぞれのシステムに合わせてデータを入力し直す必要があります。こういった非効率性や過大な負担の解消が課題とされて久しいのが、現在の物流業界の状況です。

そこで、本特別寄稿では物流情報交換のためのプラットフォームを設け、その上で既存の各社システムの配送先、受発注先、運賃請求先などの識別コードとJASTPROコードをマッピング(対応付け)し、他のシステムに受け渡して効率化を図るアイデアを披露いただきました。この提案は2020年秋に開催された政府の総合物流施策大綱検討会の中で提起いただいており、その後正式に策定された大綱本文※において、JASTPROコードの活用に関する事項までは踏み込まれなかったものの、基本的な考え方は反映されています。

※総合物流施策大綱 Ⅲ.今後取り組むべき施策→1:物流 DX や物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化(簡素で滑らかな物流の実現)→(3)物流標準化の取組の加速→④ 国際化やデジタル化を視野に入れた標準化の推進)


はて? なんで突然物流DX?この連載はベース・レジストリとかJASTPROコードの話じゃないの? となられた方、ここが本連載の肝となります。そこで、いったんここまでに出てきた関連用語の整理をしてみます。

まず、JASTPROコードは正式名称を「日本輸出入者標準コード」と言います。前回の復習となりますが、JASTPROコードの始まりは「荷主」を網羅したコードでした。荷主とはつまり輸出入を行う者を指すということで、JASTPROが事業を継承する際にこの名称を採用しました。

そして、この荷主が行う「輸出入」という言葉は関税法において明確に定義されています。「『輸入』とは、外国から本邦に到着した貨物(外国の船舶により公海で採捕された水産物を含む。)又は輸出の許可を受けた貨物を本邦に(保税地域を経由するものについては、保税地域を経て本邦に)引き取ることをいう。(関税法第二条第一項第一号)」、「『輸出』とは、内国貨物を外国に向けて送り出すことをいう。(同第二号)」というものです。

この定義から、次は輸出入に関わる要素を掘り下げてみます。貨物を「本邦に引き取る」「外国に向けて送り出す」のようにさらっと書かれていますが、これはつまり国を越えて取引を行う、したがって輸出入は「貿易」の手段であるということです。その貿易は、国際化著しいサプライチェーンを通じて現在の世界経済を支えています。そして、貨物を「引き取ったり送り出したりする」とは「貨物を物理的に動かす」ということですから、ここには「(国際)物流」という要素が不可欠なものとして現れてきます。このように、「輸出入」「貿易」「(国際)物流」「サプライチェーン」といった用語は、カバーする領域や階層が少しずつ異なるものの、密接に関連しあう要素であるということがわかりました。


これで、ベース・レジストリの整備と物流デジタル化が繋がります。なぜなら、両者が目指す本質は同じだからです。それは「標準化されたデジタル情報を共有して活用することで処理の重複を避け、一気通貫の処理を実現する」という点です。先の特別寄稿では、そのための重要な要素の一つとして物流にかかわる事業者を標準化されたコードとして運用することの必要性が説かれていますが、現時点でそのものズバリは存在しない、しかしながらJASTPROコードはその筆頭候補になりうるものだとされています。

つまり、(貿易=輸出入も含めた)物流という分野においてJASTPROコードがあたかもベース・レジストリの如く機能することで、日本全体のデジタル戦略の一端を担えるのではないかということです。具体的に言えば、これまでの輸出入者に加え、物流やサプライチェーンといった日本の物流DXを担うより多くのプレイヤーを対象としたコードに進化すること。そのコードを「発番、属性管理、変更管理などをセキュアにガバナンスできる保守運営サービス」を実現できれば、それはJASTPROコードの新しい価値になるのではないか、ということです。JASTPROコードが目指すべき未来が見えてきました。


それでは、そのようなシン・JASTPROコード(仮称です)実現に向けた具体的な方策を考えてみます。

まず、現在のJASTPROコードは登録情報に変更がない場合でも、3年毎に更新登録いただくことで情報の鮮度を確保しています。これは前回ご紹介したとおり、データの真正性に対する取り組みと言えます。今後標準化された物流関係事業者コードへと発展させるにあたっても当然継続、強化しなければならないことであり、コード事業の核としてしっかり腰を据えて取り組んでまいりたいと思います。

次に、この真正性に加えて「JASTPROコードを有している」ということ自体がその事業者の信頼性向上につながる、いわば貿易・物流事業におけるゴールド免許(優良運転者免許)のようなステータス性を持つことができれば、業界における事業者同士の協働促進にも貢献できるのではないかと考えています。国際物流業界におけるゴールド免許と言えばAEO(Authorized Economic Operator)制度が最初に思い浮かびますが、これと対立するものではなく、むしろ協調し、補完できる枠組みづくりを目指します。

ここまでくると、現在の「日本輸出入者標準コード」(英語名はJapan Shipper and Consignee Standard Code)という正式名称はもはや実態を表さなくなってきます。「名は体を表す」ということわざに従えば、これまでは確かにその通りの名称でありました。しかしながら、これからは「JASTPROコード」という皆様に親しまれてきた略称はそのままに、新しい名前を与えるのも良いかもしれません。いっそのこと、正式名称そのものを「日本輸出入者標準コード」から「JASTPROコード」に改め、輸出入者に限らずサプライチェーン(Supply chain)や貿易(Trade)、物流(Physical distribution)に関わる事業者(Operators)を登録(Registered)・網羅した(Japan All)コードを示せるような名前にしてしまえば良いのではないでしょうか。

試しにこれらをつなげてみると、

Japan
All
Supply chain
Trade (and)
Physical distribution
Registered
Operators
コード

つまり「日本におけるサプライチェーン・貿易・物流を網羅した登録事業者コード」となります。綺麗に「JASTPRO」というアクロニム(頭字語)が完成いたしました。


最後の言葉遊びはさておき、コード情報の真正性強化やコード登録事業者の信頼性向上・協働促進といった取り組みを進めていくためには、まずそれを支える当協会自体のDX、つまりデジタル技術の活用を通じた価値向上が絶対に欠かせません。この認識から、昨年より続けている取組みをさらに強化するため、本年度を当協会の「DX元年」と定めました。本誌連載記事「DXへの道」においても、これまでの取り組みをいくつか紹介してまいりました。本号では諸事情により休載しておりますが、次号からはコード管理システムの刷新を含め、さらなるチャレンジを紹介していく予定となっております。引き続きご愛読いただければと思います。

当協会におきましては、JASTPROコードに新しい価値を加えて日本の貿易・物流に一層寄与するための取り組み推進を強力にコミットしております。JASTPROコードを活用した貿易・物流事業者の共通基盤が実現できれば、これは物流DX、さらにはベース・レジストリ整備を含めた日本のデジタル社会実現に向けた取り組みに対する大きな橋頭保となるはずです。これからも、大きな夢を抱きながら着実な歩みを進めてまいります。(おわり)

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